懲戒処分の目的(人事責任者に必要な不祥事対応とは)
従業員が不祥事を起こしたので懲戒処分したいというご相談をお受けする事があります。
その際に懲戒処分の程度をどうすべきか、どの程度であれば不当とされないかという論点に終始した議論に大きな価値は無いと思っています。
懲戒制度の信頼性を維持するためにその厳格性、公平性、合理性に慎重になることは当然必要ですし、適正な処分とすべきです。
職場のモラルを維持するためにも勿論、これは必要です。
ただ、懲戒は適正な処分を下すことがその目的ではなくて一部のケースを除き、不祥事を起こした従業員に改悛を促し、再発を予防し、担当職務での貢献に期待することが真なる目的です。
懲戒処分には一般的に以下の段階とその処分内容があります。
この7段階を順に並べると一見、指数関数的に厳しさが増すように見えますが、(5)と(6)の境目にはその目的において天と地ほどの差があります。
(1)~(5)はあくまで会社に残留させ改悛を促し能力の発揮に期待する処分です。
(6)、(7)は組織から離脱させるべきとの判断による処分です。
前者はこの組織に居て貰う者。
後者はこの組織に居て貰っては困る者。
これは歴然とした違いです
このお話をすると決まって「居て貰っては困る従業員だけれども不祥事の程度から(6)、(7)を選択出来ない場合はどうしましょう?」と相談されます。
これに対しては、「本当に組織に居て貰っては困る従業員だと迷いなくお考えなのであれば、懲戒処分という手段によらなくとも、例え民事的リスクを負ってでも、組織のために雇用関係を解消させるべき方向で検討すべきではないでしょうか。」とご回答させて頂きます。
勿論、雇用関係の解消をむやみに促している訳ではありません。
というところから改めて考えて頂く事を目的としています。
「居て貰っては困る従業員だけれども今の不祥事だけではリスクがあって(6)、(7)は選択出来ない。だから、いまは(1)~(5)にしておいて、それを積み重ねる事で将来的に(6)や(7)を選択できるようにしましょう」とアドバイスをされる方がいらっしゃいますが、これではなにかまた不祥事を起こす事に期待しているようで私はあまり好きではありません。(6)、(7)の選択は結果であって目的ではありません。(1)~(5)を選択する以上は改悛に期待するという事をあくまで原則とすべきだと思います。
「不祥事」という事象の裏にはその真なる原因が別のところに隠されている事が往々にしてあります。
勿論、一義的にはその不祥事を起こした従業員に問題がありますが、この場合、その従業員を処分したところでまた後に同じような問題が起こる事が往々にしてあります。
この真なる問題は当事者の懲戒処分だけではなかなか解消できません。
あの会社(職場)ではなぜか不祥事が起こる。
あの上司の下につくとなぜか部下が不祥事を起こす。
A社では問題を起こさなかった甲氏がB社に入社したら問題を起こした。
これは本当に良くある話です。
私は顧客から不祥事を起こした従業員のご相談をお受けした際の本当に価値のある議論はここにあると思っています。
等々。
長く担当させて頂いている顧問先様であれば私もその会社の事情を良く理解出来ているので、不祥事の事象を細かく聞き取りさせて頂いて、このような本質的価値のある議論をスムーズに進めさせて頂くことが可能です。
「戒告が妥当ですね」、「懲戒によらず厳重注意にしましょうか」、「降格処分はリスクがあると思います」
必要ではありますが、正直、これは大して価値がある話ではありません。
今の時代、インターネットを叩いてそれなりに信頼度の高い情報を見抜く力さえあれば一般の方でも正当性のある懲戒段階は十分掴めると思います。(勿論、不祥事の内容と、処分の程度、不祥事を起こした従業員の人間的資質等によるリスクレベルによっては精緻な判断が必要となることもありますが)
迷ったときには1段低い方を選択すれば大きな過ちを犯すことはありません。
雇用関係の解消を目的とする場合を除き、人事担当者は不祥事処理のメインシステムに懲戒制度を位置づけるべきではない、あくまでサブシステムとして利用すべきです。
初犯で軽微な事案を除き、懲戒処分によって労働者の意識が本質的に変わったというケースにほとんど遭遇したことがありません。
改悛が認められたケースは他の取り組みが奏功しています。
人事責任者は適正な懲戒処分を下した事で良い仕事をしたと思いがちですが、不祥事対応にかかる人事の本質的な仕事はそこにはありませんし、服務規律や懲戒に頼らずに不祥事対応を組織やヒトの改善に繋げられる人事責任者こそが真に優秀なのだと私は思います。
この取り組みをご支援させて頂くための引き出しをいくつも準備していきたいと思います。
Ⓒ Yodogawa Labor Management Society
社会保険労務士法人 淀川労務協会
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?