<W杯2022>アフリカ史上最強?のセネガルから観るW杯 🇸🇳現地リアル評
セネガルに住んで1年ちょっと。セネガルから観るW杯はたまらなくいい。
セネガルの試合がある日はお祭りだ。街は朝からセネガル代表のユニフォーム姿の人であふれかえる。
朝出勤するらしき人も、スーパーやパン屋の店員も、ブティックのおっちゃんも露店のおばちゃんも、タクシー運転手も警備員も、レストランの店員も、子どもが通う幼稚園の先生までもがユニフォームを着ている。
街にはセネガル国旗も至る所に掲げられ、ユニフォームやグッズの立ち売りも。うちの子どもたちもセネガルのユニフォームで歩いていると、「セネガーーール!!!」と普段以上に声をかけられまくる。
そして勝った後はお祭り騒ぎだ。試合終了から2時間経ってもクラクションが鳴り止まない。
大会前、あまり注目されないアフリカ勢の概観と、“アフリカ史上最強”と呼び声高いセネガル代表の現状、そしてサッカー好きセネガル人にインタビューした内容について書いてみた。
今回はグループリーグを終えての所感やセネガル人に聞いてみた話を書いてみる。
■ロシア大会GLで全滅も躍進したアフリカ勢
前回、4年前のW杯2018年ロシア大会でのアフリカ勢は、グループリーグで全滅。決勝トーナメントが現行形式になった1986年メキシコ大会以降、アフリカ勢がグループリーグで姿を消すのは初めてのことだった。
今大会は、グループステージを終えて以下のような結果になっている。
セネガル 🇸🇳:20年ぶり決T進出 ⭕️(2大会連続3回目/FIFAランク18位)
モロッコ 🇲🇦:36年ぶり決T進出 ⭕️(9大会ぶり2回目/FIFAランク22位)
チュニジア 🇹🇳:GL敗退 ❌(2大会連続6回目/FIFAランク30位)
カメルーン 🇨🇲:GL敗退 ❌(2大会ぶり8回目/FIFAランク43位)
ガーナ 🇬🇭:GL敗退 ❌((2大会ぶり4回目/FIFAランク61位)
W杯史上初の同一大会でアフリカ勢3チームの決勝トーナメント進出とはならなかったけど、ナイジェリアとアルジェリアがグループリーグを突破した2014年ブラジル大会に続き、2チームが勝ち進んだ。
モロッコはベルギー相手に2-0で完勝した上に、前回大会準優勝のクロアチアとはドロー、最終節で今大会のダークホースに推す声も多かったカナダを退けて首位でグループリーグを突破。
チュニジアは1分1敗で迎えた最終節で前回王者フランスを破る金星をあげるも、他会場でデンマークに勝利したオーストラリアにかわされて無念の敗退。
カメルーンも1分1敗の成績で最終節に優勝候補筆頭のブラジルと対戦し、アディショナルタイム弾を突き刺して大金星をあげたのだけど、スイスに勝ち点及ばずで大会を後に。
ガーナは初戦でポルトガルと接戦を演じながらも敗れ、韓国に勝ったものの、ウルグアイとの試合を落として敗退。
米大手メディア『ESPN』の大会前の予想データでは「セネガル以外のアフリカ勢はすべてグループ最下位になる」とされていたけど、チュニジアとカメルーンは金星をあげて勝ち点4での3位敗退と、予想を覆す結果に。
アフリカ勢がグループリーグで獲得した勝ち点合計の24は、1998年のフランス大会の勝ち点15を大きく上回る、過去最多の記録だったという。
ただやはり、決勝トーナメントでもアフリカ勢は早々に敗退すると予想されている。
グループステージを終え、勝利確率との関連情報を踏まえたデータでは、以下のようになっている。
でもデータはデータでしかない。予想されたとおりにならないのがサッカーであり、W杯の醍醐味でもある。
ちなみに、セネガルで観戦して驚くのは、アフリカ勢の一体感だ。セネガル人は他のアフリカ勢の結果を結構気にしているし、SNSには「#OneAfrica」というハッシュタグもある。
日本だと他のアジア勢の結果はそこまで気にされていないように思うけど、これはおそらくアフリカならではなのだと感じる。
■セネガルで最も期待されている選手とは?
