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言葉の宝箱0858【人生は、今生きているこのひとつきりで、やり直しはきかない。だからこそ貴重に思えるんじゃないか】


『彼女の知らない彼女』里見蘭(新潮社2008/11/20)


パラレルワールドからやってきた男に、「君は、すごいんだ」って言われた。私には気付いていない可能性があるんだってさ。金メダルが狙えるくらいの。だから、走ってくれないかって。「私」の影武者として、あっちの世界で。信じてみよう、この人の言葉を。素人だけど、走ってみる。42.195km。2016年、東京オリンピックを目指して。本気を出しもせずに、生きているつもりでいるのはもうやめた。並行世界の「私」のために、私自身のために。パラレルワールドで女子マラソンを描いたスポーツ小説。
第20回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。

・人間の経験の外に絶対的な現実があると考え、
それを、『客観的現実』と名づけた(略)
人生で起こるあらゆる出来事は、
あらかじめ、われわれにはどうにもならない力で決定づけられていて、
人間が、自分たちが自由に行動していると思っているのは幻想にすぎない、という考え方(略)
人生はアドリブのない舞台。わたしたちはみな役者。
誰かが書いたシナリオどおり踊ってみせるだけ P10

・人生は、今生きているこのひとつきりで、やり直しはきかない。
だからこそ貴重に思えるんじゃないか P14

・決断を下すたびに、
世界は少なくともふたつ以上に枝分かれしてゆく P33

・男ができて解決できる悩みもあれば、そうじゃない悩みもある P77

・失敗するのは、いやなことかな。
お父さんは、
やらないで後悔することのほうが、よっぽどいやだけどな P92

・マラソンは、結局、人間が自分の体をどれだけ効率よく使って、
可能なかぎり最大のエネルギーを生み出せるかが、すべてだ。
エネルギーが生み出される場所は、筋肉。
筋肉は、酸素を使って、エネルギーを生み出す(略)
レースの間、筋肉にどれだけの酸素を供給することができるか、
それが肉体面での最大のポイントとなる。
酸素を運搬するのは、血液中のヘモグロビンだ。
したがって、血管が増えれば、酸素の供給量も増える道理となる(略)
大きな血管は無理だが、全身に張り巡らされている毛細血管は、
トレーニングによって増やすことができる。
そのために最適な方法は、軽い負荷を長くかけること(略)
LSDの目的は、
毛細血管の発達をうながして筋肉への酸素の供給を増やすこと(略)
それにもうひとつ、
長い距離や時間を、自分の体におぼえ込ませる狙いもある P131

・プレッシャーを感じると、
人間は、どうしても、それを解消しようとか、克服しようと考える。
でも、それはまちがっている。
プレッシャーは、あってはいけないものなんかじゃない。
その本質は、力だ。
それから逃げようとせず、
自分の一部として受け止めれば、
君を飛躍させる、とてつもない力になってくれる P171

・焦ることで、自分が自分に消耗を強いていた P185

・本気で誰かと競い合ったことなんて、これまでなかった。
勝っても負けても、しこりが残るような気がしたし、
たとえそれが誰のものでも、むき出しの負けん気というものが、
夏子にはいつも気恥ずかしく思われた。
なんてさびしい人生だったのだろう。
本気になれなかったのは、何かに真剣に取り組んだことがなかったからだ。できるかどうかわからないことに、
それでも全力で挑んだ経験を持たなかったからだ。
本気を出しもせずに生きているつもりでいたなんて、
まったくの、思い上がりもはなはだしい。あらんかぎりの力。
人がそれを尽くすことの、何が恥ずかしいというのか。
それはむしろ、貴いことではないか。結果がすべてではない。
それでも、今わたしは、
きっと、地球上にいる誰よりも、負けたくないと思っている P205


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