天然物で不安になり人工物に安心する

私は画一的な食品に安心する。同じ商品名であれば、どの商品も外観、栄養、味が似ている。ランダム性が小さいから結果を予想して買って食べることができ、期待した結果を得ることができる。

コンビニやスーパーで売っているパンやお菓子は袋に密閉されている。ネット等では、その食品を開封せず経時変化を観察し、賞味期限を遥かに超過しても外観がほぼ変化しないことを写真で示して説明する記事がある。この写真から「腐らないということは、それほど危険な保存料が使用されているということだ」と解釈して恐怖心を示す人たちがいるが、私は腐らない(ように見える)写真を見ると安心する。もちろん保存料の効果もあるだろうが、それだけではない。未開封のまま放置して外観の変化が小さいということは、袋の内部に存在する菌や微生物の量が非常に少ないということだ。だから私は安心して食べることができる。

菌・微生物・異物がコンタミする確率を下げ、外観や味の再現性を取るために、食品メーカーで働く方々はいったいどれほどのご苦労をなさっているのだろう。

もちろん私は手作りの食品だって好きだし、一つ一つの外観や味がバラバラな食品だって好きだ。しかし、画一的な食品にも魅力を感じる。

色素を使った鮮やかなお菓子には食欲をそそられる。人工的な色を見ると楽しくなる。ネット等の記事では、色素を添加した食品と色素無添加の食品を比べる写真があるが、たいていは「色素が怖い」文脈である。しかし私は「色素ってすごい。こんなにおいしそうに見えるんだ!」とワクワクする。

私はお薬の成分を読むことが好きだ。へえ、こんな化合物が使われているのか。この化合物が消化器官から吸収されて血液の流れに乗って体内を循環し、レセプターにぴったりはまって活性を示す…こんな奇跡のようなことを私はただお薬を飲むだけで体験できる。なんて贅沢なんだろう。

私はワクチンを接種するとワクワクする。注射されたその位置からワクチンが体内に拡散し、自分の身体の機能が更新される…過去の自分とは違う自分になれた気がする。

医薬品に副作用・副反応があることは私だって分かっている。分かったうえで摂取・接種しているのだ。

そもそも食品メーカーや製薬会社の社員が試行錯誤する以前に、何千年も前から人類が試行錯誤した歴史的な蓄積がある。何千年もの努力の「結晶」が今、私の手のひらに乗っている。ちなみに「結晶」は、比喩的な意味でもあり、化学的な意味でもある。

食品添加物、食品、農薬、医薬品、それらの人工物を「怖い」と感じる人もいるが、私は天然物(てんねんぶつ)のほうがずっと怖い。天然物に含まれる生物や化合物を特定することは困難であり、結果の予想が難しいからだ。特に生物は怖い。野生動物、道端の草、虫、微生物、菌、それらの生物がヒトに与える影響を予想することは困難であり、再現性を取りづらいからだ。その生物に共生・寄生している生物もいるだろう。さらにはウイルス、川の水や海の水、土のような無生物も私は怖い。花粉も怖い。

好き嫌いと正しさは違う。安心と安全は違う。様々な製品の品質と安全性を考えるためには、科学的なエビデンスを評価基準にすべきだ。個人の好き嫌いを基準にしてはいけない。法令だって数え切れないほどある。私だって科学的な手法と法令についての知識はある。しかし、科学と法令を大切にすることに加え、さらに個人の好き嫌いを主観的に表現する機会があってもいいのではないか。だから私はこの文章を書いた。私がこの文章で「私」という言葉をしつこいくらい繰り返していることは、もちろんわざとだ。

さて、ここまで私の文章を読み「人工物と天然物を区別できませんよね?」と思った方々もいるだろう。それは私も分かっている。人工物と天然物の中間もあるだろう。

ウィクショナリーによると「人工物」(じんこうぶつ)は、「人の手で作られた物。」だ。

Wikipediaによると「天然物」(てんねんぶつ)は、「生物が産生する物質のこと。」だ。「天然物」(てんねんもの)は「自然に山野・河川・海で生育した、食材となる動植物のこと。「養殖もの」という概念と対比して用いられている。」だ。今回の私の記事では「てんねんぶつ」のみを考えている。

私が天然物に比べて人工物を好む理由は3点ある。1点目に、人工物は人の好き嫌いを反映した設計がされているため。2点目に、人工物のほうが再現性を取りやすく、結果の予想が簡単であるため。3点目に、人工物からは人々の物語を感じることができるため。以上3点の理由から天然物と人工物が異なるのだが、これらの差異は、その生物、物体、現象が目に見えない場合、特に顕著である。

新型コロナウイルス感染症・COVID-19の流行により、人々の清潔感や忌避感に変化が起きているのだろうか。「穢れ(ケガレ)意識」はどのように変化するのだろうか。目に見えないものを見ようとする癖が定着しているのだろうか。もしかして「天然物で不安になり、人工物に安心する」人々が増加するのだろうか。科学技術コミュニケーションの観点から考えたい。

最後に、私が書いた記事へのリンクを載せよう。

新型コロナウイルスの批評・評論・論文まとめ

今回のヘッダー画像にはNotsugiさんの画像を使いました。ありがとうございました。

街河ヒカリを今後もよろしくお願いいたします。

検索用キーワード

科学技術コミュニケーション 天然物 人工物 安心 安全 違い 違う 意味 食品 色素 食品添加物 農薬 医薬品 ワクチン 有機 自然 新型コロナウイルス COVID-19 SARS-CoV-2 ケガレ けがれ 穢れ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?