<W杯2022>セネガルは“アフリカ史上最強”か? 🇸🇳現地リアル評
セネガルに住んで1年と少し。
毎週セネガル人たちとサッカーして、たまにセネガル国内のリーグ戦をスタジアムで観戦し、20年来好きなマンチェスター・ユナイテッドの試合は欠かさず全部観るという、子育ての傍らでサッカー三昧な日々を送っている。
そんな日常だけでなく、セネガルにとって歴史的だったアフリカネイションズカップ初制覇に沸く街を味わい、W杯アフリカ最終予選セネガルvsエジプトの激闘をスタジアムで観戦したりと、濃厚な1年を過ごしてきた。
セネガルでサッカーの底知れない魅力に何度触れたことか・・・。そして、FIFAワールドカップ2022カタール大会もセネガルから観戦する。
(ちなみに、W杯はセネガルの公用語であるフランス語で「Coupe du Monde(クープ・ドゥ・モンド)」という)
このnoteでは、日本で言及されることの少ないW杯におけるアフリカ勢の概観と、“アフリカ史上最強”と呼び声高いセネガル代表の現状に触れつつ、サッカー好きセネガル人にインタビューした内容について書いてみる。
4年前はGL全滅のアフリカ勢
グループステージ全滅――。
前回、4年前のW杯2018年ロシア大会でのアフリカ勢の結果は散々だった。
日本と同組だったセネガルは1勝1分1敗と、勝ち点・得失点差・得点数で日本と並びながら、反則ポイントルールによって敗退を余儀なくされた。
同大会ではエジプトが3連敗を喫した他、モロッコも1勝もあげられず、チュニジアとナイジェリアは1勝2敗で敗退。
16チームによる決勝トーナメントになった1986年メキシコ大会以降、アフリカ勢がグループリーグを突破できなかったのは初めてのことだったという。
これまでのW杯でのアフリカ勢の最高成績は「ベスト8」だ。1990年イタリア大会のカメルーン、2002年日韓大会のセネガル、2010年南アフリカ大会のガーナと、3カ国が準々決勝での戦いを経験している。
2002年日韓大会のセネガルは、開幕戦でいきなり王者フランスを破る世紀の番狂わせを演じ、その勢いのままベスト8まで進む大躍進を見せた。
当時セネガルのベスト8入りを予想していた人はいなかったように、1990年のカメルーンも2010年のガーナもいずれも期待されていたというより、サプライズとしての躍進だった。
アフリカ勢は、日本はじめアジア勢と同じくW杯では「脇役」が定位置になってしまっているのが現状だ。
ただし、W杯に7大会連続で出場し、「W杯本大会でどこまでいけるか」が焦点になる日本とは状況が大きく異なる。
アジアと比べても欧州のビッグクラブで活躍する選手が多いアフリカ大陸の出場枠は「5」しかなく、最終予選では強豪国同士が潰し合うがゆえ、アフリカ勢に日本のような「W杯常連国」という存在はないに等しい。
今回もアフリカネイションズカップ最多優勝を誇り、いまや世界最高の選手の一人であるモハメド・サラー擁するエジプトは、最終予選でセネガルとの激闘の末、敗退した。
アフリカのなかで強豪国と位置付けられるナイジェリアやアルジェリアは最終予選で敗退。コートジボワールや南アフリカは2次予選で敗退し、最終予選にすら進めなかった。
アフリカ勢にとって、W杯は「どこまで行けるか」以上に「出場できるか否か」が、まずとてつもなく大きな壁になっている。
アフリカ最終予選のセネガルvsエジプトをスタジアムで観戦して感じたのは、「この試合で負けたらW杯への出場を逃す」という、シビれるほどの緊迫感だった。
そして今大会、狭き門を突破して出場するアフリカ勢は以下の5カ国だ(FIFAランキングは11日11日現在)。
セネガル 🇸🇳(2大会連続3回目/FIFAランク18位)
モロッコ 🇲🇦(9大会ぶり2回目/FIFAランク22位)
チュニジア 🇹🇳(2大会連続6回目/FIFAランク30位)
カメルーン 🇨🇲(2大会ぶり8回目/FIFAランク43位)
ガーナ 🇬🇭(2大会ぶり4回目/FIFAランク61位)
