見出し画像

学年上位0.1%の進学先の統計分析③(東大 vs 医学部の学力レベル比較)

趣味で統計分析をやる中で、共通テストリサーチのデータを用いて、学年上位層の進学先の分析の記事を2本書いています。第3弾として、東大と医学部の学力レベルを比較します。シリーズの統計分析の前提や医学部のグルーピングについて、過去の記事をご参照ください。

1. 学力レベル比較の考え方

共通テストの5教科の得点率の上位○%の受験生が、どこの大学を志望しているかで、大学・学科のレベルを比較しています。二次試験の成績で合否は変わるのですが、上振れと下振れは相殺するという仮定のもと、志望者数=合格者数=入学者数として計算しています。

また、文系と理系で科目の違いはありますが、共通テストは英語・国語・数学の600/900点は共通問題ですし、理社も一部は共通なので、ほぼ同列の比較ができると考えています。

具体的には、共通テストの得点率の上位=学年の学力上位と読み替えて、学年上位0.01%、0.03%、0.1%、0.3%、1.0%の区分で人数集計しています。この区分はイブリースさんの記事を参考に設定しています。また、共通テストは2020〜2024年度入試の5年分の平均を用いています。

この学年上位○%の進学者数が、大学・学科ごとに定員に占める構成比を、その大学・学科の学力レベルの指標として扱います。サンプルを使って、説明します。

表1

一番上の段が、旧帝国大7大学、一橋大・東工大、国公立医学部医学科の集計値です。学年上位1.0%はこのどこかの大学・学科に入学するという前提を取っています。数字は2020-2024年度入試の平均です。

同期間の母数の18歳人口(平均)は111.8万人のため、学年上位1%(Lv4・グリーン枠)は、11,180人となります。上記前提からこの全員が対象の大学・学科に入学しますが、その定員合計は20,256人のため、学年上位1%の学生が定員に占める比率は55.2%となります。

ざっくりいうと、学年上位1%に入れば、難関大学の上半分には入れると言えます。逆に言えば、学年上位1%には入れなくても、旧帝・一工・国公医医には合格できる大学・学科が約半分あることになります。

次に、東大・理一と千葉大・医医を比較して見てみます。上位1%(Lv4)の定員充足率は、東大・理一で100.0%、千葉大・医医で92.7%となっています。これは学年上位1%(11,180人)の学生で定員がほぼ埋まっていることを示しており、逆に言えば、学年上位1%未満ではほぼ入学できないことを意味します。

一方、高知大・医医の上位1%(Lv4)の定員充足率は19.9%に過ぎません。これは、高知大・医医の学科上位20%は学年上位1%の学生なのですが、残る80%は学年上位1%未満の学生ということを意味します。

この観点で観ると、東大・理一と千葉大・医医のボーダーライン(学科最下位)はほぼ同じ、高知大・医医はそれよりも低いと考えられます。表の右に、駿台全国模試B判定(合格率60%)と河合塾全統模試C判定(合格率50%)の偏差値を記載しています。模試によって多少の違いは出ますが、東大・理一と千葉大・医医はほぼ同じ、高知大・医医はそれより2段低いことが確認できます。

では、東大・理一と千葉大・医医は同じ学力レベルなのでしょうか?

そうではありません。オレンジ枠の学年上位0.1%(Lv6)の受験生の定員充足率を見ると、東大・理一は31.4%に対して、千葉大・医医は8.7%と大きく違います。東大・理一で上位3割にいる学生は、千葉大・医医では上位1割に入れることになります。ボーダーラインはほぼ同じでも、上位層の厚みが全く違うことがわかります。

このように定員充足率を使うと、大学・学科の学力構成がわかります。上位0.01%や上位0.03%の最上位層は共通テストでの分析が精度が低いため、上位0.1%(Lv6)、上位0.3%(Lv5)、上位1%(Lv4)の構成比を中心に見ていきます。

2. 大学別の学力レベル比較

まずは学力別のレベル比較です。国公立医学部医学科(国公医)は、前回同様に3つのグループに分けています。それぞれに含まれる大学は、以下となります。

◆国公医・難関(駿台全国模試B判定偏差値 66以上)
筑波大、千葉大、東京医歯大、神戸大、岡山大、広島大、横浜市立大、名古屋市立大、京都府立医大、大阪公立大、奈良県立医大
◆国公医・中堅(同 63〜65)
群馬大、新潟大、富山大、金沢大、信州大、岐阜大、浜松大、三重大、滋賀医大、山口大、香川大、高知大、長崎大、熊本大、鹿児島大、大分大、和歌山県立大
◆国公医・中堅(同 61〜62)
旭川医大、弘前大、秋田大、山形大、福井大、鳥取大、島根大、徳島大、愛媛大、佐賀大、宮崎大、琉球大、札幌医大、福島県立医大

