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【後編:これまでの歩み】スーパーエンプラ向けSaaSのカスタマーサクセスのオペレーション、組織づくりで考えたこと

こんにちは!
テックタッチ株式会社でVP of Customer Successをしている垣畑です。

前回の記事で、テックタッチのCS組織の現在の姿やその背後にある考えを、あくまで発展途上の姿としてですが、ご紹介させて頂きました。
今回は、そうした形に至る2年の中でどんな課題に直面し、どのように解決してきたのか、失敗したことも含め、時系列でドキュメンタリー風にお届けしたいと思います。
これからCS組織を作られる方に、少しでも参考にしていただければ幸いです!

2021年4月:
まだまだ受動的なCSチーム
今のCS活動の良さの根幹だけがあったころ

DEARフレームワークで当時のCSとしての自信度をお伝え(赤➔黃➔青での5段階)

2021年4月ごろ、それまでセールスやマーケもさせて頂いていましたが、CEOの井無田と相談して、徐々にCSに集中するようになりました。もっとも肌に合っていると思ったのと、山積していた問題の解決に相当の時間がかかると感じたためです(私の力不足もありますが、その予想は当たっていました)。

それまでのCSはまだ原始的で、限られた人員で、プロダクトの使い方をレクチャしたりQ&A対応をすることがメインの、受動的な活動でした。今思えばまだまだ未成熟なプロダクトを人海戦術でカバーし、課題解決の解像度を上げるべきフェーズだったはずなのですが、予備的な採用を行えてはおらず、トラブルの対応などに工数の多くを要していました。

結果、「そもそもユーザ様に使って頂くためのデプロイでつまづいている」「何のためにテックタッチを使うのか、UI改善のために作るべきものは何かといった(いわゆる要件定義の)支援ができていない」といった状況で、当社から積極的にお客様を巻き込んで行う本来のCS活動ができていない状態でした。
むしろ実務に忙殺されてしまい、問題は感じていても対策を打つのが今よりずっと遅く、チームに負担がかかってしまっていたと反省しています…(しかもこの状態はしばらく続いてしまいました)

一部、サクセスしているお客様はおられましたが、お客様自身のリテラシ、プロマネスキルそしてコミットが非常に高かった(今でも活用のリーディングカスタマーで居続けて下さっています)のが理由で、顧客全体に対してサクセスの再現性があるとは言えない状況でした。

もちろん良いところもあって、それは今の当社の広い意味でのCS活動の良いところの根幹と変わらないなと感じます。それはCSメンバーの真摯なお客様対応と信頼の醸成、そして開発チームの支援体制です。創業者の二人が大事にするバリューを体現するように、「いつでもごきげん」に、「挑み続けろ 援護があるから」と支援し合う開発チーム、CSチームの文化は既に出来上がっていました。

トラブル発生時、最重要顧客に訪問する際の開発チームのやり取り。
強い覚悟と、"ごきげん"なコミュニケーション


2021年10月:
顧客課題へのディープダイブを開始

Deployの方法論は確立、課題解決の再現性確保に向けて取り組みを加速

当初のCS活動が受動的になってしまっていたのは、当社のプロダクトの自由度が高すぎ(どんなシステムのどんな課題も解決)、またお客様の組織が大きくプロジェクトの変数が多いため案件ごとの個別性が高く、具体的な課題やその解決方法に関する深掘りがしづらかったのが一つの原因でした。
プロダクトの操作方法以外に提案するものが乏しい状態で、CSの基本であるはずの「お客様の課題の解像度を上げる」ことが、なかなかできていなかったのです。

