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何をすれば整理解雇が有効になるのか

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 最近、人員削減のニュースを聞くことが多くなってきました。

 人員削減は、主に景気状況の影響を受けて行われていることが多いようです。ですから、人員削減をしようとする会社が増えているのも当然なのでしょう。

 厚生労働省が出している少し前の労働経済白書(平成14年版労働経済の分析)によると、人員削減は、従業員の士気の低下、従業員の労働時間の増加、優秀な人材の流出など全体としてマイナスの影響をあげる企業が多いそうです。その一方で、従業員の生産性の向上も見込めるとのことです。

 では、そもそも、人員削減はそんなに簡単に実施できるものなのでしょうか。

整理解雇の4要素

 人員削減には、いろいろな方法がありますが、どうしても退職に応じてくれない従業員がいる時には、整理解雇をしなければならないことがあります。

 しかし、整理解雇は、以下の4つのポイントを総合的に検討して、解雇に客観的合理的な理由があり社会通念上相当な時のみ有効と判断されます。
 したがって、ただ単に、人員削減の必要性(下の①)があるというだけで整理解雇が有効となるわけではないので注意が必要です。

 ① 人員削減の必要性

 ② 人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性

 ③ 被解雇者選定の妥当性

 ④ 手続の妥当性

人員削減の必要性

 不況で売上げが激減した、産業自体が衰退しているなどの理由で経営状況が悪化しており、人員削減もやむを得ないといえる事情があれば、“人員削減の必要性がある“と認められます。

 裁判例には、企業の経営判断を尊重し、裁判所が経営上の人員削減の必要性をとやかく言うことを差し控えているものが多く見られます。

 つまり、企業全体が経営危機に陥っていなくても、経営の合理化や競争力強化のために行う人員削減であっても、その企業の判断を尊重して人員削減の必要性を認める例が増えているのです。

【ナショナル・ウエストミンスター銀行事件】
(東京地方裁判所平成12年1月21日判決) 
 英国法人の銀行がアジア4か国の支店で行っていた貿易金融業務から撤退したことに伴い、そのポジションが消滅した東京支店のアシスタント・マネージャーを解雇し、その解雇の有効性が争われました。
 裁判所は、当該労働者との雇用関係を解消することには合理的な理由があり、使用者がその者の当面の生活の維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についても繰り返し説明するなど、誠意をもった対応をしていること、その他、諸事情を総合的に考慮すれば、解雇権の濫用とは認められないとしました。
【北海道交通事業協同組合事件】
(札幌地方裁判所平成12年4月25日判決)
 GPSシステムを導入したことにより、無線センターの従業員に余剰人員が発生したとして行われたタクシー会社の整理解雇について、裁判所は、「人員整理をする経営上の必要性については、経営者の合理的な判断に基づく裁量が認められるべきであり、タクシー業界の規制緩和・自由競争に備えて生産性を上げるためにGPSシステムを採用することは企業経営上合理的なものと認められるし、GPSシステムの採用によって無線センターに配属された職員のうち6名の職員が余剰人員なるとの判断も不合理とは認められないから、無線センターのうち6名を余剰人員として整理をする経営上の必要性・合理性は肯定できる」としました。

解雇回避努力義務

 人員削減をする際に、解雇はできるだけ避け、その他の方法があればそちらを優先的に進めるべきというのが、上記「②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性」です。

 しかし、裁判所は、常に回避措置を取ることまでは要求していません。

【シンガポール・デベロップメント銀行事件】
(大阪地方裁判所平成12年6月23日事件)
 外資系銀行の大阪支店の閉鎖を理由とする2名の労働者の整理解雇について、裁判所は、「小規模な人員しかいない職場において希望退職を募ることは、これによって原告らを就労させることができる適当な部署が生じるとは必ずしもいえないうえ、代替不可能な従業員や有能な従業員が退職することになったりして、業務に混乱を生じる可能性を否定できず、希望退職の募集によって、従業員に無用の不安を生じさせることもあるし、希望退職を募る以上通常の退職より有利な条件を付与することになるが、自然減による減少に比べて、費用負担が増加することになる。また、原告らが就労可能な部署が生じたとしても、東京支店への転勤は住居を移転した転勤となり、これに伴い費用が生じるが、原告らはその住居費、帰省費用などの被告負担を主張しており、被告がこれに応じれば、それは被告にとって負担となり、応じない場合には、原告らが転勤に応じるとは限らないから、その場合、希望退職を募ったことは全く無意味となる。これらの不都合を考慮すれば、被告が東京支店において希望退職の募集をしなかったことをもって、不当ということはできない。」としました。
【ナショナル・ウエストミンスター銀行事件】
(東京地方裁判所平成12年1月21日判決)
 「債務者は、平成9年4月14日に債権者に対し雇用契約の合意解約の申入れを行った際、特別退職金等、合計2334万5024円(就業規則所定の退職金802万2400円を除いても1532万2624円)の支給を約束し、さらに、同年9月1日に本件解雇を通告した際、これに335万8200円を上乗せし、同年10月6日、退職金名目で1870万3271円を債権者名義の銀行口座に振り込んでいるが、これは、債権者の年収(基本給12か月分に賞与を加えたもの)が1052万余円であることに照らし、相当な配慮が示された金額であるといえる。しかも、債務者は、就職斡旋会社のサービスを受けるための金銭的援助を再就職先が決まるまでの間無期限で行うことも約束している。以上を勘案すれば、債務者は、雇用契約終了後の債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮をしたものと評価することができる」として、解雇回避措置が困難な場合は経済的補償や再就職支援措置で足りるとしました。

かといって簡単ではない整理解雇

 ある程度、会社の事情を考慮してくれる裁判例が多くなってきているようですが、かといって整理解雇が簡単にできるようになったというわけではありません。

 配転・出向、希望退職者募集ができる状況にあるのであれば、まずはそれらを駆使して、解雇はできるだけ避けることが求められます。

 また、「③被解雇者選定の妥当性」(誰を解雇の対象者とするのか)や「④手続の妥当性」(協議や説明は十分に行ったのか)という要素も、裁判では大きなウェイトを占めます。

 確かにそりゃあ解雇するしかないね、解雇される従業員の保護も図るような努力をしているしね、と思ってもらえる状況が必要だということです。

 苦しい経済状況が続きますが、さらに苦しい裁判を強いられないよう、解雇の手続は慎重に進めるようにしましょうね。

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