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健康診断実施機関から法定の健診結果情報を会社が直接取得できる根拠について

【ご質問】

先日、労働基準監督署の臨検で「定期健康診断の結果を全員分提出して下さい」と求められました。
健康診断は会社が指定する健診実施機関にて全従業員に対して法定通り実施していますが、会社控えを受け取っていなかったため、健診受診機関に依頼したところ、「常時50人以上の労働者を使用されていないので提出義務はないと思うのですが…」と言われました。
その旨を労働基準監督署に伝えたところ「病院側が勘違いしているのでは」とされ「提出は絶対です」と言われました。
提出を拒むつもりはないのですが、今年に関してはコロナ禍の影響でレントゲン等の一部の健診項目が実施できない事が影響し病院側では提出用の健康診断結果は出せないそうです。
全従業員に持参してもらってコピーをとるしかありませんので、結構な手間と、中には拒否する従業員も居るかもしれません。
私どものような事業者が労働基準監督署に健診結果を提出する義務は本当にあるのでしょうか?


【ご回答】

常時使用する労働者に対し1年以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を実施しなければならない。

これは安衛法第66条1項、安衛則第44条1項を根拠とするものです。これとは別に・・・

健康診断の結果は健康診断個人票を作成して、これを一定年数保存しなければならない。

これは安衛法第66の3を根拠とする事業者に課せられた義務であり、会社は法定の『健康診断個人票』を作成して保存しておかなければなりません。

さらに、安衛法66条の6では・・・

事業者は、第六十六条第一項から第四項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。

とされています。

つまり、労働者に健康診断結果を通知すべき主体は事業者(会社)ですから、会社は定期健康診断で定められた法定の項目に限り、労働者の承諾を得ることなくその結果を健診実施機関から直接取得することが可能であるとされており、会社はその取得した情報に基づいて「健康診断個人票」を作成し、所定の期間(定期健康診断の場合は5年間)保存しなければならない事になります。

例えば協会けんぽの「生活習慣病予防検診」のように「定期健康診断の項目+α」の充実したメニューが準備されていたり、従業員が任意で健診項目をオプション追加するようなケースがありますが、この場合、病院は本人に通知する全ての健診結果と会社に通知する健診結果を別に準備されていて、会社には法定の項目だけが書面通知され、健診実施機関によってはそのまま法定の保存帳票として利用できるようなにしてくれているところもあります。

厚生労働省による「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」による「健康情報」の定義でも、

 安衛法第66条第1項から第4項までの規定に基づき事業者が実施した健康診断の結果 並びに 安衛法第66条第5項及び第66条の2の規定に基づき労働者から提出された健康診断の結果

とされていますから、第66条1~4項については本人の同意なく健診実施機関から当然に直接取得する事が出来る健康情報と解されます。

(※但し、健康情報等の取扱いを担当する者は、人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者、産業保健業務従事者、管理監督者及び人事部門の事務担当者とされ、それぞれの担当者が扱うことができる情報の範囲は、衛生委員会等の場で労使関与の下で検討し、事業場の状況に応じて定めることが求められます。)

従って、ご質問へのご回答を整理しますと次のようになります。

・「定期健康診断結果報告書」の提出義務は従業員50名以上なので必要ない。
・「定期健康診断の結果を全員分提出して下さい」ではなく「定期健康診断個人票が正しく記録、保存されているか確認するためその写しを提出してください」と労働基準監督署は会社に説明されるのがより親切。
・コロナ禍の問題により仮に未受診項目があったとしてもそれ以外の項目については上述の法律根拠により事業者は病院に直接通知を求めることが可能であり、健診実施機関は会社に直接通知すべき。(未受診項目への対応については労基署と要相談)

ご参考ください。

〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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