そこで、CEOの井無田と相談し、エンプラ向けビジネスなのだからと腹をくくって、既にハイタッチだった活動を超ハイタッチにギアを上げることを決意。全方位でやるのではなく、まず特に世の中でニーズの強そうな(テックタッチにとってTAMの大きな)いくつかのシステムを選定しました。
そしてITコンサル出身の安藤(現CSMチームMGR)をはじめ、チームメンバーと一緒に文字通り一案件、一システム、一画面ずつ、どんな課題があり、どんな実装をすべきで、どんなKPIで計測すべきかについて掘り下げていきました。
またその頃、こうした取り組みを支援できるような機能もどんどん拡充されてきていました。

こうした過程で、徐々にですが、システムごとお客様ごとに異なる今のCSの提案の原型が構築されていきました。武器を得た形で、能動的にお客様を巻き込んでいくマインドセットへの切り替えも進んでいきます。同時に、システムを導入するお客様も実は外部からのUI/UX改善のアドバイスを求めておられることが分かってきました。(当たり前なのですが)テックタッチだけでなく、そのシステムに関しても利用経験があるわけではないからです。

こうしてお客様を積極的に巻き込み、すぐ傍で伴走し続けるスタイルが生まれ、また顧客課題ごとの解像度が圧倒的に高まったことを受けて、お客様側のチームの強さに頼らない、当社支援によるサクセスの再現性が少しずつ高まってきました。

並行して、CTOの日比野がリードする開発チームの組織強化により、サクセスに向けたテクニカル面での支援が一気に充実したのがこの頃です。
技術的なトラブルに専門的・効率的に対処できるCSE(Customer Success Engineer)チームが発足し、高いコミュニケーション能力と専門知識による支援で、お客様に高い評価を頂いています。

さらに、いわゆるDEARフレームワークの"Deploy"にあたる、テックタッチを多くのユーザに使ってもらうための技術的な課題も大きく改善されました。
当初、お客様の担当者から各個人に呼びかけていただく形で行っていたのですが、当社のエンプラ向けセキュリティ・インフラ・ネットワーク専門家チーム(社内名・PSチーム)が技術的な解決方法を確立、多くのユーザ様の手元まで効率的にテックタッチを届けられるようになりました。


2022年4月:
顧客の課題をさらに深掘り。
並行して、チーム内の役割分担を明確化

Deployの問題が解消、徐々に価値創出の再現性が向上

この頃、顧客課題の解像度を上げる活動のひとつの答えとして、経費精算システムの汎用的な課題解決のためのテンプレートガイドが形になりました("サクセステンプレート"と呼んでいます)。
CEOの井無田肝いりの、将来の起業家育成プログラム"Techtouch Leadership Program"の一期生である小西が市場調査から実装内容まで地道に作り上げたもので、セールス時点での訴求も抜群でしたが、実際お客様にも非常に好評で、お客様の担当者様が見えていないところでも高い精度でペインポイントを捉えることができる、ひとつのサクセスの型ができあがったと言えると考えています。定性、定量の両面から、導入効果も可視化できるようになりました。"DEAR"のうち"Adoption", "ROI"に再現性が完全に確保できたと言える、大きな一歩でした。

また、経費精算に留まらず各システムでの課題の深掘りをさらに加速するため、プロダクト実装のプロフェッショナルサービス(当社CSチームによる巻取り)を新設しました。"お客様が自分でDXをリードできる”というプロダクト本来の思想とうまくミックスしながらサービス提供するように心がけています。

並行して、コンサルティング、プロフェッショナルサービス、それ以外の支援業務をそれぞれの専任者が集中して行えるよう、体制を整えていきました。

  • プロフェッショナルサービスを事業スケールに備えアウトソースするための、パートナー企業様の選定、チーム立ち上げとオペレーションの確立

  • 整理した知見を効率的に型化していくためCS Opsチームも立ち上げ

  • 正式にサポートチームもCSMから職種として分離し、レクチャや問合せ対応、顧客の実装内容のチェックまでの実務を集中

なお、正直言って今振り返ると、もっと先手を打って、役割分担を整えておくのがベストだったと感じます。組織を作る引き出しが当初の自分は本当に薄く、メンバがマルチタスクになりすぎる等の課題が表面化し、CSの諸先輩方にアドバイスを頂いて、遅れて行動に移したというのが実感です。

