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残業の15分や30分単位での端数切捨て処理は適切に運用すれば合法且つ効果的な管理手段となり得る話



社員が所定労働時間を超えて労働する場合には、15分単位で管理し、端数は切り捨てるものとする。


この就業規則の文言は当然、違法ですね。

労働時間の管理単位を「分」であると法律は直接的には定義していませんが、法律が要求している適正に把握すべき労働時間の管理単位とこれに応じた賃金の支払い単位は「分」であるものと解されています。(通達等により例外的に認められている端数処理を除く)

労基法に反する就業規則の内容は無効とされ、労基法が定める最低基準にまで自動的に引き上げられるため、この条文は効力を有しません。

一方、次の文言であればいかがでしょう?

社員が所定労働時間を超えて労働する場合には、15分単位でこれを行う場合に限り認めるものとする。15分単位を超えた所定時間外労働についてはやむを得ないものと会社が判断する場合を除き労働時間と認めないものとする。

これは基本的に合法です。(ただし、不適切な運用をしている場合には違法となることがある)

① 必ず書面で労働者に明示しなければならない事項である「所定労働時間を超える労働の有無」について「有」として労働契約が成立している。
② 就業規則等で「所定時間外労働を命ずることがある」等とした文言
③ 命じた所定時間外労働が36協定の限度時間の範囲内にあること

①~③を満たす事で使用者は労働者に所定時間外労働を命ずる事ができ、労働者は原則として使用者が認める範囲を超えて自由に所定時間外労働を行うことは出来ません。

残業命令権が使用者にあるという事は残業を命ずる場合のルールも一定の範囲で使用者が決めることが出来るという事です。

判例においても、神代学園ミューズ音楽院事件(東京高判平成17年3月30日)では、「繰り返し36協定が締結されるまで残業を禁止する旨の業務命令を発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、この命令を徹底していた」こと、また、リゾートトラスト事件(大阪地判平成17年3月25日)では、「上司が早く帰るように何度も注意していたこと」に加え、前任者と比較しつつ「担当する業務をこなすために休日労働が必要であるとは認められない」ことを重要な判断要素として、時間外労働や休日出勤を黙示的にも命じていたとは認められないとし、労働者側の「賃金が支払われるべき労働時間である」との主張を否認しています。

平たく言えば、ルールを厳格に管理・運用していたのであればルールに反する所定時間外労働は労働時間とは認めないが、その運用が杜撰であるとか、残業しなければ処理できないほどの膨大な業務量を与えていた等であれば許可やルールに反した残業も労働時間として認めることがあるという事です。

例えば先のルールを設けた場合のタイムカードの終業時間の記録(所定終業時間は18:00)と、これに対する賃金支払いの基礎となる残業時間の記録が以下であるとします。

7月12日 18:17 ➞ 0時間15分
7月13日 18:03 ➞ 0時間00分
7月14日 18:48 ➞ 0時間45分
7月15日 19:18 ➞ 1時間15分
7月16日 18:02 ➞ 0時間00分


この15分単位超の切り捨て処理は適法と判断される可能性は十分にあります。

労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、タイムカードの打刻時間は労働時間と一致するとは限りません。(むしろ打刻時間ギリギリまで労務に服していたと評する方が不自然)

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)等により、タイムカードやICレコーダーの記録時間が実労働時間と一致しないとする合理的根拠がない場合には、記録時間がそのまま労働時間と見做される事が多いという実情があるだけです。

即ち、15分単位の許可制の根拠と、それと整合するようなタイムカード上の記録があるのであれば、15分単位を超過した数分は業務を終えてからタイムカードを押すために移動したり、列に並んだり、同僚と談笑したりする非労働時間と見做し、その記録の均一性からも実態として厳格な管理・運用が為されていたのであろうと推定されるケースも多くあるのではないかと考えます。

所定時間外労働の単位時間について定めがなければタイムカードだけを根拠として分単位で評価される労働時間が、15分単位の許可制の導入によって実態で評価されるようになるのであれば、15分単位の残業管理は、厳格な運用が為されることを前提として、実効性があり必ずしも否定されるべきものではないものと考えます。

フレックスタイム制等を導入しない限りは所定始業時間も所定終業時間も法律上明確に定めなければならない訳ですから、所定外労働だけを自由に認めるのは不合理で、15分や30分といった単位時間で管理・運用した方が長時間労働の抑制やメリハリのある効率的な働き方に繋がるのではないでしょうか。

ご参考ください。


〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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