晩婚さん カーテンと夫と優しさと
私と付き合う前、夫は不眠症だったそうです。
夫は真面目で誠実。まっとうな人生をすらすら歩むような人なのですが、いろいろあって、バツイチです。
バツイチの間は、仕事のストレスや将来の不安やらであまり眠れなかったそうです。酔ってなんとか寝たはよいけれど、突然大声で怨嗟を叫ぶ、といったロックな睡眠生活を送っていたとのこと。
付き合うようになって、少しずつ眠れるようになりました。
それでも、眠れなくなることへの恐れがあるせいか、新居に引っ越す際、寝室のカーテンは「絶対100%遮光!」と強く主張してきました。私はうっすら透けるくらいが好みなのですが、夫の意見に従いました。
そういうわけで、私たちの寝室は、カーテンを閉めると常に真夜中です。
平日はそれだと起きられないので、少し開けて寝ます。休日はカーテンをぴっちり閉めて、昼まで寝るのが二人の楽しみです。不健康ですが、あったかい布団と、暗い部屋と、夫の寝息。二人きりの隔絶された洞窟。私がたどり着いた安住の地です。
さて、夫は私より一日早く、1/4が仕事初めでした。
それなのに、私ときたら。
前日、夫の友人たちとの飲み会で飲み過ぎ、二次会カラオケでも酔っぱらい、夫に連れて帰ってもらいました。
だって、夫が仕事に戻ってしまうので寂しかったから…。
かわいこぶってみましたが、ただ飲みたかっただけです、はい。
翌朝、夫が起きた気配で目覚めました。もちろん二日酔いなので、私はベッドの中。
夫がシャワーを浴び、簡単な朝食を済ませたあと、寝室にやって来ました。スーツとシャツを取り、そのまま出ていくと思いきや、カーテンをぴっちり閉めてくれました。
昨晩飲み過ぎて迷惑かけたのに、
翌日仕事の夫をひき止めたのに、
朝も気ままに寝坊しているのに、
「ぐっすりお休み」と言わんばかりに、カーテンを閉めてくれました。
こんなにできた夫、私は他に知りません。
二日酔いの頭痛の中、喜びをかみしめました。うれしすぎてなんとか這い出し、夫をお見送りしました。もちろんその後二度寝しましたが。
私が一番嬉しい男性の優しさはこういうことです。家事をきっちり分担してくれたり、お姫様のように手を引いてくれたり、サプライズでバラの花を100本送ったり、とかではないのです。
私は好き勝手に生きたい人間です。それを許してくれて、かつダメなところをふんわりフォローしてくれる。そういう器の大きさ、揺るぎない余裕から出る、ささやかな優しさ。それが一番嬉しいのです。
翌日、カーテンを閉めてくれた優しさに私がどれだけ感動したか、夫に熱弁しました。またもやちょびっとほろ酔いで。
「違うよ、『ずっと寝てろ、起きてくるな』って思って閉じたんだよ」
と言ってましたが、照れ隠しですね、きっと。
幸せな結婚には、都合のよい思い込みが大事です。
そういえば、夫の夜の雄叫びですが、結婚して1年ほどは時折続いていました。でもその後はぱったりなくなりました。すうすう、穏やかな寝息をたてて寝ています。自由きままな妻ですが、夫も私の隣を安住の地と思ってくれているのでしょうか。
その様子は、私にタクヤを思い出させます。
一緒に暮らし始めたころは、常に戦闘体制。誰にも心を開かなかったのですが、徐々に距離を縮めて行き、いつの間にかお互いがかけがえのない存在になりました。
ついこの間も、うとうとしている私にそっと寄り添って、甘い声でささやきました。
「にゃあ」
タクヤは実家の猫です。カバー写真の左側のキジネコです。夫の次に、愛する男性です。
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