2022年度10月:
プロダクト、オペレーション、体制が一定の成熟
事業の急拡大に向けた準備が整う

支援の型が固まり、お客様との付き合い方も整理。次に価値提供の多様化を目指す

これまでご紹介した活動により、課題解決には一定の型ができたものの、次なる課題として、お客様であるスーパーエンプラとの関わり方が未熟なままでした(DEARで言えばEngagement)。
前編でご紹介したような、多部門に渡り、現場から役員クラスまでカバーするような面と面でのお付き合いの重要性は、実際には今から半年前は明確には認識されておらず、必要な役割を持った必要な人材がプロジェクトにアサイン頂けず或いはお願いする役割とお客様組織内での役職がアンバランスになり、プロダクトの課題解決の前の段階で頓挫するといった状況が時折、起きていました。

これに対応するため、22年の夏~秋にかけ、セールスにJoinしたVPの西野の動き方を取り入れつつ、またエンプラ向けプロマネのプロフェッショナルである鈴木(現CSMチームMGR)が実践を通して、ベストプラクティスを整理してくれました。これによりエンプラ向け支援のオペレーション全体が一定の型に達したと感じています。

また、顧客の体制づくり支援をさらに強化すべく、鈴木のリードでテックタッチを全社導入頂く際の顧客CoEの体制づくり、オペレーションづくりを、コーチングを含めリードするプロフェッショナルサービスの立ち上げの実証実験を始めたところです。

一方、セールスチームが急拡大したことを受け、「昔これ大問題になったやん」「なにそれ」といったやり取りが起きるようになっており、それまで阿吽の呼吸でやっていたセールスとの連携も型化が必要になっていました。
プロジェクトの成否を分ける重要なポイントをCS Opsの牧がひとつひとつ整理し(当社の場合、ニーズの規模と解像度、およびお客様の体制が中心)、これらのポイントに関しセールスの後半からCSが関与して合意を目指すプロセスを敷きました。また、セールスVPの西野とは週次で1on1を実施し、このプロセスを常に改善しています。

やって良かったこと、うまくやれなかったこと

過去のストーリーはここまでなのですが、書ききれなかったものの特に重要と思っている要素をご紹介させていただきます(ぜんぜんMECEではないです)。

チームとしての長期計画を立てて優先度をつけて取り組む

例えば「ビジネスの拡張ペースがこれくらいだから、xx年xx月頃までにサクセスの再現性を確保する。そこで採用要件も固められるから、xx年xx月頃には採用を終えて事業スケールに備える。その後、xx年xx月までに個別プロジェクトでの生産性改善やアップセルの型化に取り組んでいく」といった計画です。
必要性は認識しながらも、恥ずかしながら、当初は目の前の大課題である「全ユーザへのDeployの再現性確保」や「課題解決の解像度上げ」などにかまけて、短期的なものしか作れていませんでした。
あるCS業界の先輩にバシっと指摘頂いて改めて重要性を認識し、その後、書籍を読んだり様々な会社のCS Headの方とお話させて頂いて計画を作ったのですが、これにより「今は生産性は度外視でサクセスさせに行って良い」「今は人が余るかもしれないけどすぐ事業サイズが追いつくから先に確保してプロセスを固める」「アップセルのことは下期から考える」といったように、施策の優先度への確信が持て、チームへのメッセージングがしやすくなりました。

CS業界の先輩方に壁打ちをお願いする

前述の通り、本稿の内容も含め今のチームのノウハウのうち本当に多くの部分について、社外のCS業界の先輩方からアドバイス頂いています。
当社のリード投資家であるDNX様からの紹介を中心に、社員の個人的な関係を含め、色々な方と相談させていただく機会を積極的に模索してきました。お時間を頂くことにはなってしまうので、noteなど公になっている情報でできる限り勉強するのは大前提としてですが、直接のディスカッションを通して、よりコンテクストを踏まえた具体的なアイデアが生まれると感じています。

