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ただの日常を物語にしてみたら、日常が冒険になった。

春の風が心地よく部屋の中を通り抜けた。今日はお弁当も朝ごはんも作らなくてもいい日なので、私はギリギリまで寝た。そして7:00からのオンラインヨガを受け、8:00からのオンラインヨガを発信した。自分のことだけに集中できる朝の時間は心地良くて、心にもゆとりがでる。淹れたての珈琲を啜り、カリッと焼けたチーズトーストをかじる。どんなに忙しくても、朝のこの時間を持つと心が落ち着く。

ガチャッと息子の部屋を開けてみた。もう2日間も息子の姿を見てないので気になった。大学生なのだし、あまり干渉するのも良くないだろうけど、コロナだし、自粛期間なので、どこにいるのか、誰といるのかは、やはり気になる。
いない!!!布団が畳まれ、昨日と変わらない部屋の様子。2晩もどこで寝泊りしているのやら。特定の彼女がいるならまだわかるけど、今はいる様子さえないから余計心配になる。メッセージを送っても返信なし。

しばらくして、旦那さんが帰ってきた。
「あれ?ツーリングに行ったんじゃなかったの?」
時計を見るとまだ午前11:00だ。休みだからオートバイを走らせると言っていたのだが…。
「もう戻ってきたの?」
「いやあ、実はレンタルでオートバイを借りてみたんだよね、高速走らせたらめっちゃいい感じでさあ、だから2人乗りしたらどんなか試してみたいんだよね。これから行かない?乗ってみて」
はっはあ〜ん。わかった、何が起きるのか、何を言わんとしているのかが…。

断る理由もないし、天気も良いので、私はジャンパーを着てヘルメットをかぶった。西海岸通りを走らせたら向かい風があたり気持ち良かった。北谷の海岸沿いで大の字になり、空を見上げていたら、息子のこともすっかり忘れていた。

「どうだった?乗り心地は?」
「うん、まあまあ良かったよ」と言った途端、「そうだろう!俺も気に入ったんだよね、もうひとつランク上げて乗ってみようかなぁ、」と、もう買う気満々である…。
「やっぱりね、何が言いたいのか、だいたい予想はしてたけどね」と言ってやった。

もうすぐ還暦(60歳)だし、お祝いだと思って、いいんじゃないと言った。オートバイに乗ったらわかるけど、オートバイにスイスイと乗るには、フットワークが軽くないと楽しめない。乗ってる最中もバランス感覚を必要とする。
私は最初の頃、後ろに乗ってるだけなのに、翌日は筋肉痛になった。特に太ももの内側と腹筋群が痛かった。
大型になると、脚の上げ下げをするのに、股関節の開脚も必要になってくるのだ。だから体を鍛えないといけない。
還暦の人だからこそ、余計に意識を持って体を維持しなければならなくなるだろう。そのことも踏まえて、私は良しとしたのだった。 

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トランジットカフェでパスタとチーズフォンデュを注文した。テラス席には、私たちと同じような人(男性3人組)が座っていた。傍にあるヘルメットや革ジャンを見ると、彼らもツーリング途中のようだ。親近感がわきすぐに声をかけそうな私を止めに入る旦那。いつからだろうか、見知らぬ人にすぐに声をかけてしまう。「おばさんがよくやることだよ」と娘にも注意されたし…。冷えたグレープフルーツジュースが美味しい。いっきに飲み干した。
すると、電話が鳴った。息子かな?と思って出たら、母だった。「なんだ」と思った。きっと息子も私の電話を「なんだ、おかんか」ぐらいにしかおもってないんだろうな、とめんどくさがらず母からの電話にでた。
「今どこ?よしこおばさんが亡くなったんだって。これからお通やだけど?行ける?」

私は慌てて店を出ることにした。オートバイでぶっ飛ばし家に向かった。やれやれ。なんて慌ただしい一日なのだろうか。

96歳の大往生を終えたおばあちゃんの顔は安らかできれいだった。顔を見ると、涙がこみ上げてきた。親戚一同が集まり、よしこおばあちゃんの思いでを語っていた。

親戚の家を出たら、携帯へメッセージが入っていた。息子からだ。やっときた。やれやれ。
「昨日からソロキャンプにきてる!めっちゃいい!母さんも来るかい?」
「キャンプ!だったらそう言えばいいのに、あんた連絡ないから心配したでしょ、もう。」と言いながらも、めっちゃ嬉しい!
「行く行く!これから行くから、なにか差し入れ持っていこうか。」と言い、ついさっきこみ上げてきた涙も、すっかり過去の事になってしまっていた。スンマセン。

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沈む夕陽には間に合わなかったけれど、こんなところにこんなキャンプ場があったのかと、興奮してしまった。
家から30分のところ。知らなかったなあ。
火を起こしてる息子を発見。テントもテーブルもコンロもすべて準備されている。
いつもは友達と一緒なのだけど、今日は初の一人キャンプというわけだ。多少心細かったのかな。と私は心の中でニヤリとしたら、
「お前、心細かったんだろうが。父さん達がきてよかっただろう。」と得意げにいう旦那。
「いやべつに。父さんも母さんもご飯たべたら帰ってね。俺これからが楽しみなんだけど。」と息子。なかなか火がつかない息子に旦那が言った。
「火がつかないのか?時間かかるなあ。今度、お父さんがもうひとつコンロを揃えてあげるからな。直ぐに火がついて助かるだろ!」と得意そうに言う。
「いや、別に要らないし、時間かけて火がつくのを待つのが俺は好きだから。それにキャンプってさあ、不便だからいいんだよー。なんでも揃ったらキャンプの意味ないじゃん」
直ぐになんでも揃えてしまおうとする父親と、不便こそキャンプの醍醐味なんだと言う息子。よくぞ言ってくれた!

月明かりが海面を照らし始めた。
夜の静けさの中、炎は炭火から薪へとかわる。
「この匂いわかる?」と息子が聞いた。「分からん」と旦那。「木の匂いだよ、この匂いを嗅ぐと俺じいちゃん家の裏山を思い出す…」

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息子の価値観と還暦オヤジの価値観の違いがみえて、なかなか面白かった。大人でもないし、子供でもない22歳の大学生はこれからの未来を作り出そうという人たちだ。
若い世代から学ぶことはまだまだありそうだ…。
それよりも、今日は、自粛期間の中、慌ただしい冒険のような一日であった。やれやれ。

皆さまお疲れ様でした。



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