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オオカミと犬の群れの違い

よく犬の飼い方を探すと、「飼い主さんが強いリーダーシップを発揮する必要がある」という趣旨で

・犬のご飯より先に人間が食事を食べなくてはいけない
・犬が服従のポーズと勘違いするから、寝っ転がったときに、上に犬をのせてはいけない
・犬が不適切な行動をしたら、たたくなどの体罰を行わなければいけない

などと説明されていることがありますが、実はこれは「大間違い」です。

犬が群れをどのように認識しているかということを今日はご紹介します。


オオカミの群れ

もともと、犬の祖先であるオオカミは、集団生活を送っていますが、哺乳類のような複雑な社会組織においても、共同で子供を育てるような群れは稀です。(オスとメスでの共同作業はありますが、群れの中で役割をそれぞれに持ってシッターをしたりというのは限られた事例です)

そもそも群れでいることのベネフィットは、食料・住環境の確保、捕食からの回避による生存率の増加、繁殖機会の増加などがあります。一方、デメリットとしては、感染症や病気のリスク、資源争いなどがあげられます。こうしたデメリットをできるだけ排除するために、オオカミは高度に発達した社会組織と行動様式を手に入れました。

この社会組織ではオスとメスで独立した階級制度を持ち、基本的に年齢が上であるほど序列が高くなります。この序列の頂点に立つ個体を「アルファ雄」「アルファ雌」と呼び、2番目以降は「ベータ」→「シータ」と階級が分かれています。

面白いことに、この序列は上位階級であればあるほど階級の違いが大きく影響し、序列の低い個体同士では階級の影響力が弱いのです。また序列の近い雄・雌の間には性別間の優劣がありません。つまり、アルファ雄とアルファ雌はお互いに争うことなく、互いの階級のTOPに立ち、群れを率いているのです。


アルファ・ベータの特徴

アルファの特徴としては

アルファ雌:繁殖期前後や最中は群れのメスへの攻撃性が非常に高まる
アルファ雄:テリトリー意識が高く侵入者への攻撃性は非常に高いが、群れの個体に対しては攻撃性が低い

ということがあげられ、リーダーとして外敵への攻撃性が高く、仲間への攻撃性はほとんどありません。

一方、ベータ(2番目)の雄はアルファ以外のすべての群れの雄への攻撃性が高いことが示されています。序列が低い雄は群れ内、外敵に対しても友好的なんです。

Tip
子犬や若年期のオオカミの間では序列がありません。この特徴は幼形成熟した犬にも引き継がれています。幼形成熟の詳細はこちら↓


犬の群れ

人間の飼育環境で犬だけの群れというのは存在しませんが、いわゆる野犬(人から独立した生活をしている)や野良犬などででは、どうやって群れを形成しているのでしょうか?

雄と雌のつがいから形成されますが、雌は子育て時には群れを離れ、育児中の雌同士で協力し合います。雄や育児中でない雌はこれにはかかわりません。また、人間のごみ箱周辺など、資源が集中している場所を共有しており、常に群れを率いる個体も存在するため、なんらかの序列があると思われますが、実はデータが乏しくほとんど立証できていないのです。

ただ、犬は、オオカミとは異なる幼形成熟という容姿と行動規範を獲得しているため、オオカミの子供に近い組織の感覚を持っていると想定されます。また、人間との共同生活を暮らすよう、何世代にもわたる交配を続けており、犬の特徴(シープドッグ、ガンドッグなど)が強化されています。


人間との優位性は?

これまでオオカミと犬の行動様式および社会構成が異なるのことを見てきましたが、同様に、人間ー犬の間における行動様式・社会構成は異なります。

人間がアルファの役割を持っているということを犬が認識しているか、ということはわかりませんが、少なくとも、一緒に暮らしている家族の中にベータ、シグマなどの細かい序列はありません。よく、家族の下から二番目だと思っているなどという話を聞きますが、犬はそんな序列を気にしているわけではありません。

でも、お父さんの言うことしか聞かない、お母さんにしか懐かない、こんな犬もいますよね?これは何かというと、リソースへのアクセス権を誰が握っているかということが左右します。リソースというのは犬にとってのご褒美で、おもちゃ、食べ物、水、スペースへのアクセス権をもっていることが上位者の特権となります。(アルファも優先的にリソースへアクセスする権利を持っています)

犬が催促するがままにご飯を与えていると、犬はいつでもフードにアクセスできると認識し、万が一アクセス権が与えられない場合に争いが起きます。(そもそも肥満になるから、欲しがられるまま与えてはダメなんですけどね!)

おもちゃやスペースなども、自分が所有権を持っていると認識してしまうと、取り上げられたときに攻撃性を見せることがあります。

こうした問題行動に発展しないようにするために、飼い主さんは犬のリソースを管理し、自由に犬がアクセスできないようにする必要があります。

Tip
特に、犬は食べ物の動機付けが非常に大きく95%を占めます。残り5%が空腹、質が高いフード、おもちゃなどとなっています。特にフードおよび食に関連するグッズ(フードボールなど)に関しては飼い主が管理し、犬に所有させないようにしましょう


まとめ

犬はオオカミと異なり明確な序列関係があるとの学術的根拠はありません。人は犬より先に食べなくてもいいです。犬が先に玄関に入るのも、馬乗りされるのも問題ありません。

ただ一点、犬が自由にフードやご褒美にアクセスできると後日その習慣を取りやめたときにストレスから攻撃性を示す可能性があります。フードやおもちゃは犬から見えないところ、手が届かないところにしまうようにしましょう。

そうすれば序列関係なんか意識しなくても、しっかり犬と信頼関係を築くことができますよ!


参考ブログ

このブログがこれまでのトレーニングの考え方の変遷などをうまくまとめてくださっていたので、ご紹介です!


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