妊娠中の従業員には軽易な作業を
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
Netflixで待ちに待ったヴァージンリバーのシーズン3の配信が始まり、毎日少しずつ見ています。
この話の中には可愛い赤ちゃんや妊婦が出てきますが、母親にはそれぞれ人間関係や健康上の問題があり、共感したり腹を立てたりして視聴を楽しんでいます。
現実世界の妊婦や母親も、ドラマに負けず劣らずの様々な問題を抱えているものですが、妊婦を雇う使用者は、妊婦の問題を少しでも軽減するため、軽易作業への転換義務を負っています。
産前産後の保護
使用者は、従業員が出産を6週間以内に控えていて休業を請求したときは、その従業員を就業させてはなりません(労働基準法65条1項)。
本人が休業を請求しなければ就業させてもかまいません。
これに対して、産後は8週間を経過しなければ就業させられません。いくら本人が働きたいと申し出たとしても、産後は必ず休ませなければなりません。
ただし、最後の2週間は、本人が就業を請求して医師が支障ないと認めた業務であれば、その業務に就かせることは可能です(労働基準法65条2項)。
軽易な作業への転換
出産を6週間以内に控えている時期は、いつ生まれてもおかしくない時期であると同時に、お腹が大きくて重くなっていますので、あまり機敏に動くことができません。
しかし、妊娠初期から中期にかけては、別の意味で妊婦の体はとてもしんどい状態になっています。
悪阻が酷くて横になっていても目が回っていた、流産の危険と隣り合わせで入院を余儀なくされた、という人もいます。
私の場合は、症状は軽い方だったとは思いますが、それでも洗剤・柔軟剤・ファブリーズなどの合成香料のニオイで吐き気をもよおしたり(この症状は、妊娠をきっかけに始まり、出産後10年近く経った今でも続いています・・・)、異常に眠くて会議が地獄だったり、電車で立っているのがしんどかったり、という感じで、妊娠していない時とは比べものにならないくらいの辛い時期を過ごしました。
妊娠5か月目くらいまではお腹の大きさが目立たないので、周りの人たちも気付きにくく手を差し伸べにくいという問題もあります。
法は、使用者に、妊娠中の女性の請求により、他の軽易な業務への転換義務を定めています(労働基準法65条3項)。
(産前産後)
第65条 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
② 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③ 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
どのような業務であれば「軽易」と言えるのかについて、法律で定められたものはありません。
通達では、「原則として女性が請求した業務」への転換であるとされています。また、業務内容だけでなく労働時間帯の変更も含むと解されています。
不利益取扱いの禁止
男女雇用機会均等法は、妊娠中の軽易業務転換を理由とした解雇やその他の不利益取扱いを禁止しています(男女雇用機会均等法9条3項、男女雇用機会均等法施行規則2条の2第6号)。
これは従業員が合意したとしても曲げられないルールです。
広島中央保健生協事件(最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決)
軽易業務転換を理由とする不利益取扱いかどうかが争われた裁判例として、広島中央保健生協事件があります。
この裁判例の上告人は、理学療法士として、医療介護事業等を行う消費生活協同組合でありA病院(本件病院)など複数の医療施設を運営している被上告人との間で労働契約を締結し、リハビリ科に配属され、後にリハビリ科の副主任としての業務についていました。
第1子の出産・育児休業を終えて職場復帰した上告人は、訪問介護施設に異動となって同施設の副主任になりました。
第2子の妊娠により、上告人は軽易な業務である病院リハビリへの転換を請求し、被上告人はこの請求を受けて上告人を病院リハビリへ異動させると共に、副主任を免じました。なお、副主任を免じることについては、上告人はしぶしぶながら同意していました。
その後、約10か月間の育児休業を取得し、育休明けに元の職場に復帰しましたが、その時には既に他の人が副主任になっていたため、上告人が副主任に復帰することはできませんでした。
そこで、上告人は、副主任を免じられたことが、軽易業務転換を理由とする不利益取扱いとして男女雇用機会均等法に違反すると共に、育児休業取得を理由とする不利益取扱いとして育児介護休業法にも違反するとして、損害賠償等を請求する訴訟を提起しました。
原審の広島高等裁判所は、本人が同意していたことと、副主任のポストが空いていなかったことを理由に、使用者としての裁量権を逸脱して不利益取扱いをしたとまではいえないとして、上告人の請求を認めませんでした。
これに対し、最高裁判所は、男女雇用機会均等法の不利益取扱いの禁止規定は強行規定であり、軽易業務転換に際して副主任を外したことには不利益があるから、それが例外として許されるには、上告人が自由意思で同意していたことや、業務上の特段の必要性があることが立証されなければならないとして、それらの特段の事情の有無を判断するよう、破棄差戻しをしました。
差戻しを受けた高等裁判所は、本件においてそのような特別な事情はなく、不利益取扱いの禁止に違反するものであるとして、上告人の請求を認めました。
軽易業務転換時の不利益取扱いに注意
最高裁判所が明確にしたように、妊娠中の軽易業務転換を理由とする不利益取扱いの禁止は強行法規です。
つまり、同意があっても許されない規定です。
例外として許されるには、相当強い理由が必要だということを念頭に置いておきましょう。
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