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仕事の役に立った学問② 科学史・科学哲学(本質や構造を深く考え抜く思考)

前回に続いて、20年くらい働く中で、仕事に役立った学問を紹介するシリーズです。第二弾は科学史・科学哲学です。

とはいえ、厳密に科学史と科学哲学を専門的に学んでいたかというと、そうではないかもしれません。技術史も含む科学史、論理学や哲学全般も含む科学哲学という感じです。

東大が「科学史・科学哲学」という名前を研究室やコースに付けていたので、この学問分野名にしました。

どんなことを学んでいたのか

科学哲学の概要、ヒュームの因果論、ベルクソンの時間論、弾道ミサイルの開発史、アメリカの軍事産業の歴史などの授業に出てました。

基本的に少人数で、議論中心の授業でした。中には、教授+院生2名+学部生2名の5名だけで、1セメスターを通じて、同じテーマを議論するという濃密なものもありました。

特定のテーマの文献(たいてい英文)が与えられ、それを輪読しながら、ひたすら議論するというパターンです。例えば、ヒュームの因果論なら、「因果関係とは何か?」、「ヒュームの提唱した恒常的連接をどう考えるか?」などを議論してました。

一定の考え方のフレームが与えられ、そのフレームがそもそも正しいのか含めて、色々な角度で議論しながら、思考を深めていく授業でした。

仕事にどのように役立つのか(科学史)

科学の発展の歴史を研究するのが科学史です。「チ ー地球の運動について−」というマンガがありますが、この本で描かれているのは、ある種の科学史です(かなり劇画的にはなってますが)。

科学史の研究によると、科学は連続と非連続の組み合わせで発展してきています。非連続な発展というのは、天動説から地動説への変化、ニュートン力学から相対性理論への変化などです。いわゆるクーンのパラダイム理論(科学革命)です。

また、科学や技術の発展のあり方は、その時代の社会のあり方に影響を受けるという分析もあります。アメリカの軍事技術や軍事産業の発展は、冷戦という当時の社会事情の影響を大きく受けています。

こうした科学の発展に対する考え方は、実は会社の発展の考え方にも当てはまります。経営学でいうと、クリステンセンの破壊的イノベーションの概念は、クーンのパラダイムシフトにかなり近いと思います。

企業の経営には変化が不可欠です。新たな顧客価値を生み出し続けるには、市場環境や社会動向に応じて、自ら変化し続けなければなりません。

また、現代の企業経営はIT技術と不可分です。いわゆるDXです。IT技術の発展に合わせて、ビジネスモデルと経営インフラを変革していかないと、取り残されます。

一方で、結局のところ、企業も人間の集合体です。歴史の勉強が企業経営に役に立つという経営者が沢山いますが、科学史も歴史の一種です。人類が何千年かけて発展させてきた科学の歴史と同じようなことが、企業の変化や発展の過程で発生するのです

企業の成長戦略や変革のヒントが、科学史の中にはたくさんあります。経営戦略を立案し、実践する中で、科学史で学んだことは大いに役立ちました。

仕事にどのように役立つのか(科学哲学)

仕事をしていると課題や問題に直面します。その解決策を考える時に、科学哲学を学んでいると、「そもそも課題は何なのか?」というところまで立ち返って考えるようになります。

さらに深く思考して、事象の背後にある構造を掴めるようになります。課題を引き起こした直接要因だけでなく、少し離れたところにある本質要因に目を向けるようになります。

例えば、システム開発のリスク評価を行うプロセスがあります。営業からは、お客様対応が遅くなるので、プロセスの簡素化の要望が上がってきます。

この場合に、リスク評価プロセスの見直しをしても、課題解決にはなりません。見直した後も、プロセスがある限り、営業からは不満が出ます。

では、なぜこのプロセスが存在して、顧客対応の負荷になるかというと、顧客のカスタマイズ要望を聞いて、個別開発が発生するためです。そうなると、営業活動自体の問題、定型ソリューションが少ないSE活動の問題に分解されます。結局のところ、今のビジネスモデルに起因する構造問題であるとわかります。

リスク評価プロセスの営業活動への負荷の背後には、ビジネスモデルという構造が眠っており、そこにどのようなメスを入れるのか、という議論をしていくことになるのです。

こうした課題の本質や構造を掴む思考法は、科学哲学の授業のディスカッションで鍛えられたのだろうと思います。

まとめ

一見、仕事と全く関係なさそうな科学史・科学哲学ですが、大学で学んだことが、仕事の根っこで活きていたと実感しています。

科学史と科学哲学の授業がある大学は限られているかもしれません。おそらく、歴史学や哲学の他の授業でも、学問のアプローチは同じだろうから、きっと仕事に役立つと思います。

大学にそうした授業があるなら、是非、勉強してみることをお勧めします。


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