見出し画像

最近読んで面白かった本「限界分譲地」

よく観ているYouTubeチャンネルのひとつに吉川祐介さんによる「資産価値ZERO -限界ニュータウン探訪記-」がある。お住まいのある千葉県北東部を中心に放棄分譲地や旧別荘地について独自調査を敢行し、顛末をわかりやすく発信しているブログ発の動画コンテンツだ。

私も千葉県民で、北東部エリアには馴染みがある。広々として人が多過ぎずチェーン店もひと通り揃うが、一方で昭和日本のベッドタウン需要と乱開発の熱が冷めてしまった街並みになんともいえぬ哀愁を感じる。

高度経済成長期の盛り上がりやバブル期の熱狂を終え、語弊を恐れず言えば「遺産」として現代日本に生きながらえている風景。要らぬ負動産を抱える方々本人にとってみれば厄介な問題の種でしかないのであろうが、どこか諸行無常の儚さとノスタルジーの入り混じる興味深さを生じさせるのも確かだ。


千葉市の書店では堅そうなタイトルに反しよく売れているようだった

そんな吉川さんの新刊『限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話』(朝日新書)が書店に並んでいるのを見つけ早速購入。動画を補完する内容もあり大変面白く、なるほどなるほどと唸りながら一気に読んでしまった。




限界ニュータウンに住むということ

私の祖父母の住まいは富里市。吉川さんのブログ「URBANSPRAWL」にも紹介されている小さなニュータウンに一軒家を構える。

幼い頃から両親に連れられ富里を訪れるのは楽しいイベントだった。自分の家(千葉市)の周辺にはない雑木林で虫取りに励んだこともあったし、遊びに行くならイオンモール(決して幕張新都心や越谷レイクタウンの規模を想像してはならない)やGEO、WonderGOOのゲームセンターが行きつけ。どれも田舎の主要道路沿いにありがちな駐車場広めの大型店舗だ。「おばあちゃんち」といえば自分の中ではそんな田舎のニュータウンを思い浮かべる。

ただ今になって思うと、住む場所としてはあまりにも不便だったように思う。公共交通機関は全く存在せず、車通りが激しく果てしない一本道のみが接続する居住エリアからは自家用車以外での外出が実質不可能。そのうえ工業地帯の隅に位置し商業中心地からは数km離れているためちょっとした買い物をしに行くのも一苦労だ。

管理の行き届かず住環境が劣悪な分譲地に比べると自治機能は比較的うまく働いているようでニュータウンそれ自体の住みやすさは決して悪くないものの(たまに活動的な方々の街宣車が停まっていることがあったが)実際に自分が将来そこに引っ越したいかと聞かれれば厳しいところである。

70年代の分譲地ブームではこういった土地ですら投機の対象として切り売りされていたというのだから、不動産への期待感がいかにその信頼を担保していたのかがよくわかる。現在は(少なくとも20代半ばである私の個人的主観としては)不動産を持つという行為自体それほどの価値を持っているとは言い難いムードがあり、やはり今後限界ニュータウンと呼ばれる地区の再開発・整備が行われる未来はしばらくの間やってこないのだろうと思わされる。



資産としての不動産

私は所謂ミニマリスト的人間で、必要な部分以外は極力外注とフリーライドをしながら生活するのが理想だと考えている。その時点である程度の都市部での生活を余儀なくされているが、東京から離れてしまえばそこまで土地の値段や家賃が高いということもなく、十分生活を続けられるだけの収支バランスを保つことができている。

それは翻っていえば、一極集中の都心部以外は投機目的の不動産を買うのはあまりリターンの大きい選択肢ではないということでもある。固定資産税に維持管理費、建物であれば経年劣化も免れることはできない。あらゆる付帯負担が積み重なり、資産としての価値をプラスに保ち続けるのは相当の人気エリアでないと難しいだろう。

現代日本では、不動産は持った瞬間に負債となることが確定する。とすると言い過ぎな部分も大いにあるが、少なくとも値段が永続的に上がってゆく土地を手にいれるほどの経済力を手にしていない一般庶民の私の中ではそれに近い印象を持っているのも事実だ。

たとえ仮初めの狂気であったとしても、バブル期までの日本の栄華に思いを馳せてみるとそれはそれで未来に希望があって楽しい時代だったのだろうと思う。一方で、あまり面白くはないが根拠をもとに見据えられる未来が地続きに伸びているというのも実直な生き方をする上では悪くないのかもしれない。なんにせよ、書籍やネットで社会の抱える実態を肌感覚で受け取ることができる現代の豊かさは(かつてのそれとは質的に異なっているとはいえ)また同じように享受する価値があるはずだ。

そんなふうに考えながら幼い記憶の奥の限界ニュータウンに思いを馳せつつ読み進めていった一冊であった。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?