見出し画像

ドッグトレーニングの歴史

新年早々、カウンセリングの申し込みや問題行動のご相談をたくさんいただいております。ちょうどコロナによる自粛期間が始まったのが去年の3月で、そこから半年くらい経過していますね。コロナの自粛明けに多かったご相談は分離不安でしたが、直近受けているご相談は、そのころにパピーを飼い始めて、体が大きくなっても甘噛みが続く、排泄の失敗が続くなど、いわゆる若年期での問題行動です。

このまま放っておくと、青年期でも続いてしまう問題行動ですので、ぜひ2021年気持ちも新たにトレーニングを始めましょう!とお伝えしていますが・・・


そもそもトレーナーさん選びってどのようにされていますか?


1.ドッグトレーニングの歴史

犬のトレーニングにはいろんなやり方があります。そもそも犬は持って生まれた本能をうまく使えるように選択交配されてきた背景がありました。牧羊犬、ネズミを捕る犬、護衛犬など、いわゆるワーキングドッグと呼ばれる犬種は犬種の特性も豊かですよね。一方で、そういった本能を強化してしまうと、それ以外の目的で犬を使役しようとしたときに、問題が発生してしまうことがあります。

そのため、トレーニングというのは異種間コミュニケーション、つまり人間と犬がコミュニケーションするために発達してきています。特に家庭のペットとして適応できるようにするための現代のトレーニングは1950年代の都市化とともに発展してきたといわれています。

それではいったいどんなトレーニング方法があるのでしょうか?


2.トレーニングの種類:コーラーメソッド

コーラー氏はオペラント条件付けの考え方に基づき、犬は自らの行動を自らの意思で選択すると考えました。オペラント条件付けはこちらでも紹介していますが、自分にとって良い結果を得られる行動は繰り返されやすく、嫌な結果を得られる行動は繰り返されにくい(減少する)という原理です。

つまり良い結果(報酬)を犬が期待していると行動量が増え、悪い結果(罰)を犬が予測している場合は行動量が減るというものです。犬が自らの選択肢の結果が快情動にも不快情動にもつながると学習すれば正しい選択をするように教えることができる、という考え方ですので、正の強化、正の罰、負の強化、負の罰いずれの手段も使っていきます。

3.トレーニングの種類:モチベーショントレーニング

一方で動物の動機づけを利用して、好ましい行動を強化する度に報酬を与え、好ましくない行動を無視するというのがモチベーショントレーニングと呼ばれるものです。これはソーンダイクの効果の法則に基づくものです。

動物はいろいろな試行錯誤を繰り返して、誤りが減り正解に近づいてくる学習を行うため、好ましくない行動に対して報酬をなくし(これが無視するということ)、好ましい行動に対して報酬を与えていきましょう、という考え方ですね。正の強化と負の弱化(罰)を使用していくやり方です。

最近はこの考え方を好む方が都心部を中心に増えていると思います。正の弱化(嫌悪刺激)を一切に使わずに、モチベーショントレーニングを使っていくということです。パピーをトレーニングする、初めて犬をトレーニングする、こんなときには有効ですね!



4:トレーニングの種類:優位的トレーニング

群れや優位性という言葉が犬のトレーニングに持ち込まれたのは1940年代です。1970年代のニュー・スキート修道僧らによって一層広がったといわれていますが、犬はオオカミであるという見解に基づき、オオカミはアルファが群れの個体を統制し、ヒエラルキー(序列・階級)に基づき群れで生活するため、人が犬を試合して統制しなくてはならないという考え方です。上下関係、有的立場という言葉によってなされる強制的なトレーニング方法ですが、現在ではこのトレーニング方法は推奨されていません。

これはよくある勘違いの一つですが、実は犬の群れに序列はないということが学術的に判明しているからです。

また、強制的なトレーニングを行う過程で正の弱化・負の強化を行いすぎると、犬に恐怖・不安の反応が多くみられることがあります。結果として人間とトレーニングすることを嫌がり無気力症候群になる犬もいます。

そのため、現在では、こういったトレーニングは効果的ではないといわれることが多いのです。

アルファロールについては、以下の記事でも書かれていますので、ぜひご参考になさってください。


5:じゃあどんなトレーニングがいいの?

生物学的に種が異なる犬と人間がコミュニケーション取れるようにするためには、トレーニングは必須です。ですが、そのトレーニング方法も学習理論もたくさんあります。ドッグトレーナーさんもいろんなやり方を学んでいる方がいらっしゃいます。

現在日本で一番多いのは、警察犬を育成するためのコーラーメソッドやアルファロールに基づく優位的トレーニングかもしれません。そういったやり方を否定するつもりはありませんが、もっと効果的なトレーニングとして

モチベーショントレーニング(陽性強化法ということもあります)

が一番お勧めです。学習効率が非常によいという側面と学習無気力症候群などのデメリットが低いためです。

何よりワンちゃんが楽しんでトレーニングしてくれるようになるので、飼い主さんもいろんなワンちゃんの姿が見れて楽しいんですよ!

