バカマジメな私が逆ナンで結婚した話♯14
交際は順調だった。
どちらかの家で生活を共にし、ハナキンは二人でBARへ行き、週末は足を延ばしていろいろなところへ出かけた。
しかし、なんでもない平日の朝、急にお腹が痛みだした。
社畜の私でさえ“あれ、今日は仕事を休んで病院に行かなければいけないレベルだぞ”と思うほどの腹痛だった。
心配する宮城さんに『手術とかになったらごめんね』と冗談のつもりで言い、自らフラグを立ててしまった。
そして、私は、また、手術をすることになった。
前回の卵巣の手術から1年経っていないのに、手術のおかわりをすることになった。
今度は盲腸で、手術。
また、お腹を切る。また。
前回は余裕たっぷりに
『拙者、切腹するので、家族の同意が必要なりー!』
と田舎の父に手術の連絡をしたのだったが、今回は号泣しながら連絡した。
『緊急手術を年に2回もするなんて』
と私はたいそうショックを受けていた。
「今回はすぐに駆けつけられない」
と父に言われ、両親が満面の笑みで両手に黒たまごを持っている写メが送られてきた。
娘の私が号泣しているのに、なんて親だ。
しかし、旅行中の両親に代わり、妹がとんで来てくれた。
彼女は術前の説明に付き合ってもくれたが、私のMRIを見るなり、
「おねえのお腹の脂肪、やばくない?」
と医者の前で笑い、
切除後の盲腸を見せられた時には、
「高級な焼肉屋さんのホルモンみたい」
と看護師の前で大爆笑だった。
そして、手術が終わり、全身麻酔がきれかけて意識朦朧としている中、右手でピースを作らされ、写真を何枚も撮られ、
“おねえ、元気でーす”
と写真をキラキラ加工し、両親をはじめ、いろいろな人に送信していた。
なんて妹だ。
数日後、私は徐々に回復し、両親の旅行が終わり、みんながお見舞いに来てくれた。
そして、まさか、宮城さんとエンカウントしてしまった。
私がいけなかった。宮城さんからの連絡がきていることをすっかり見落としていた。
病室で、いつも以上に平凡なるスッピンの顔を晒しているアラサーを挟んで、両親と妹と宮城さんが挨拶を交わした。
「あ、やすこさんとお付き合いしています、宮城です。」
母は今にも「結婚するの?」とでも言い出しそうだったので、私は目で制した。
「あら、結婚を前提に?」
…制せなかった。
宮城さんは「そうですね」と笑顔で返答し、その後すぐに妹が気を利かせて両親を連れて帰ってくれた。
妹、グッジョブだ。
取り繕ったのかもしれない。
私のために嘘をついてくれたのかもしれない。
でも、宮城さんも結婚は少なからず意識してくれているのかと思うと術後の傷口が開きそうなほど嬉しかった。
「それじゃ、また明日来るね」
エレベーター前まで見送りに行こうとする私に宮城さんが、
「今日はすごいところで寝ていたんだね」と、言う。
さっき来ていた妹が「床擦れするといけないからタオル敷いてあげるよ!」と言ってベッドにタオルを敷いてくれていたんだっけ。
よく見なかったけど、どんなタオル敷いてくれたんだろう。
そこには“やられたらやり返す、10倍返しだ”と書かれた真っ黄色のタオルが敷かれていた。
『本当だ。すごいね』
と他人事のようなコメントしか出てこない。
意図せず熱狂的な半沢直樹ファンとなってしまった私だが、こんなベッドで寝てる私をひかずに笑ってくれる宮城さんが彼氏で良かったと心から思えた。
このままどんでん返しなく結婚出来るといいなと黄色いベッドの上で祈った。
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