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言葉の宝箱0668【誰かを守りたいと強く思うことは、その誰かに守られている】


『ランナー』あさのあつこ(幻冬舎文庫2010/4/1)


長距離走者として将来を嘱望された高校一年生の碧李は家庭の事情から陸上部を退部しようとする。だがそれは一度レースで負けただけで、走ることが恐怖となってしまった自分への言い訳にすぎなかった。逃げたままでは前に進めない。碧李は再びスタートラインを目指そうとする。少年の焦燥と躍動する姿を描いた高校陸上部を舞台にした青春小説。主人公の家庭環境は複雑で、痛々しい。

・ 言葉というものは、けっこう痛いものだとそのころ知った。
久遠のように正面から馬鹿やろうとぶつかってくるものなら、
まだましだった。
罵倒であろうと怒りであろうと、
発した者が眼前に立っているのなら受止めることはできる。
応えたのは、背後から相手不明のまま投げつけられる言葉の礫だ。
侮蔑と悪意をたっぷりと含んで背中に当たる礫は、小さいわりに痛い。
感情の痛点をきりきりと刺激する P29

 ・愛情は美しくなどない。いつだって相手を必要とする。
相手を束縛し、絡め、支配しようとする。
こんなにも愛している。だから、あなたもわたしを愛しなさい。
わたしはあなたのもの。だから、あなたはわたしのもの P70

 ・誰かを守りたいと強く思うことは、
その誰かに守られていることでもある P144
 
・愛情は美しくも、温かくもない。残虐で、貪欲で、浅ましい。
餓えた獣が獲物の骨の欠片まで食い尽すように、
相手の全てを所有したいと望んでしまう。嫌だ、醜い P175
 
・責任と幸せ。二つの単語がまるで結びつかない。
幸せって、誰かが責任を負うものなのか。
変だよ、なんか、ものすごく変だ。
そう抗いたいのに、安堵の息をついている自分がいる。これで楽になれる。だいじょうぶ、まかせろ。
その一言をずっと聞きたかったのだと気がついた。
もういい、後はまかせろ。
誰かがそう言ってくれるのを待っていたのだ P236


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