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育休明けの従業員を降格させることはマタハラ・・・?

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 よそんちの小さい子どもを見ると、可愛くて可愛くて触りたくてたまらなくなります。そんなに簡単には触らせてもらえないので、より一層触りたくなるんですけどね。

 こんな可愛い子たちですが、育てている親自身は結構大変です。
 親を取り巻く社会の環境が厳しいときには、大変さは格別です。

 配偶者の協力を得られない、経済的に苦しい、仕事との両立が難しい・・・など、子どもには何の関係もないことで親は悩み、小さくて弱い子どもを攻撃の対象にしてしまって、それでさらに自己嫌悪に陥って。

 やっと育休が明けて職場に復帰したと思ったのに、子どもはまだ小さくて、保育園からいつ何時呼び出しがあるか分からない。

 出産前のように自由に残業もできない。

 本当はもっとキャリア形成をして将来は会社で重要な役割を担える人材になりたいのに・・・

 こういう思いを抱きつつ、結局家庭との両立を実現することができなくて、諦めてしまっている人、特に女性は少なくないと思います。

 では、使用者としては、 育休明けの従業員に対してどのように配慮し、どのように働いてもらえばいいのでしょうか。

人事権の行使が権利濫用にならないこと

 使用者は、従業員をどのように配置しどのような業務に当たらせるかについて決定する権限、つまり人事権を持っています。

 ただし、この権利を行使する際には、それを濫用することは許されません(労働契約法3条5項)。

 では、どのような人事権の行使が濫用とされるのかについては、転勤命令拒否に対する懲戒解雇の有効性について争われた東亜ペイント事件で最高裁判所がこう言っています(最高裁判所第2小法廷昭和61年7月14日判決)。太字強調は私が付けています。

・・・使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

 つまり、業務上の必要性がないとき、または、他の不当な動機・目的があるとか、労働者に普通じゃない不利益を負わせるなどの特段の事情があれば、権利の濫用となる、とされたのです。

育休明けの降格について

 育休明けの従業員にどのような業務を与えるかについては、少し頭を悩ませるかもしれません。

 子どもが小さいうちは時短勤務を希望するでしょうし、子どもの急な発熱などで遅刻や早退の頻度も高まります。

 そのような従業員に、以前と同じ部署で同じ責任を持つ業務に就かせることは難しい、ということもあるでしょう。

 他方で、男女雇用機会均等法は、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止しています(同法9条)。

 妊娠を理由に簡単な業務に異動させ、それに伴って降格させたことが、男女雇用機会均等法で禁じられている不利益取扱いに該当するかどうかが争われたケースでは、最高裁判所は、女性労働者について、「妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすること」は、男女雇用機会均等法9条3項に違反する違法な行為であり無効だとしました。

 ですから、妊娠・出産を理由として(妊娠・出産等が終了してから1年以内の取扱いは“妊娠・出産を理由”としていると見られます)、不利益な取扱いをすると、法律違反の無効な行為であるとされる可能性が高まりますので、注意が必要です。

マタハラ

 マタハラというのは、マタニティハラスメントの略語で、妊娠・出産等に関して上司等から嫌がらせの言動をしたり、不利益取扱いをしたりすることです。

 事業主は、マタハラにより妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境が害されることのないよう、雇用管理上、必要な措置を講ずることが義務付けられています(男女雇用機会均等法11条の3第1項)。

 形式的には不利益取扱いをしていなくても、就労環境が害されるようなことがあってはなりません。

 子育ては、会社が一丸となってサポートするべき事項です。
 小さなころに愛情をたっぷり受けて育った子どもらは、きっと愛情溢れる大人になり、社会の役に立つ存在になってくれることでしょう。

 会社が従業員の出産・子育てを応援することは、社会の役に立つことであり、社会を良くする活動です。
 みんなで子育てをしている意識を持てる会社の風土を作っていって欲しいです。


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