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【ライブレポート】Base Ball BearとGalileo Galileiが"懐古厨"に報せる青春と現在地点

Base Ball BearとGalileo Galileiが自分の10代、青春と呼ばれる日々を支えてくれたバンドであることは自分の周りの人はみんな知っている。「自他共に認める」というやつである。母からもこのライブが決まった時に「アンタのためのやつやん」と言われたわけで。


「青春と呼ばれる日々を支えてくれたバンド」という言い方は裏返すと「最近はちゃんと追えていない」という意味にもなってくる。そうなのだ。自分にとって"あの頃"のバンドであるという残酷な認識がある。それでもチケットが販売された瞬間に手に入れたのは、きっと取り返したいものがそこにあるからなのだ。

仕事が鬼のように忙しい中、仮病を使ってでも早く仕事を終えて渋谷に向かった。

Base Ball Bear × Galileo Galilei


会場は渋谷O-EAST。無事ソールドアウト。会場はパンパン。Wet Legの時もそうだったけどO-EASTはソールドアウトすると導線が死んでしまうのがとても厄介。もっと詰めないと人が入らないわよ。ということで、スタッフの人が前に行けばスペースがあるという声に従って人を縫うようにして前方スペースに向かった。

最初はGalileo Galilei。全員がこの日のために作ったというそれぞれの背番号と背ネームが入ったオリジナルの野球のユニフォームを着用して出てくるというとても粋な演出で登場。"Base Ball Bearとの初めての2マン"、そして"8月9日は野球の日"ということ、そして2バンドともに"野球のアニメである「おおきく振りかぶって」"の主題歌を担当したという縁もあり、この粋な演出を考えたのだそう。ということもあり初っ端からBase Ball Bearの"ドラマチック"のカバーからスタート。しかもアニメver.というフル尺でないアニメのオープニングを意識した演出。そして続けて自身の「おおきく振りかぶって」の主題歌である"夏空"へと流れる粋のオンパレード。やることなすことが粋すぎる。

セットリストは現在のGalileo Galileiと"あの頃"のGalileo Galileiとを行き来するような内容になっていて、誰も置いていかない親切なライブだった。
思えば再結成してからGalileo Galileiのライブに行くのは初めてだ。最後に行ったのはZepp DiverCityでやった"broken tower tour" なので、2015年。もう10年振りとなる。10年も経てば色んなことが変わる。

この年齢の10年は人生の中でも大きく変わりすぎるくらいだ。それは尾崎兄の発言やライブ中の姿からも感じた。思わず同世代として「お互い大人になったなあ…」とグッときてしまった。演奏はしっかり円熟し、ちゃんと上手くなっていて、MCやステージパフォーマンス、至るところまで落ち着きと良い意味のポジティブなバイブスに溢れていた。この安心感は以前は感じられなかった部分だった。

Galileo Galilei(撮影:高田梓)https://natalie.mu/music/news/586386

初めて彼らを知ったのはまさに最初の閃光ライオットだった。当時からラジオのSCHOOL OF LOCK!を聴いていて、彼らがグランプリを獲るところから見ていたのでずっと同世代として勝手に親近感を感じていたバンドだった。2010年に初めて渋谷クラブクアトロで見たライブでは、新曲の"夏空"を初披露した日だった。

同世代で葛藤を続けながら音楽と真摯に向き合う彼らを追いかけて、自分も音楽を作ったりしながら追いかけてきた。何度もライブに行きながらライブ中にあまりに彼らのライブが良すぎて悔しい思いをしては下唇を噛んで帰った日もあった。ライブを観ながらぼんやりとそんな10年以上前のことを思い出してしまう。まさに懐古だ。

そんな懐古厨を置いていくように再結成後にリリースされた楽曲を続けて披露する。"あそぼ"では大人になったら彼らからの「それが真っ当な人生だよ」と、強い確かなメッセージを高らかに歌い、会場を多幸感で包括する。

最後は"燃える森と氷河"、"Sea and The Darkness II"という活動休止前の最後のアルバムから2曲を披露し、サックスを取り入れた現体制のGalileo Galileiが、過去と現在をしっかりと掛け合わせた現在地点を見せてくれた。

1.ドラマチック(Base Ball Bear)
2.夏空
3.バナナフィッシュの浜辺と黒い虹
4.ファーザー
5.ノーキャスト
6.ピーターへ愛を込めて
7.青い栞
8.あそぼ
9.ヘイヘイ
10.燃える森と氷河
11.Sea and The Darkness II (Totally Black)



そしてライブが終わり、転換中に仕事の連絡が来たので裏でパソコンを開き仕事をしていると緊急地震速報が鳴りだし、大きな地震がきた。最近南海トラフがどうとか言われているので非常に心配ではあったが、そんなことよりも仕事を片付けないといけない…という必死の思いで仕事をしていた。

しかし転換中に仕事は終わらず、Base Ball Bearのライブが始まってしまった…。1曲目の"17才"が重い扉越しに聴こえてくる。まさかBase Ball Bearのライブ中に仕事をするようになるとは夢中で聴いていた10代の頃からは想像もできなかった。


"17才"、Base Ball Bearの代表曲でもあり、青春を象徴するバンドである彼らにとってはキーワードとなっている楽曲。自分が足繁く彼らのライブに通っていたのはちょうど17才の頃だった。
2011年、東日本大震災が起きて混沌としていた時代の中で当時17才だった自分は、迷いながらも音楽と対峙していくBase Ball Bearとフロントマンである小出祐介の姿をジッと見つめていた。鳴り出した緊急地震速報と大きな揺れから突然そんなことを思い出した。続けて披露された"short hair"がちょうど2011年の夏頃にリリースされた楽曲であったことも心の引き出しから記憶を引っ張り出す要因になったのかもしれない。