大手ブックメーカーの今大会の優勝候補オッズをみると、上位10カ国は欧州勢と南米勢で占められ、アフリカ勢は当然のごとく入っていない。
アメリカの大手メディア『ESPN』では、カメルーン、ガーナ、モロッコ、チュニジアはいずれもグループリーグ敗退、しかも4カ国ともグループ最下位になると予想されていて、やはりアフリカ勢に対する期待は乏しい。
そんなアフリカ勢にあって唯一グループリーグ突破を予想され、かつ上位進出を期待されているのがセネガルだ。
“アフリカ史上最強”?のセネガル代表
2022年11月9日、セネガルに激震が走った。
11月8日に行われた試合で、セネガル代表のエースにして国民的スターのサディオ・マネが負傷。
試合直後は軽傷と伝えられていたものの、一夜明けてフランスのスポーツ紙『L'Équipe』などが「マネの怪我は想定以上に深刻、W杯欠場の見込み」と伝え、9日のセネガルの報道はマネ一色に。
ラジオでは「サディオ・マネ」の名前が毎分連呼され、マネがセネガル中からどれだけ愛され、またサッカーそのものがセネガルにどれだけ広く深く根ざしているものなのかを象徴するような加熱ぶりだった。
セネガル人にとってマネは正真正銘のスーパースター、セネガル代表そのものと言っても過言ではないくらいの人気ぶりだ。
うちの子どもがセネガル代表のユニフォームを着ていると、ほぼ毎回「サディオ・マネ!」と声をかけられ、セネガル人は親しみを込めて「サディオ」と呼ぶ。
とくに今年は2度目のアフリカ年間最優秀選手の称号だけでなく、現代サッカー界最大の個人賞であるバロンドールでは2位の座を手にした。
1995年に同賞を受賞したジョージ・ウェア(現リベリア大統領)を除けば、アフリカ人選手として初のトップ3入り。キャリア全盛でW杯を迎えることが期待されていた。
なのに、そのマネがW杯を欠場するかもしれない・・・!
そう懸念されていたものの、11月11日に発表されたセネガル代表26人にマネは名を連ねた。
グループリーグ初戦には間に合わないが、早くて2,3戦目、遅くとも決勝トーナメント進出後の試合には間に合うだろうという。
そのマネ擁するセネガル代表は、2018年前回大会の雪辱を誓っている。事実、セネガルはこの4年で大きな進化を遂げた。
2019年、そして2022年2月に行われたアフリカネイションズカップでは2大会連続決勝進出を果たし、今年の優勝で初のメジャータイトルを獲得。
その時のセネガルの街の盛り上がり様はとんでもなく、優勝翌日は大統領令によりいきなり祝日になるなど、国をあげてのパレードもすさまじかった。
FIFAランキングでも、2011年6月から2014年5月までの間に確立された35ヶ月というコートジボワールの記録をはるかに上回り、セネガルは2018年11月から2022年11月までの49ヶ月間、アフリカ勢のトップに立っている。
4年前、日本と対戦したときと比べて、主力選手に大きな入れ替わりはない。
ただ各選手が所属クラブで当時以上に活躍していることで、タレント力はアフリカ屈指になり、ヨーロッパの強豪国にも引けを取らない陣容になっている。
2018年大会で日本国内でも風貌が話題になった監督アリウ・シセは、今年で7年目。監督交代が頻繁に起こるアフリカ勢では異例の長期政権ながら、11月10日には2024年までの契約延長が発表された。
選手もキャリアのピークで今大会を迎えるメンバーが多い。
マネを筆頭に、主将のカリドゥ・クリバリは何年もの間「世界最高のDFの一人」と評され、GKのエドゥアール・メンディは2021年にアフリカ人として初めてFIFA男子最優秀GKに選出された。
その他にも、パプ・アブ・シセやガーナ・ゲイェ、パプ・ゲイェ、ブライェ・ディアなど、地味ながらも所属クラブで欠かせない存在になっている選手がひしめく。
懸念は、エースのマネの回復具合はもちろんのこと、クリバリやエドゥアール・メンディ、ナンパリス・メンディといった主軸選手たちが、今季所属クラブでやや苦戦気味なことか。W杯は運やタイミングの要素も大きい。