大会が始まる直前、セネガルはかつてない不運に見舞われた。
「セネガル史上最高の選手」と呼び声高い、国民的アイドルのサディオ・マネが負傷。その後発表されたW杯メンバーに選ばれたものの、大会中の復帰が難しく欠場が決まり、セネガル中が悲嘆に暮れた。
毎日サッカーの話をするセネガル人がそう言っていたとおり、大会が始まれば、「アフリカ史上最強」とも言われるセネガル代表は堂々としたパフォーマンスを披露した。
初戦のオランダに0-2で敗れたけど、試合展開としてはどっちに転んでもおかしくなく、むしろ主導権を握っていたのはセネガルだった。ただ決定力の違いでグループ最強とされていたオランダに惜敗。
続くカタール戦は、ホスト国相手ゆえに完全アウェーかつ負ければ敗退が決まる重圧のなか、3-1で勝って望みをつなぐ。
そして最終節のエクアドル戦。
勝利が絶対条件という不利な立場だったにもかかわらず、オランダ相手に互角以上の戦いを演じたエクアドルを2-1で撃破。2002年日韓大会以来、20年ぶりのグループリーグ突破を決めた。
2002年日韓大会の20年前当時、セネガル代表のキャプテンだったアリウ・シセが、今大会で監督としてチームを率いているのは何かの物語のようだ。
そしてグループリーグ突破を決めた11月29日は奇しくも、2002年日韓大会で前回王者フランスを破る値千金のゴールを決めたパペ・ブバ・ディオプの命日(2020年に病気で他界)だった。
また、エースのサディオ・マネなき今、セネガルで最も期待されている選手が、イリマン・ンディアエだ(↑の写真の右端13番の選手)。
ンディアエ(日本のメディア表記やフランス語読みだとエンディアエだけど、セネガル人たちはイリマン・ンディアエ(ジャェ)と呼ぶ)はイングランド2部のシェフィールド・ユナイテッド所属する22歳のアタッカー。
3年前はイングランドの7部相当でプレーしていたのが、昨季からシェフィールドの主力に定着し、今年6月に代表デビューをしたばかりという新星だ。
独特なリズムによるドリブル突破を得意としており、今季はシェフィールドで9得点をあげてチームを牽引する存在になっている。
セネガル最大のメディア「Sene.News」の「サディオ・マネに代わるのは誰?」という世論調査では2位以下に大差をつけ、絶大な期待を集めている。
初戦のオランダ戦では出場機会がなかったものの、カタール戦は途中出場で何度もチャンスメイクし、アシストも記録。決戦となったエクアドル戦は先発して攻撃陣を牽引していた。
セネガル国内では、誰が先発するべきかなどの議論はもちろん、代表に関するニュースも逐一話題になる。
昨日はトレーニング中にフォデ・バロ・トゥーレとニコラス・ジャクソンの間で口論があったとして話題になりかけたけど、無事におさまった模様。
これは珍しくネガティブなニュースだったけど、配信されるニュースのほとんどはポジティブで、大会を通じ、チームとして自信を深めていることが伝わってくる。
そして、ラウンド16で対戦するのは、グループリーグで勝ち点、得失点差、総得点、いずれも今大会ベストだった優勝候補のイングランドだ。
■セネガル現地からW杯を観て感じること
セネガルから観るW杯は、とても味わい深い。
サッカーで盛り上がる街の雰囲気は、サッカーが大好きな自分にとってたまらない。
何よりセネガル人が大喜びしている姿がすごくいい。そんなセネガル人たちの姿を見て、うちの子どもたちも楽しそうに歌ったり踊ったりしている。
妻の出張が重なったり、子どもの幼稚園のお迎えなどの都合で大規模なパブリックビューイングなどには行けていないけど、レストランで観るだけでも十分雰囲気は味わえる。
言わずもがなサッカーはセネガルで最も人気のスポーツであり、セネガル人が一つになってこんなにも盛り上がれるのは、サッカーの力だ。そんなサッカーの魅力を僕も存分に味わえている。
日本がドイツやスペインを破った試合の翌日には、歩いていて「Félicitations, Japon !(おめでとう、日本)!」と声をかけられたりもする。
ちなみに、試合終了後にセネガルサポーターが日本人に触発されてスタジアムを掃除する姿が話題になっていた。
僕自身もセネガルに住んで1年以上が経つからいろんな不便にも慣れてきていて、このW杯のために先回りして準備もできた。
