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愛がなんだ

映画のタイトルが、どこかで聞いたことあるなーと思っていたら、原作が角田光代さんの小説だったのだと本屋さんで気づいた。

──プラスの部分を好ましいと思い誰かを好きになったのならば、嫌いになるのなんかかんたんだ──かっこよくないことを、そういう全部を好きだと思ってしまったら、嫌いになるということなんて、たぶん永遠にない。

これが恋人同士なら、深い愛情だなと思うんだけれど、テルコとマモちゃんの間にあるものは恋愛じゃない。

マモちゃんにとってテルコは都合のいい女であるのに対して、テルコにとってのマモちゃんは世界のすべて。マモちゃんは「好きなもの」でマモちゃん以外のものは「どうでもいいこと」。

なによりもマモちゃん優先で生きる姿は痛々しいのに清々しくもある。だって、私だったらなかなかこんな風に生きられないもん。

悲しいのは、テルコがマモちゃんに好かれようと、嫌われまいとすればするほどマモちゃんが離れてしまうこと。空回って裏目にでて、どうにもこうにも報われない!読み進めながら、(テルちゃん、頼むからもうマモちゃんに嫌気がさして思いきり突き放してやれ!)と何度も思った。笑

だけど、そこはさすがテルコ。恋人になれなくても、どんな形でもいいからマモちゃんのそばにいられることを選んじゃうっていう。

いや、もうほんとに「愛がなんだ!」って感じです。

いつまで経ってもテルコの想いは「恋」のまま「恋愛」にはならない。そして最後にはもう「恋」でも「愛」でもなくなって自分でもコントロールのできない、執着としか呼べないようなものになってしまっている。

読み終えて思ったのは、これがテルコの生き方なんだろうなってこと。

愛したかったし、愛されたかった。それが叶わないから、好きじゃないふりをしてでもマモちゃんのそばにいる。

例えば世界中の誰もに、生きがいや生きる意味なんかがあるとするなら、テルコにとってはマモちゃんがそれなんだろう。すべてを捧げたようにみえて、実はテルコはマモちゃんを違った意味で手に入れたのかもしれないなあ、なんてことを思ってしまった。(たぶんテルコはそんなこと思ってもいないと思うけれど。)


そして、このテルコの「好きなもの」と「それ以外のどうでもいいもの」の線引きの仕方や自分のことすらどうでもいいくらいの捧げっぷりが、どうしても私の中である女性と重なってしまって。

その方とはお会いしたこともないし、たまたまSNSで見かけて一方的にこちらが知っているだけなのだけど、そのパワーたるやテルちゃんの上をいくのでは、と思うほど。とはいってもその方がすべてを捧げていたのは恋人や曖昧な関係性の相手ではなく、「推し」である俳優さん。

舞台は当然のように全ステ、席もほとんどが最前で、そしてその毎回にお手紙を渡し、イベント参加も欠かさない。

お仕事は遠征費やチケット代プレゼント費を稼ぐため、イベント行く日は全力で休む。何かを推してる人ならみんな推しのためなら当たり前だって思うだろうし、このくらいのことは普通なのかもしれない。

でもなんだろう。その方は誰とも違うオーラみたいなものがあるというか。好きな人のためなら妥協もしないし言い訳すら自分自身にさせないくらいの行動力があって。

そして何より、その推しさんに会うことで命を繋いでる感がすごい。

「これのために頑張ろう、これがあるから日々頑張れる」みたいなものじゃなくて、「これがなくなったら自分はもう死ぬしかない。この人が生きていることが尊くて、だからこそ苦しい」というガチ恋すらも超えていくその姿が、この人只者じゃないなという印象で、私はそんな彼女を密かに応援していた。

この「愛がなんだ」を読んだ後、ふと気になって久しぶりに彼女のSNSを覗いてみたら、なんと、いつのまにやら「推し変」していた。

全然関係もないのに、なぜだか私も少しショックを受けながら(笑)、あぁやっぱそうだよなあとも同時に思った。

彼女はきっと、「抜けた」のだ。

そこに自分の意志があったのかなかったのか、私には分からないけれど、その沼からは抜け、別の沼に落ちていった。

テルコだってそうだ。以前の彼氏から別れてくれと懇願されながらも執着し続けたテルコは、マモちゃんと出逢ったことによって、それまでの執着がなんだったのかと思うほどにあっさりとその沼を出て、マモちゃんという沼に落ちてしまった。

それは新しい恋のようにも見えるけれど、実はその対象が別に移っただけなのかな、とも思える。

他のものに分散されないぶん、のしかかる重さでその沼に飲まれてしまってコントロールがきかない。

テルコのその後の人生を覗き見られたとしたら、たぶんそのうちマモちゃんから離れる時がくるんだろうな、と私は思う。

「あれって一体なんだったのかな」と振り返った時にはもう、彼女はまた別の正体不明の沼のようなものに身を浸しているんだろうな、と。








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