見出し画像

学年上位0.1%(約1,000人)の進学先の統計分析①(全体構成と推移)

子供の高校受験があったことから、受験(偏差値や合格最低点)についての統計分析の記事を何本か書いてきました。そのためか、noteのお勧め記事に次の記事が出ていました。

せっかくなので読んでみたところ、学年トップ1,000人(上位0.1%相当)の進学先についての記事でした。その記事には、作者(イブリースさん)が推察した進学先の構成比が書かれていました。記事自体はとても興味深い内容でした。

ただ、あくまで作者の感覚的な推察であり、データに基づく定量分析ではありませんでした。そうした中、「共通テスト(センター試験)の予備校によるリサーチデータを使えば、この作者の推察の検証ができるかも?」と思いつきました。

そこで、2024年度入試の共通テストリサーチのデータを入手して、簡易的に集計・分析を行ってコメントを投稿してみたところ、それに対して作者のイブリースさんから返信コメントをいただきました。

そして、返信コメントには、定量分析への感想とともに、東大文科一類と東大理科一類の構成比変化に関して、次の命題が記載されていました。

2020年を境に東大の浪人率が劇的に低下しているのですが、このあたりに何か転換点があるのかもしれません。共通テストの導入のタイミングです。

上記記事の作者(イブリースさん)のコメント

命題が提示されたら挑みたくなる性分なので、学年トップ1,000人(上位0.1%)の進学先の時系列分析をやってみました。ついでに、簡易的に行った分析も見直して、精度を高めています。

データソースは駿台予備校の共通テスト(センター試験)リサーチの、2015〜2024年分の10年分です。では、まず結果から紹介します。

0. 推定結果

◆学年上位0.1%(約1,000人)の進学先推定(2020〜2024年の5年間平均)

  • 東大 630人
    理一:320人、理二:65人、理三:80人
    文一:75人、文二:55人、文三:35人

  • 京大 200人
    医医:50人、理系:110人、文系・他:40人

  • 東工大・一橋大 35人

  • 地帝・難関大学 135人
    医医:120人、理系・文系・他:15人

東大理一で約3割、東大全体で約6割でした。京大も一定数いて、約2割。東大と京大を合わせて約8割となり、学年上位0.1%=学年トップ1,000人は、ほぼ東大・京大に進学していることが確認できます。

文系・理系の区分で見ると、理系:50%、医医:25%、文系・他:25%です。理系+医医で75%であり、学年トップ1,000人は大半が理系であることが確認できます。

◆2015-2019年平均から2020−2024年平均への変化

  • 東大理一 +50人

  • 東大文一 ▲25人

  • 地帝・難関大 医医 ▲25人

  • 京大理系(医医以外) +25人

  • その他 ▲25人

長期的に見ると、学年トップ1,000人の中で文一・医学部から理一へのシフトが進んでいるようです。また、京大の理系学部にもシフトしています。記事などで一般的に書かれている最優秀層の医学部から理系学部へのシフトが確認できます。

【略語定義】
医医=医学部 医学科、他=医学部の看護・理学療法など
地帝=北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大
難関 医医=東京医科歯科大(医医)、千葉大(医医)、神戸大(医医)

以降で、分析の前提と分析詳細を説明します。

1. 分析の前提

①学力最上位層は、全員が対象とする難関国立大を前期入試で受験とする

具体的には、東大、京大、東工大、一橋大、地方旧帝大(北大・東北大・名古屋大・大阪大・九州大)の全学部と、東京医科歯科大、千葉大、神戸大の医学部医学科です。これらの前期入試のデータを対象としています。

これ以外の国立大(特に医学部)にも、学力最上位が受験してると思います。ただ、後述の通り、旧帝大の一角の北大(医学部含む)ですら、共通テスト(センター試験)の得点順位が上位0.1%に入るのは直近5年平均で7名しかいません。このことから、旧帝国大学以外を受験する学力最上位層は極少数と想定できるため、集計の対象外にしています。

また、前期入試を受けずに、後期入試だけの受験生は極めてレアと考えられるので、前期入試のデータでカバーできるとしてます。さらに、併願先の私立大学への進学者や推薦入試(内部進学含む)も、個別に集計困難なので対象外にしています。

②共通テストの点数を学力最上位層の学力指標とする

他に指標がないというのが実情です。2次試験のウエイトが大きい大学が大半であり、2次試験で逆転合格とかまさかの不合格とか普通にあると思います。ただ、それは双方向に同程度に発生して相殺されるとしています。

なお、学力上位0.1%(約1,000人)以外に、0.01%(約100人)、0.03%(約300人)、0.3%(約3,000人)も集計しています。0.03〜0.3%くらいは共通テストの点数と実際の合否の相関が高そうな印象です。

ただ、0.01%ともなると、共通テストではほぼ差が付かず、学力最上位層の学力指標として機能しないと考えられます。そのため、0.03〜0.3%の範囲での分析としています。

また、5教科受験を基本としています。京大総合人間学部は2教科しか得点採用されないようなので、集計対象から除外しています。

③現役と浪人は区別しない

複数年で合算する場合、浪人合格者はどこかで同じ学年の現役合格者と同じ標本に入ります。そのため、浪人した学生は翌年に対象大学のどこかを受験していると想定し、現役と浪人の区別を行っていません。(厳密には両端の学年は現役とと浪人がズレますが、浪人数がほぼ同数として、この差は無視してます)