ネット回線がパンクしたときに備え、お小遣いを全部つぎ込んでケーブルテレビを契約し、起こりがちな停電対策で4Gでも観れるようにフルチャージするなど、二重、三重のリスク管理で快適に観戦できている。
一方、このカタール大会は欧米メディアを中心にさまざまな側面から問題視されてニュースになっているけど、セネガルにいるとそれらについて問題提起する報道や風潮はまったくといっていいほど感じられない。
欧州諸国では今大会はかつてないほど盛り上がっていないという。それについては、サッカーコメンテーターのベン・メイブリーさんの解説に詳しい(動画とTwitterのスレッドを読んでもらえたら)。
これらがセネガルで話題にならないのは、前回のnoteでセネガル人に「今大会で問題視されているカタール国内の人権問題についてどう思うか?」と聞いたときの以下の回答が、セネガル人の認識を象徴しているように思う。
また、欧米メディアが問題視することの正当性を問う視点から語られている以下の記事も興味深かった(個人的には正当性の有無より、いずれも問題視・批判されるべきことと思う)。
ただベンさんが以下のように言っているとおり、これらの問題に向き合うことは、メディアやフットボール界の首脳陣は当然として、僕らファンにも言えることなんじゃないかなと思う。
これらの問題は、まず何より「知ること」が大事なんじゃないかと感じる。知れば、もう知らなかったことにはできない。
僕自身、W杯をただただ楽しむだけでなく、大会を通じて問題に関心を持ち、大会終了後も関心を持ち続けなければなと思っている。
■「僕らはイングランドに勝つよ」
なんとかグループリーグ突破を決めたセネガル代表だけど、ここまでの戦いぶりや次のイングランド戦について、現地ではどのような見方をされているのか。
前回のnoteで話を聞かせてもらったサッカー好きセネガル人に、改めて聞いてみた。
――セネガルは2勝1敗でなんとかグループリーグ突破を決めたけど、戦いぶりをどう感じた?
――ラウンド16はイングランド戦だ。彼らは優勝候補にもあげられているけど、勝てると思う?
――日本代表はドイツとスペインという優勝候補を破って大躍進しているよ!
セネガル国内の報道も、やはりイングランド戦の話題で持ちきりだ。
プレミアリーグのビッグクラブで活躍する選手がひしめくイングランドに対して、最も期待を集めるンディアエはイングランド2部、今大会のエースとして全試合に先発しているイスマイラ・サールも同2部のワトフォード所属だ。
選手たちの所属クラブの格では大きく劣るものの、セネガルはとにかく勝負強い。
シセ監督が「我々はノックアウトステージの試合には慣れている」とコメントした通り、今年優勝したアフリカネイションズカップで勝ち抜き、このW杯の最終予選でもPK戦にもつれこまれながらエジプトを退けてきた。
順当な実力差で言えばイングランドに分があるだろうし、セネガルが勝つことはサプライズでしかないという見方が強い。
だけど、大方の予想通りにはいかず、何が起こるかわからないのがサッカーだ。それは今大会でも大いに証明されている。
何より、優勝候補でもあったドイツとスペインが同居するグループEで日本が首位通過するなんて、サッカーに詳しい人ほど予想できなかったはずだ。
僕は毎週欠かさず全試合マンチェスター・ユナイテッドの試合を観ているし、今大会で覚醒しているマーカス・ラッシュフォードへの思い入れも強い。イングランドの強さも、それなりにわかっているつもりだ。
でも僕は、イングランドではなくセネガルが勝ち抜くと予想している。
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今大会、セネガルだけでなくアフリカ勢の戦いぶりも一通り観てきたけど、やはりセネガルはサディオ・マネがいなくとも今大会アフリカ最強のチームだと感じる。
とはいえ、まだまだ「アフリカ史上最強」と呼べるかどうかはわからない。
そう確信をもって呼べるのは、日曜日にイングランドに勝ち、これまでのアフリカ勢の最高成績である「ベスト8」という壁を超えてからだ。
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