"short hair"が終わった頃にようやくライブハウスの中に戻ったので、空いてる場所は二階席の後方しかなく、ちょっとメンバーの頭が見えるか見えないかくらいの場所だった。今の彼らと自分の心の距離としてはちょうどいいのかもしれないと勝手に解釈をした。

高校生の頃、毎回ツアーがあると必ず一緒にライブに行っていたMくん覚えてるかい。いつか俺たちも大人になったら2階席とかでベボベのライブを観るようになるのかな、と話していたこと。29歳になった俺は2階席でベボベのライブを観ているよ。思えば当時のBaseBallBearのライブはモッシュが起きることもあったし、かなり縦ノリの文化がまだ残っていた頃だったので汗びっしょりになってライブハウスを後にすることもよくあった。俺たちの渋谷AXが恋しいね。

そしてBase Ball Bearもこの日のライブ限定でGalileo Galileiの楽曲をカバー。自分達がSCHOOL OF LOCK!で審査員を務めた初回の閃光ライオットのグランプリに選ばれたGalileo Galileiとのこれまでの縁の話を織り交ぜながら、"10代の頃に作られたこの曲が、彼らがいつか自分たちの歳になったら"というコンセプトでアレンジされた"管制塔"。初回の閃光ライオットでGalileo Galileiが披露したのがこの"管制塔"と"ハローグッバイ"だった。
まさに小出節と言わんばかりに歌詞とメロディをあやふやなままに演奏し、その場で歌詞を考えながら歌ってる姿に相変わらずだな〜と思ったりした。あれは間違いなく作詞、小出祐介だった。


Base Ball Bear(撮影:高田梓)https://natalie.mu/music/news/586386


この日、Base Ball Bearのライブに行くのはギタリストだった湯浅が脱退して以降2回目だった。湯浅が脱退してから不思議と足が遠のき、3人で頑張って活動していることは分かるし応援しているが、どうしてか心が動かなくなってしまった。まだこんなことを言っている人間はいないのかもしれないが、4人時代の曲はやっぱり頭の中で湯浅が弾くギターが鳴ってしまう。ないものにどうしても気がついてしまう。それは青春と共に彼らの音楽があった僕のような人間にとっては「戻れない瞬間」というものを必要以上に感じてしまって大きな寂しさと直面してしまうのだ。

もちろん今の3人が思考して、努力して築き上げたグルーヴと音圧で見せる魅せ方は3ピースバンドとしての覚悟と、彼らがデビュー時から掲げている"ここにあるものだけで音楽を作る"という変わらないモットーは本当に素晴らしいことであるのは間違いない。そして相変わらずMCがめちゃくちゃ面白かった。

"LOVE MATHEMATICS"が始まると、彼らのライブの最後が"LOVE MATHEMATICS"か"祭りのあと"だったことを思い出した。今でもそうなのだろうか。毎回「もう終わりか〜」と、この2曲のどちらかが演奏されると感じていたことを思い出した。

今回はその後に"BREEEEZE GIRL"で爽やかな風を吹かせてアンコールで"オリジナル"の"ドラマチック"で盛り上げて大団円。何年ぶりに聴いて改めていい曲であることを再認識した。BaseBallBearは「青春のバンド」の象徴のように言われることはあるが、それは決して男女でみんなでフェスに行ったり、カップルで幸せそうにはしゃいでいる青春ではなく、実はそういった青春とは一番距離のあるバンドなのだ。本当は好きな人に声もかけられないし、目も合わせることもできないような青春に対する憧れが強すぎて妄想で世界を作り上げてしまった人たちの音楽である。


(撮影:高田梓)https://natalie.mu/music/news/586386

そういうモヤモヤした気持ちを昇華してくれる彼らの音楽は僕らの世代にとって心の代弁者になってくれた。今の世の中は分かりやすいものだけが多く溢れるようになってしまったけど、そんな分かりやすいものにだけ自分を合わせようとしないで、モヤモヤをそのモヤモヤのまま自分の宝物にしたっていいのだ。それが自分自身であるし、それが本当は青春なのだから。改めて多くの若い子たちにBaseBallBearを聴いてもらいたいと強く思った。

17才の少年だった自分はもう29才になってしまった。あの頃を思い出してしまって浸りたい感傷と、今を生きている自分との間に立たされながら、アルバム『二十九歳』を聴いて渋谷の街を後にした。


Base Ball Bear
1. 17才
2. short hair
3. プールサイダー
4. 真夏の条件
5. 夕日、刺さる部屋
6. 管制塔(Galileo Galilei
7. Endless Etude
8. The Cut
9. LOVE MATHEMATICS
10. BREEEEZE GIRL
<アンコール>
11. ドラマチック


<まとめ>

この日、久しぶりにいわゆる「邦楽」と括られるようなライブの環境に行って感じたのは、ロックバンドの現場とクラブカルチャーの乖離だった。日本のバンドのライブ(全部ではない)には、フロアというものが存在しなくて、あくまで演者と観客の関係性で成立していて映画鑑賞や舞台に近い感覚を覚えた。大半の人が映画を観ているように佇んでいて、求められたことだけはレスポンスして、ビートよりもメロディと歌詞を聴きに来ている。すごくそもそもの「邦楽」の成り立ちを感じた日だった。

だからこそ尾崎兄ちゃんはギターを置いてゆらゆらと踊りながら歌うようにしたのかな。星野源がそうしているように、オーディエンスに音楽の感じ方、遊び方を丁寧に提示して教えているように感じた。そういうことって実は疎かにしてきたけど大事だしね。もっとクラブカルチャーが一般に開けていて誰にでも平等だったらいいのにねと感じた日だった。

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