新型コロナ禍における雇用維持施策(雇用調整助成金の活用)の問題
「日本はOECD加盟国のなかで実質的には最も解雇規制がきびしい国の一つである」
「雇用の柔軟性を目的として企業が非正規労働者を雇用するインセンティブを削減するため、正規労働者の雇用保護を縮小せよ」
日本はOECDから度々このように指摘されてきました。
日本の労働法、労働判例による解雇規制の困難さから今回のコロナ禍においても企業は雇用維持を余儀なくされ、また休業を指示した際に必要となる企業の休業手当の負担を雇用調整助成金によって実質的に国が補償されることにより、整理解雇の成立要件(要素)を満たすことがほぼ不可能になりました。
つまり事実上、コロナ禍においてコロナを理由に労働者(特に無期雇用労働者)との雇用関係を解消出来ないのが日本の現状です。
確かに過去にはリーマンショックや東日本大震災を中心に社会的有事を凌ぐ施策として雇用調整助成金は非常に有効活用されてきた実績がありますが、日本でコロナ禍が深刻化し始めた頃から私は次の理由により今回の有事にはその性質の大きな違いから助成金による雇用維持施策は馴染まないのではないかと強く疑問を感じていました。
雇用調整助成金は失業者の発生を抑制し雇用の安定に寄与するという効果を生む一方で、一部で助成金に依存し日に日に競争力を失っていく企業(所謂、ゾンビ企業)を生み出し、助成金の緩和措置が終わると雇用調整や部門閉鎖を余儀なくされ、もしくは短期間で廃業してしまう企業を生み出してしまうという弊害を抱えています。
労働者が連続的、断続的に長期休業している企業と労働者が積極的に経済活動をしている企業とでは競争力格差は拡大します。
この弊害はおそらく今回のコロナ禍では過去の有事よりも顕著に露呈することとなり、例えば観光業や外食産業が休業による雇用維持施策を1年間実施し、雇用調整助成金の緩和措置が終了した後に恒常的に大きく縮小してしまうであろうマーケットにおいてこれまでと遜色なく雇用を維持出来るかというと甚だ疑問です。
おそらく物流等の雇用吸収力の高い業態(労働不足となる業態)に労働移動してしまう事となるでしょう。
雇用調整助成金は労働者を在籍企業に残留させ社会が正常化した後に在籍企業で再度活躍してもらう事を目的とするもので、これではその目的を為さない事になってしまいます。
この場合、当該企業に投下した雇用調整助成金は労働者の短期的な生活補償への充当にしかならず、更に当該企業は終息後の経済活動にほとんど寄与しない事になります。(税、保険料等も回収できない)
コロナ政策の目的をこの3つとするのであれば、雇用調整助成金は通常の制度のまま据え置き、以下の施策を講ずる方がスピード感、手続きの容易さ、費用対効果、不正受給の回避等から合理的且つ有用ではないかというのが私の当初からの持論です。失業保険という従来のスキームを利用する事になるので手続きもスムーズで問題となっている雇用調整助成金のような大きな事務負担はありません。
雇用維持を「生活保障」と捉えるのであれば労働者にとって休業手当の受給であろうが失業保険の受給であろうが実態としては変わらない訳で、「コロナ禍後の就業の安定と質」をテーマとするのであれば、レイオフのような一時失業を社会的に許容し、失業保険の拡充による対策を講じ、コロナ後の様変わりした産業構造で「必要な場所に必要な雇用を創出する」事に力点を置く方が、先が見えない中で雇用を無理やり維持することで企業が弱体化し、雇用調整助成金の特例措置が終了することに伴い失業者を増やすことよりも経済も雇用もリカバリーはスムーズで結果として奏功するのではないかと思えます。
雇用維持に固執するのは労働法の問題と失業率の数値的なインパクトを懸念した政治的影響によるものでしょう。(実態と乖離した失業率にどれだけ意味があるのか甚だ疑問です)
雇用調整助成金で休業手当相当分が100%賄えたとしても企業には社会保険料を含めた雇用管理コストが嵩みます。更におそらく新卒、第二新卒の採用抑制によりこれまで以上に生産性が賃金にオンタイムで見合わない中高齢の雇用コストが企業に重くのしかかる事となるでしょう。
コロナ禍以前から雇用流動化はグローバル化した社会における日本の大きなテーマではありましたが、正社員に偏重して強固に雇用を安定化させ続けてきた日本の負の面が今回のコロナ禍の労働施策において露呈してしまっているように思えます。
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