ところで、セネガル代表のメンバーは海外のクラブに所属する選手のみで構成され、今回も国内組の招集はゼロだった。興味深いのは、セネガル出身でなくヨーロッパ出身者が多いことだ。
主将のクリバリやエドゥアール・メンディらはフランス出身で、セネガルに住んだ経験はないという。
これはセネガル代表に限らずアフリカ諸国全体にも言えることのようで、とくにフランスは西アフリカからの移民が多く、両親のルーツのある国を選択する選手は少なくない。
その背景には欧州強豪国よりも西アフリカ諸国のほうが代表選手になりやすいなどのスポーツ面の他、フランス社会に底通する人種差別問題が影響しているという見方もある。それについては以下の記事に詳しい。
いずれにしても、2022年はセネガルサッカー界にとって特別な年になっている。
アフリカネイションズカップという初の国際大会での優勝。セネガル史上初となる2大会連続のW杯出場権の獲得。さらに10月にはアフリカビーチサッカーネイションズカップで4連覇を果たしている。
そして、1週間後に控えるW杯への国民の期待は、かつてないほど大きい。
今大会、セネガルは初戦にグループ突破最有力と見られるオランダと当たり、2戦目に開催国カタール、3戦目に南米の伏兵エクアドルと対戦する。
実力的にオランダとセネガルがグループリーグを突破すると予想されるものの、大方の予想通りにならないのがW杯であり、サッカーの醍醐味だ。
マネのコンディションは大きな懸念としてありつつも、セネガルが今大会アフリカ勢屈指の存在であることは間違いない。
セネガル人に聞く現地リアル評
セネガル、いや、アフリカ史上最強の陣容――。
そんな呼び名も高いセネガル代表だが、現地ではどのような期待をされているのか。
毎日サッカーの話をしているサッカー好きセネガル人に、僕の拙いフランス語とそれを補う翻訳機を使いながらインタビューし、グループリーグのスコアや決勝のカードなどを予想してもらった。
――今大会のセネガル代表はアフリカ史上最強か?
――セネガルはW杯で優勝できると思う?
――26人のメンバーが発表され、W杯出場が危ぶまれているサディオ・マネも名を連ねた。間に合うのかな?
――今季は所属クラブで苦戦している選手が多いけど、マネ以外の選手もコンディション面などで不安はない?
――注目すべきセネガルの選手を一人だけ挙げてほしい。
――アリウ・シセ監督についてはどう思う?
――今大会、他のアフリカの諸国はどのような成績になると思う?
――日本代表については、何か知っていることはある?
――ちなみに、今大会で問題視されているカタール国内の人権問題についてどう思うか?
――じゃあ、ここからセネガルの試合のスコアを予想してほしい。
――決勝トーナメントはどうなると思う?
※ 国名はフランス語で、Pays-Bas=オランダ/Allemagne=ドイツ/Espagne=スペイン/Pologne=ポーランド/Belgique=ベルギー
――最後に、日本戦のスコアも予想してみてほしい。
――✂︎―――――
今大会に臨むセネガル代表メンバー26人の陣容からすれば、おそらく現代表は“セネガル史上最強”と言える。今大会のアフリカ勢のなかでも最強なはずだ。
ただそれが“アフリカ史上最強”かどうかはわからない。すべてはワールドカップの結果で明らかになる。
インタビューした彼が言う通り、セネガルが決勝トーナメントで番狂わせを演じるポテンシャルは大いにある。
アフリカ勢らしくあっけなく敗退してしまう可能性もあるけど、僕も願望込めてセネガルはベスト4に食い込むと予想している。マネの回復次第では。
W杯期間中もどんなかたちかで、現地ならではのセネガル代表についての発信をしていきたいと思っている。
<12/2 追記>
セネガルがグループリーグを突破した後にまた以下のnoteを書きました。
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