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新型コロナで訪れるテレワーク/リモートワーク時代の最大の懸念と好機

当協会は人事労務管理を中核的業務として大企業から中小零細企業まで600社を超える顧問先企業様をご支援させていただいている事務所です。

新型コロナ禍における各種助成金制度や雇止め・解雇等の雇用調整に関する情報提供やご相談に対応させて頂く事は基本業務として、アドバイザリーやコンサルティングを標榜する以上はよりマクロな見地から人事労務管理の歴史的転換期に企業がどう備え働き方をデザインすべきか半歩先の見地から顧問先企業の皆様に問題提起しご担当者様と議論を積み重ね継続的にご支援していかなければならないと考えています。

そこで今回、取り上げさせて頂きたいテーマは「テレワーク/リモートワーク」です。

テレワークで世間的には最優先課題とされている労働時間管理や個人業績管理の難しさは比較的些末な問題でBeforeコロナでは約1割に過ぎなかったテレワーク導入企業の割合が急拡大することで大手テクノロジー企業のHR分野への新規参入や競争によって比較的短期にその問題の多くをテクノロジー主導で解決してくれるものと感じています。

勿論、テクノロジーでは解決し難い人事制度運用時の不具合や転換時の歪みは人事担当者が丁寧に解消を目指し我々はそれを支援していかなければなりませんが、コロナ禍前からの働き方改革のテーマであった雇用流動化(職務給・仕事給化)、同一労働同一賃金、複線型人事制度、兼業/副業の問題とシンクロする部分も多く、その転換時期がベンチャーやIT企業、大企業を中心に予定より大きく前倒しされることに注意が必要なもののそれほど難しい問題だとは考えていません。

それよりも、各企業が注意しなければならない重要な課題はテレワーク/リモートワークの加速度的普及による「暗黙知の伝承(育成)」と「組織的価値(固有のリソース)の維持」だと考えます。

Off-JTはZOOMやMicrosoft TeamsといったWeb会議システムを利用することで十分代替出来るでしょう。
むしろオンラインによって時間や人数等の制約を受けにくくなる訳ですから、企業規模に関係なくより高度な講師によって均質な学びをリーズナブルに得られる機会は増えると思います。

一方で各企業には各々固有の「場」でこそ創造されるアウトプット、OJTによる学びがあるはずです。

例えば、近年注目されている「デザイン思考」には以下の5つのプロセスが存在し、これがデザイン・ドリブンのイノベーションを生み出すとされています。

1. 観察・共感…ユーザーが何を求め、考えているかといったニーズの探求
2. 定義…ユーザーが抱く疑問や問題点の整理(真のニーズの洗い出し)
3. 概念化…問題点への具体的アプローチすべきか議論(仮説の具体化)
4. 試作…プロトタイプによるアイデア、実現可能性のブラッシュアップ
5. テスト…PDCA展開

特にこの1~3の領域には議論の成果が各企業固有の伝統的なビジョン・ミッション・バリューを土台とした組織文化に由来する事が多く、果たしてオンラインでもこれを再現出来るのかという懸念があります。

そこでオンラインとオフラインの会議の違いを考えます。

オフラインでの会議(議論)がどのように行われているかを良く観察頂ければわかりますが、全体の議論とは別に議論内のメンバー同士による「1 対 1」や「1 対 少数」の小さな議論が並行もしくは事後的に為される事が良くあります。(これはオンライン会議では今のところ見られません)

例えば「朝まで生テレビ」などでも田原総一郎氏の仕切りで為される議論とは別に各コメンテーターが隣席や特定のコメンテーターと小さな議論をしている姿が見受けられます。
あの多くは言葉の意味や事実、ニュアンスの確認作業であったり、本題から派生した議論であったりします。(派生的議論は本題に新たな気づきを与える事があります)

視聴者がいるテレビでもあれだけ小さな議論(会話)が発生している訳ですから、クローズでのオフライン会議ではその議論の場が自由闊達であるほど頻繁に起こり得ます。

この小さな議論はより付加価値の高いアウトプットを生み出すためのものでもあり、議論の精度を上げるためのものであり、議論について行けないメンバーの救済手段でもあったりして実は非常に有用です。(例えば企業独自の言葉のニュアンスをオフラインでは再確認出来ても、オンラインでは現状なかなか困難です)

ここで問題となるのはこのような各企業独自の価値ある暗黙知の共有と醸成をオンラインプラットフォームでなるべく毀損されることなく再現しなければならないという課題です。
この問題をクリアするための手段として考えられるのは各メンバーの言語化能力と解釈能力(理解力)、傾聴力の向上でしょう。

当協会では顧問先600社から毎日のようにご相談頂く複雑な個別労働問題の解消手段について法的解決方法と経験に基づく実務的解決方法の使い分け、ある解決手段を講じた場合に起こりうるその後の展開のパターンとリスクこれへの対応方法について所内メンバーとの日常的な会話の中で意識的、無意識的に共有しこれを組織価値としてきたように思います。
(手前味噌ですが、各人が自己の知識や経験を抱えこむような事はなく、可能な限り共有して、発信し合う事で自身も更なる気づきを得て組織全体としての価値に繋げようとする個人的には素晴らしいと思っている組織文化があります。)

ソニーでは創造を育む場への投資に積極的で、「SAP( Sony Seed Acceleration Program)Creative Lounge」という、社内外の人たちが集うリアルな場があり、ときにイベントやワークショップが開かれ、ときに3Dプリンターでプロダクトのプロトタイプをつくるスペースにもなっているようです。

これをオンラインプラットフォームで再現するためには暗黙知を意識的に言語化して伝えようとし、逆に聞き手は傍観者にならずに腹落ちしない主張に言語化・具体化を求める。
面倒でもこれからはそのような言語化能力、傾聴能力の研鑽が避けられないでしょうし、これを効果的に実現出来る組織が強力な競争力を獲得していくように思います。

そしてオンラインの場では難しい「小さな会話」をオンライン会議外で活性化させる仕組み。例えばオンライン型1on1ミーティングの継続的実施等がその手段と成りうるでしょう。

更には適度にリアル会議、リアル面談、リアル1on1を組み入れたり、継続議論であればオンライン会議後のフォローアップをシステムとして導入することも必要かもしれません。

パラダイム転換期には必ず望ましくない反作用が生じます。

この反作用に対して、「工夫」をもって従前の価値を毀損させることなく、もしくは新たな価値を創造することで、歪みを最短距離で解消出来る企業がAfterコロナの世界を制するのではないでしょうか。

〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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