デモンストレーションの方法に悩まないために|デモには類型がある
要約
新製品や新サービスのデモンストレーションの話です。
デモンストレーションをタイプ別にまとめた資料を共有します。
顧客にどのようなデモンストレーションするか悩んだ時に、PoCの上位概念から整理すると、デモの適切な方向性が見えてきます。
デモンストレーションとは
新しい商品やサービスを最も効果的に訴求することができる手段が、デモンストレーションです。
デモンストレーション(以下デモ)は、商材の存在証明であり、商材のパフォーマンスのエビデンスとなります。
以前、顧客に、企画段階の商品をプレゼンしたところ、こう言われました。
「企画を持ってくる人は山ほどいる。動く物を見せられるようになってから来て。」
この言葉通り、顧客との商談ステージを一気に上げていくトリガーはデモです。
デモを効果的に行うにはどうしたらよいか、悩んだ人も多いと思います。
最低限、商材が実際に動作することをお見せできれば、まずはOKでしょう。
次に、顧客が抱えているであろう課題を想定し、その解決に役立つような見せ方をできればなお良いでしょう。商談成立にぐっと近づきます。
動画にしてしまえば、取り回しよく商材のプロモーションを行うことが可能です。
さらにもう一段、視座を上げていると、違う世界が見えてきます。
いわゆる、概念実証(PoC:Proof of Concept)の領域です。
商材を通して描かれるビジョンや世界観を、ユーザーや顧客を含むステークホルダーと共有し、共感まで広げることができれば、新たなアプリケーションへの気づきや、パートナーとの協業の機会創出の端緒にもなっていきます。
デモンストレーションの類型
PoCのデモは、展示会や動画配信などでよく見かけます。
注目を集めるために、各社様々な工夫を凝らしています。
それらをタイプ別にまとめるとこのようになります。
[世界観・コンセプト型]
市場に大きな影響力を発揮する大手企業のお箱で、大規模なショーでよく見られるデモです。例えば、コンセプチュアルな未来都市を構築したり、ライフスタイルの変革をイメージさせるような斬新な展示方法などで、場を巻き込みます。大きく印象に残るため、ブランディングには適しますが、商談会や見本市などの直近の具体的な取引を目的とした展示会には向きません。
[ユースケース型]
最も多く演じられているタイプのデモです。ユーザーの課題が具体的に分かっている場合に効果的です。ユーザーが抱えているだろう課題に対し、デモでそれが解決することを示します。課題が明確な場合には、強い説得力を得られますが、ユーザーの実像やペルソナがわからない(課題を絞り込めない)ような新しい市場へのプロモーションへは不向きです。
[性能/機能の置換型]
例えば、精密機器の制御プログラムの精度をPRするために、実際の機器を用いるのではなく、卵やマシュマロを潰さずに掴み上げたり、ドリップコーヒーを絶妙なお湯の注ぎ具合で美味しく入れたり、ユーザーに伝わりやすい形で実演するデモです。一般ユーザーも来場可能な、ショーの要素の大きな展示会で有効です。知名度の獲得に苦慮している企業、バリューチェーンの中間に位置づけられる部品メーカー、企業向けのサービスを展開している企業などが、ブランディングで取り入れている手法です。企業ブランディングには大変有効ですが、業界の専門性の高い実直な展示会になるほど、むしろ訴求ポイントが曖昧になり不向きになるリスクもあります。
[体験型]
ユーザー参加型のデモです。例えば、ロボットを相手に卓球をしたり、ゲーム感覚でモデルカーやVR/ARを操り、リアリティや没入感を体験していただくデモです。商材の訴求ポイントを身近ものを通してユーザーに体験させることで、企業ブランドや商材のパフォーマンスを強く印象付けます。ブランディングや話題作りに向いています。メディアの取材を受けやすいのも特徴です。デモの参加者が限られるのが欠点ですが、パブリックビューイングのように、参加者が体験している映像を上映するなどで、多くの来場者を巻き込むことで補うことも可能です。
デモの製作手法
最も説得力のあるのは、言うまでもなく、実際の商材を用いた実演ですが、商材の完成度・予算・日程などの制約で諦めざるを得ない場合も少なくありません。
実際に動作させられる部分のみ実演し、他のところを模型や動画で補うなどの方法が現実的になります。
動画のみはできるだけ避けたいところです。特にCGが入ると、デモの意義自体を損なう恐れがあるため慎重な対応が必要です。
VR/ARによる擬似体験は、バーチャルな商材には親和性が高く効果を発揮しますが、リアルな商材は、デモで来場者に何をコミットするのかを明確にする必要があります。
継続性・展開性を考える
デモを企画し、実現させるためには、相応の費用・時間・労力を使いますので、初めて担当になられた方は、展示会などで実演した後に、燃え尽き症候群のような状況に陥ることがあります。
デモを開発エンジニアが直接担当されることが多いのですが、商材に精通しているからこそこだわりも強く、一回一回のデモで力を使い切ってしまいがちです。
そうならないためのコツは、「継続性」と「展開性」を常に頭の隅に置き、年間を通してデモをどう実施していくか、その目的と期待効果を鑑み、デモをマネジメントする意識で取り組むことです。
プロモーションの一般的な考え方として、「カバレッジ」というものがあります。
一回のデモで網羅可能なユーザーは、想定するターゲットユーザーの母数の数%にも満たないのが現実ですので、場を変え、時を変え、繰り返し訴求していくことでユーザーカバレッジを向上させなければなりません。
言い換えると、ユーザーカバレッジを高めることが、デモの費用対効果の一つの指標でもあるのです。
デモの実施側は一回やると「やった感」が強く残り、全ユーザーに届いたような感覚を無意識に感じてしまいがちですが、これに惑わされず、持続性を常に考えることが大切です。
せっかく苦労して構築したデモならば、元を取るまでしっかり継続的に運用しましょう。
余談
デモを決めるにあたり、PoCのような上位概念での論理的合理性を付与することで、「なぜうまくいったか、なぜうまくいかなかったか」など、デモの実施後の検証と改善の道筋が明確になります。
また、デモの企画においては、関係者の知見・経験・感性に左右されやすいため、「どういうデモをやりましょうか」と白紙でアイデアを募ると10人いれば10人違う意見が出てきます。
社内でのデモ企画の審議においても、デモの類型とその適用性を共有し、合理的説明のもと円滑に合意形成することができれば、期待効果に対する適切な予算・日程で、継続性と展開性の高い良質なデモが実施可能になるではと思う次第です。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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