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言葉の宝箱0859【いくら与えても見返りがあるとはかぎらないのが男と女】


『ミリオンセラーガール』里見蘭(中央公論新社2013/4/25)


失恋した上にアパレル会社をクビになった沙智はファッション誌編集者を志し、中堅出版社への転職を果たす。だが配属されたのは営業局販売促進部、通称「ハンソク」。書店営業という聞いたこともない仕事だった。職場は地味、同僚たちは超個性的、仕事では挫折ばかり……。ファッション誌への異動を目標に奮闘する沙智だったが、ある日、無名作家の新作をベストセラーにせよとの特命を受ける。営業、編集、さらに業界全体を巻き込んでの戦いの日々。ミリオンセラーに向けた進撃に大喜びしていたその矢先──。
里見蘭さんは、担当編集者との出会いが大きなきっかけとなって、本作を書き始めたと語る。「営業を数年経験してきた彼の話を聞いて、とてもおもしろかったんです。多くの読者が思い浮かべる出版社の仕事といえば編集、しかも華やかなイメージ。でも“営業”という言葉には汗のにおいがしました。そして、一冊の本を読者に届けるにはまず書店員さんに認知してもらうこと、そのために書店営業という仕事はどれほど重大か、僕自身が前作『さよなら、ベイビー』の出版時に身をもって感じていたんです」綿密な取材に基いて出版業界の様子を描き出した。「批判覚悟で、業界の悪い部分も隠さず書いた」という。実際、かなりディープな情報まで盛り込まれており、業界入門書にもなりそうな内容だ。「ただ、関係者しか楽しめない内向きなものにはしたくなかった。だから主人公はアパレル業界から来たギャル系です。文化系女子には嫌われるかもしれないけど(笑)。表現も、なるべく読みやすいよう工夫しました」販売促進部のメンバーを始め、愛すべきキャラクターたちが続々登場。笑いの要素も満載だ。終盤には、お仕事小説として胸が熱くなる展開が待っている。素敵なエンターテインメント作品なのである。「取材を重ねて強く感じたのは、本の仕事に携わる人々の本への愛情です。この業界はそれに支えられている部分が大きい。そういう人々の姿を描きたいと思いました。出版界には今、町の本屋さんが次々閉店し、ネット書店の隆盛、電子書籍の普及といった激動の状況があります。本を愛して本の仕事をしている人々のもしかしたら失われてしまうかもしれないこの時を、物語の形に焼き付けたいと思ったんです」本が好きな人、本の仕事に携わる人は、本への愛おしさが募る物語だ。「一方で、本に興味がない人もぜひ読んでほしい。本の世界っておもしろい、そう感じていただけたら幸いです」
『職を求める』『道を見失う』『本をつかむ』『火をつける』
『夢をつなぐ』の5章。

・いくら与えても
見返りがあるとはかぎらないのが男と女 P8


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