事あるときは幽霊の足をいただく!【長編小説】第3章 第5話(2) すなわちオレ最強
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【真視点】
聖子先生は凛然として言った。
「残念なニュースがあるの。このクラスで、またお財布が無くなりました」
安堵に包まれていた教室が今度は水を打ったかのように静まり返った。
聖子先生は教壇に両手を付いて、ひとりの女子生徒の名前を挙げる。
「今朝、報告がありました。昨日の五時限目までは鞄の中にお財布が確かにあったそうです。無くなったと気がついたのは放課後。そうなると六時限目の前後に何かが起こったことになります」
確か、昨日の六時限目は三年一組の教室から別教室へ移動しての授業で、クラスメイト全員が参加していたから、授業の五十分間、教室はもぬけの殻で完全に無人の状態だったはずだ。
外部からの侵入が百パーセントないとは言い切れないが、校門は閉鎖されているし、わざわざ一階職員室の真上にある三年生の教室へ階段を使ってやってくるのは不自然だ。
「何かが起こった」と、聖子先生は婉曲に表現した。
けれどオレを含めクラスメイト全員の脳裏にはひとつの答えが鮮明に映し出されているに違いない。
この中に犯人がいる、と。
「先生はみんなの中に犯人がいるだなんて信じたくありません。みんなも同じ気持ちだと思いますが、今回で三度目です」
一度目は四月後半、二度目は二週間ほど前に盗難事件が起こっていた。
最初は校内で財布を落としたかもしれないという話だったが、二度目が起こると悲しいかなクラスメイトを疑いの色眼鏡で見る生徒が増えていった。
もともと防犯セキュリティーの緩い学校だから、生徒用の個人ロッカーに鍵はついていない。
事件後、貴重品は必ず聖子先生に預けることがクラスの決定事項なっていたが、きちんと預ける生徒もいれば、面倒がって鞄の中で自己管理している生徒も大勢いた。オレも後者のひとりなのだが。
聖子先生は、深い海の底に眠る宝物を探すようにじっくりと時間をかけて、ひとりひとりを見つめた。
それから一度みんなに目を閉じるよう促し、盗難事件について何か知っている人がいるか挙手をするように訊ねたけれど、結局、誰の手も挙がらなかった。と、真之助から聞いた。
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