カスタマーサクセスという比較的新しい職種で、当社のような独特のビジネス、プロダクトを持つ自分たちがどのように価値提供をしていくのか模索するうえで、スタートアップ業界の相互支援のすばらしい文化は本当に大きな助けとなりました。改めてここで御礼申し上げます。
テックタッチもまだまだ発展途上とはいえ、自分も微力ながら恩返ししていきたいと思っています。私で貢献できそうなことがあれば、是非ご連絡下さい!

チームが必要とする領域に得意分野を持つ人材を採用する

上記の通り社外の知見を取り入れるのに加えて、チームが必要とする領域に特化した深い知見を持つメンバが加入することで、チームは大きく成長してきました。
各人が最も尖ったところを型化し、チームに浸透させることで、チーム全体が効率的に強くなるからです。

当社で言えばプロマネ、エンプラとの付き合い方、UI/UXの設計、情報やデータの統合と整理、Opsの詳細検討、アップセルセールス、個別システムの実装、ベンダーマネジメント、ヘルプページ作りとカスタマーサポートなどなど、メンバひとりひとりの顔が浮かぶほど満遍なくエキスパートが揃っているおかげで(ほぼ完全に結果オーライなのですが)、とても質の高い検討・仮説検証ができていると感じています。
今後も、例えば特に深い知見が必要な個別システムに特化した人材などをスカウトなど能動的な採用プロセスで積極的に探しに行く計画です。

人数に余裕を持って採用する

CSチームは、人が余るより足りないほうがリスクが大きいと考えています
案件流入のコントロールができない中で、お客様に十分な支援を提供する工数を必ず確保しなければならないのですが、人が足りていないと先を見据えた戦略立案はおろか、プロセスの改善や、活動の源泉となる採用活動さえスローダウンし、悪循環に陥ります。当社でもそういった時期がありました(なお上流工程であるマーケ・セールスの要員が足りない場合は事業の拡大が遅くなるものの、それ自体がさらに傷口を広げてしまう構造にはなりにくいと理解しています)。
限られた要員計画の中で、セールス活動が軌道に乗らないとCSを増やす意思決定がしにくいのが自然であることも織り込みつつ、たらればではありますが、ある程度見切り発車でチームを拡大しておけば、よりスムーズに組織を立ち上げられたのではと考えています。

今後に向けて

言うまでもなくテックタッチはまだまだ成長の途上にあり、今後も伸びしろは無限にあります。
CSの中だけでも、お客様のDX基盤として利用頂くことに向けたCS側でのアップセルの型化や、MM(Mid-Market)市場への進出に向けたロータッチ化、逆に前述のエンプラ向けで超超ハイタッチで行うコンサルティングのプロフェッショナルサービス、また拡大し続ける組織のメンバーにとっての価値も高めていくための能力開発プログラムや評価制度の確立などなどに向け、次の1年の課題としてチーム一丸で取り組んでいきます。
採用も積極的に行っていますので、ご興味を持ってくださった方、ぜひご連絡ください!

改めまして、長文を最後までお読みいただき誠にありがとうございました!

ご紹介①
なお前編にて、2023年2月時点の当社CSチームの姿やオペレーションの具体をご紹介しています。ご興味持って頂けた方はぜひこちらもご参照下さい
スーパーエンプラ向けSaaSのカスタマーサクセスのオペレーション、組織づくりで考えたこと(前編)


ご紹介②:当社チームの投稿もぜひご覧ください!
CEO井無田:シリーズB資金調達に寄せて:
 前編:これまでのキーとなった意思決定を振り返る
 後編:テックタッチの現在地と4つの新たな挑戦
CFO中出:
シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか

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