旧帝国大と上記3つのグループの学力レベルを比較すると、このようになります。

グラフ1

一橋大・社会学部を対象から除外したグラフに差し替えました。ただし、以降の分析には大きな影響がないので、以降は修正しておりません。<2024.5.3>

これを見ると、東大が頭2つほど飛び抜けていることがわかります。グラフ上部の数字が学年上位1%の受験者の占有率で、この数字が100%なので、東大生は全員が学年上位1%に入っていることになります。東大の定員が約3,000名、学年上位1%で11,180人なので、当然といえば当然かもしれません。

ただ、それ以外の大学や医医グループを見ると、学年上位1%で定員占有率100%のところはなく、京大であっても、この下の学年上位1%未満の学生が一定数入学していることがわかります。むしろ、地方医旧帝(大阪・東北・名古屋・九州・北海道)は、半数以上が学年上位1%未満の学生です。

青の三角は学年上位0.3%(3,354人)の定員占有率です。これが10%を超えているのは、東大、国公医・難関、京大だけです。京大は、学年上位1%の占有率は87%と85%と大差ないのですが、学年上位0.3%の占有率では、27%と8%とトリプルスコアです。ボーダーラインの学生の学力レベルは同じでも、上位層の厚みは京大が遙かに大きいと考えられます。

オレンジの四角は学年上位0.1%(1,118人)の定員占有率です。学年上位1,000人として、これまで見てきた指標です。学年上位0.1%の学生が一定数いるのは東大だけです。かろうじて国公医・難関と京大の1割弱はこのレベルですが、他の大学にはほぼいないことがわかります。

面白いのは東北大です。東北大は学年上位1%の定員占有率が38%であり、同31%の名古屋大より高くなっています。三大都市圏の愛知県にある名古屋大よりも東北大の方が、学力レベルが高いと言えます。愛知県と宮城県では東京までの距離はほぼ同じですが、愛知県は京都・大阪に近いため、愛知県の学力上位層が京都大や大阪大に流出しているのではないかと考えられます。

なお、東工大は共通テストは足きりだけで合否判定の点数に入らないので、受験生の本気度が低く、実力より低めに出ている可能性あります。そう考えると、東工大は国公医・中堅とほぼ同じかそれ以上と考えられます。

これらを踏まえて、インターネットのブログや掲示板でよく見られる等号・不等号を用いて表現すると、以下のイメージです。
東大 >> 国公医・難関=京大 > 一橋 > 国公医・中堅=東工大 >国公医・一般=大阪大 > 東北大 > 名古屋大 > 九州大=北大

3. 東大の科類別の学力レベル比較

続いて、東大の科類別の学力レベル比較です。下の数字は駿台全国模試のB判定偏差値(合格率60%)です。駿台B判定偏差値は2023年8月に調査した数字です。

グラフ2

まず目に付くのが左端の理三です。理三は別格で他の科類と構成が全く違い、学年上位0.1%(1,118人)がほぼ定員を占めています(オレンジ三角の92%)。理三合格には、学年上位0.1%の約1,000人に入ることが必須です。

そして、その上のランクの学年上位0.03%(Lv7・335人)に入っても、理三の中では上半分に過ぎず、学年上位0.01%(Lv8・112人)に入っても、理三の中では上位1割には入れない状態です。医者になるのに、ここまでの学力が必要かは疑問ですが、圧巻です。

次に特徴的なのが理一と全体平均の関係です。理三を除くと、理一のみが東大の全体平均を上回っており、他の科類は平均を下回っています。理一は人数が多い(東大全体の4割)ので、平均への影響が大きいのですが、他の科類と比べて、ここまで差があるとは思っていませんでした。

理一に注目すると、学年上位0.3%(Lv5・3,354人)が定員の84%を占めています。学年上位0.3%の約3,000人に入ることが、理一合格には必要ということです。

文一、文二、理二はほぼ同レベルです。文一ですら、東大の全体平均を下回っているのは、少し驚きでした。文一と文二を比較すると、合格最低点は文二と逆転することもあるようですが、学力上位層の厚みは文一の方がまだ厚いようです。