トレーニングを検討されている方は、まずは正の強化、負の弱化をもとにしたモチベーショントレーニングをぜひ選択肢に入れていただくといいと思います。

6:モチベーショントレーニングの罠

ただ、このトレーニング方法でも問題行動が発症しているときは有効でない、問題行動が改善できないことがあります

その1つは犬にとってのご褒美を飼い主がなくせない(無視できない)場合です。

例えば、来客者に吠えるという犬がいたとします。この場合犬は来客者を追い払おうとして吠えます。すると宅配の方や回覧板を回しに来た近隣の方は必ずすぐに帰りますよね。犬は「吠えたことで追い払えた!」と学習してしまいます。ご褒美をなくすためには「吠えても追い払えない=ずっといてもらう」が必要ですが、実際問題としてなかなかできません。。。散歩中に他の犬に吠えるという問題行動も同じです。犬にとってのご褒美(怖い対象の犬や人がいなくなること)をなくせない、、、場合はこのトレーニング方法が有効ではありません。

もう一つは好ましくない行動の程度がひどく、人間や他の人や財産に被害が及ぶ危険性がある場合です。一刻も早くその行動を止めさせなくてはいけないというときは、時間的猶予がないため、このトレーニング方法が向かないこともあります。

そういう場合は、問題行動改善のプロに相談いただくことをお勧めします。ポジティブトレーニングでも改善しない場合は、嫌悪刺激を適切なタイミングで適切な程度で使えるトレーナーさんを探すと良いと思います。(チョークチェーンや体罰、電気ショックまで大きな程度の嫌悪刺激は使わないほうがいいと思います)

まれに、犬の問題行動がポジティブトレーニングで改善しないにもかかわらず嫌悪刺激を使うことは絶対に嫌だ!とおっしゃる飼い主さんがいらっしゃいます。もちろんすべてのケースで嫌悪刺激を使用するべきではないと思いますが、咬傷事故を起こしたり地域住民の迷惑になってしまうと、犬の生活が制限されてしまいます。一緒に旅行したり、他の犬と仲良くできるようにドッグランに連れていくなんてこともできないかもしれません。逆に一時的な嫌悪刺激を使用することで、問題行動が解消し、犬の生活の質が上がるのであれば、一つの方法として検討してもいいと思いますよ。


7:トレーニング手法を選択する上で気を付けていること

問題行動改善にあたっては、やはり動物にやさしく、公平で、効果があり、倫理的に正しいトレーニング手法を選択していきたいと考えています。

自身がトレーナーとして毎回自問自答しているのは

・選択した方法は動物にとって公平か?
・飼い主もうまく学習し、選択した方法を使うことができるか?
・飼い主も選択したトレーニング方法を使うことに前向きか?
・犬も身体的、精神的に活発にトレーニングを行っているか?

ということです。飼い主さんもトレーニングを行う際に、ぜひこういった視点を持ってトレーニングを選択できるといいんじゃないかな、と思います。また、トレーニング方法に疑問があったり、うまく習得できないということがあったら、どんどん質問したほうがいいと思います!できたつもりになって、全然違うトレーニングしていたら残念ですよね。。。

■こんな感じで合ってますか?
■そのトレーニングの意味が分からないので、なんでその手法を取らないといけないか、もう一度説明してください!
■もう一度今の動きをやってもらえますか?

実はトレーニングの進みが早い方というのは、こういう質問をどんどんしてきます。あるいは自分が下手だと思って、何度もトレーナーさんにトレーニング方法を見てもらっています。鏡を置いたりして、自分とトレーナーさんのどこが違うのか、ということを客観的に観察する方もいらっしゃいます。

一方、トレーニングの進みが遅いのは、トレーニング中に動画を取ったり、恥ずかしがって自分でトライをしない方です。トレーナーの動きをトレースしようとして、実際は全然マネできていなかったりします。

どんなトレーニング手法を選ぼうと、この手法だったらすぐにできるようになる!というものはありません。犬とトレーナーがどんなコミュニケーションをとっているのかをよく観察し、犬と一緒に飼い主さんも失敗をたくさんして、成功を増やしていく、その活動自体を楽しんでいただくと、もっと犬との生活が楽しくなるんじゃないかな、と思いますよ!


この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?