④共通テストの順位が定員以内の全員が合格して進学する

実際は2次試験があるので、実際は不合格が出ます。ただ、その計算をすると推定があまりにも複雑になるため、共通テストの上位から順番に定員までが合格するという集計にしています。共通テストが定員内で不合格になった人数は、同等の学力を持つ学生が2次試験で逆転して補っているという考え方です。

定員を超える人数は全員不合格として扱っています。浪人して対象の大学を翌年も受験する場合は、③の前提で数字は相殺されます。後期日程や併願先の私立大学に進学した場合は、集計誤差として扱います。

2. データセットの作成手順

  1. 駿台予備校のホームページ(共通テストリサーチ)から、過去10年分の対象データを入手

  2. 大学学部学科ごとに得点率別(0.5%刻み)の人数を定員と得点者数を集計
    その際、定員を超える得点者数は定員を上限とする

  3. 対象大学のデータを得点率別(0.5%刻み)に合計

  4. 18歳人口に対して上位0.03%、0.1%、0.3%の人数を計算
    この記事では触れませんが、0.01%も参考数字として計算しています
    <18歳人口の元データ>
    https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_2.pdf

  5. 上位○%の人数が当てはまる得点率別人数を見つけ出し、その人数を採用
    刻み幅(0.5%)の間に当てはまる場合は、内分点を計算し、その数字を採用

  6. 年ごとに上記集計を行った上で、前半5年間(2015−2019年)と後半5年間(2020−2024年)の2つのグループを作成し、それぞれで平均値も計算

3. 分析内容

① 構成比の分析

後半5年(2020−2024年)のデータを大学・学部で区分して集計すると、この表のようになります。参考までに得点率の平均値も掲載しています。

表1

千葉大医医と神戸大医医の集計(定員と上位0.3%人数)にミスが見つかったので、表1を修正しました。ただし、グラフや他の表の記載数値への影響がない(四捨五入の下の変動)ため、表1以外は修正しておりません。<2024.3.11>

上位0.1%(1,118人≒約1,000人)のデータに対して、区分を大括り化すると、このグラフになります。構成比で示しているため、学年トップ1000人の分布として見ることができます。冒頭に述べたとおり、学年上位0.1%(約1,000人)は6割が東大に進学し、京大も含めると8割という構成になります。

グラフ1

学年上位0.03%(約300人)と学年上位0.3%(約3,000人)も同じ区分で集計すると、この表のようになります。上位に行くほど東大の寡占化率が高まることがわかります。一方で京大の比率が変わらないのは興味深いところです。

表2

さらに、文系・理系で集計するとこのグラフとなります。上位に行くほど医学部医学科(医医)の比率が上がるのは、東大理三と京大医医の構成が上がるためです。また、下位に行くほど文系の比率が高まっています。逆に言えば、医学部医学科も広義の理系として扱うと、学力最上位層では上位に行くほど理系(広義)の比率は高まっていると言えます。

グラフ2

②時系列の分析

それでは、イブリースさんからもらった命題「2020年ごろに学力最上位層の進学先の転換点がある」の検証に移ります。10年分のデータなので、前半5年(2015−2019年度入試)と後半5年(2020−2024年度入試)の比較を行うことで、この命題の転換点での変化を検討してみます。

グラフ1の円グラフの区分で学年上位0.1%(約1,000人)の進学先の変化を整理したのがこの表になります。前後差が大きいところをハイライトしています。

表3

かなり特徴的な結果となっており、この表から次のことがわかると思います。

  • 東大理一と京大理系以外のほぼ全ての区分で、構成比(人数)を減らしている

  • 特に減少が大きいのは、東大文一と地帝・難関大 医医であり、この2つの区分の減少幅の合計(▲4.8%)は、東大理一の増加幅(+4.9%)にほぼ一致する

  • 東大文二が少し(+0.3%)だけ構成比を増やしているが、これは東大文一からのシフトなのか、誤差レベルなのかは見極め必要

  • 文理の凸凹を吸収した上で、東大と京大は構成比(人数)を増やしている

2点目の東大文一と地帝・難関大 医医から理一へのシフトを、もう少し詳しく見てみます。前半5年間と後半5年間の比較でなく、経年推移をグラフにすると、このようになります。

グラフ3

東大理一は2019年まで減少トレンドだったのが、2020年以降は増加トレンドに変わっています。特に直近2年間の伸びが著しいです。それと逆の動きをしているのが東大文一です。また、地帝・難関大医医は緩やかな減少トレンドが続いています。

これらの分析・考察から、イブリースさんから頂いた命題「2020年ごろに学力最上位層の進学先の転換点がある」に対しては、「2020年ごろに学力上位0.1%(約1,000人)の進学先の転換点があり、東大文一と地帝・難関大医医から東大理一へのシフトが発生した」という見解を提示できます。

3. まとめ

共通テスト(センター試験)のデータを分析してみましたが、イブリースさんの記事の考察は、定量的にも概ね正しいことが検証できたと思います。また、頂いた命題に対しても、一つの見解を提示できたと思います。

さらに、このデータを使うと他にも色々なことを分析できそうです。例えば、インターネットや雑誌の記事では、以下のような論点が取り上げられますが、これらもおそらく検証可能です。

  • 東大への一極集中が進んでいる

  • 東大理一・東工大と地帝医学部との難易度比較

  • 地帝の最優秀層は東大に余裕で合格できる

せっかくデータを揃えたので、シリーズで記事にしたいと思います。他にも検証したいテーマ(仮説)があれば、コメントもらえれば、分析に取り組んでみます。

分析・執筆に時間かかりそうなので、不定期連載となりますが、興味のある方は読んでもらえると嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?