最後に並ぶのが文三です。文三における学力上位0.3%の定員占有率は31%で、文一・文二の約半分、理二の1/3です。文三は東大の中では学力レベルがさらに一段落ちるようです。とはいえ、京大全体平均の26%は上回っており、東大と京大の間の溝の大きさを示す形になっています。

駿台B判定偏差値と比較すると、基本的には偏差値順に並んでいます。ボーダーの学力レベルと上位層の学力レベルは相関していると言えます。ただ、理二と文三は同じB判定偏差値66でも、上位0.1%や上位0.3%の占有率はそれなりに違いがあり、理二の方が上位層の厚みがあることがわかります。

4. 東大と医学部の学力レベル比較

それでは本題の、東大の科類が国公立医学部医学科と比較して、どの学力レベルにあるのかを見ていきたいと思います。

国公立医医は難関11大学を抜き出して、東大と比較すると、このグラフになります。学年上位0.3%の定員充足率(ブルーの三角)が高い順に並べています。

グラフ3

いくつかの医学部医学科では、学年上位1%の定員充足率(棒グラフのグレーの上の数字)が100%になっていないところがあります。名古屋大、九州大、横浜市立大、千葉大、大阪公立大などです。これは地域枠が影響しているようなので、実質的には100%と見てよいと考えます。

それでは、左から順番に見ていきます。

左2つの東大理三と京都大・医医の2つだけが、学年上位0.3%の定員充足率(ブルーの三角)が100%になっています。ただ、学年上位0.1%の定員充足率(オレンジの四角)で見ると、東大理三は京大・医医に対してもで40%近く差を付けています。上位層は圧倒的に東大理三が多いようです。

東大理一は学年上位0.1%の定員充足率(オレンジの四角)では、東京医歯大・医医と大阪大・医医にわずかに負けています。特に東京医歯大・医医の学年上位0.3%(ブルーの三角)の定員充足率が97%あり、頭一つ抜けている印象を受けます。

ただ、一番下の青の帯の学年上位0.01%では、東大理一が東京医歯大・医医と大阪大・医医を上回っており、その上の緑の帯も足した学年上位0.03%の定員充足率ではほぼ同等です。これも加味すると、東大理一の学力レベルは東京医歯大・医医より少し下ですが、大阪大・医医とは同等と考えられます。

その下を見ていくと、東大文一が名古屋大・医医とほぼ同等です。東大文二や東大理二でも、横浜市立大・医医や千葉大・医医という東京近郊の医学部医学科よりも上にあります。そして、東大文三ですら、国公立医医・難関11大学の上半分に入っています。

東大理一の学力レベルは医学部と比較してもかなり上にあることが確認できましたが、東大の文系ですら、それなりのポジションにあることもわかりました。東大文系と理二で1,800人弱いるので、この1/3の600人が医学部志望に変えたら、大阪大以外の地帝4大学・横浜市立大・千葉大の医学部合格者は半数くらいが不合格になるのだろうと思います。

駿台B判定偏差値と比べると、学力上位層の占有率=学力レベルは、いくつかの学部・学科で逆転が起きています。

例えば、東大理一の駿台B判定偏差値は68であり、大阪大医医の74、名古屋大医医と九州大医医の70より下です。ただ、東大の学力上位0.1%(上位1,000人・Lv6)の占有率は31%で大阪大医医の33%とほぼ同等、名古屋大医医18%や九州大医医の16%に大きな差をつけて逆転しています。さらに上の上位0.01%や0.03%は精度は怪しいですが、東大理一は医科歯科大医医や大阪大医医の上になってます。

同じことが東大理二や東大文三の前後でも見られます。最難関の大学・学科では、上位層の厚みも加味した学力レベルは、ボーダー偏差値と相関していないようです。

5. まとめ

長々と書きましたが、東大と医学部の学力レベル比較をまとめると、こんな感じです。
東大理三
> 京大・医医 > 東京医歯大・医医
東大理一 = 阪大・医医
東大文一 = 名大・医医
東大文二 = 九大・医医
東大理二
> 首都圏近郊の医医
東大文三
> 難関医医の残り半分(関西・名古屋)> 中堅医医 > 一般医医

概ね駿台B判定偏差値の順番ですが、一部で逆転も起きています。これは前回の記事で分析した通り、学力最上位層(上位0.3%=Lv5以上)で、過去10年の間に医学部から理系学部(特に東大理一)へのシフトが起きているのが影響しています。

今回の分析では、東大の文一ですら、東大全体平均を下回っていることが意外でした。理系と文系の間に学力ギャップがあるのかもしれません。次回は「理系と文系の学力レベル比較」をやってみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?