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昼のお話です。 学校へ行ったり、お散歩をしたり、家でごろごろしてみたり、それぞれの過ごし方をして、それぞれに感じることがあるようです。
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2020年6月の記事一覧

しお加減

 「今日はお赤飯だぞう」

ってその人は明るく笑って言った。

「なんのお祝いですか?」

僕が首を傾げると、いたずらっぽく目配せして、

「私の慰労会だよ」

と言った。

 慰労会。成果や業績、または苦労などを労う会のこと。わざわざググらなくたってそんなことは知っていたけど、僕はトイレの中で口を尖らせながら調べた。何で慰労会?何かあったのか?

 まあ何でもいいじゃないか。お赤飯は好きだ。ほく

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悪くないんだ

 「甘いの、好き?」

無邪気に笑う彼女に、僕は曖昧に微笑む。

「うん、好きだよ」

ああ、また要らないことを言った。うん、だけで良かったんだ。だってほら、彼女は少し頬を赤らめて俯く。長いストレートの黒髪がさらさらと溢れて、彼女は遠い方の手でそれを耳にかける。ちらりとこちらに目をやって、嬉しそうにはにかんでしまった。でも、これはただ答え方の問題じゃないか。僕は悪くない。悪くないぞ。彼女の聞き方が

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フラペチーノ

フラペチーノ

「でさあ、三木がさあ」

「うん」

藍依は目を輝かせて喋る。

「今度一緒に海行こうって。華も行こうよ」

期待に満ちた目で顔を覗き込んでくる。三木くんはクラスメイト。藍依と仲良しで、派手な男女のグループでよく一緒にいる。

「私はいいよ。楽しんできて」

「ちぇー、華とも海行きたいのに」

素っ気ないふりをして太いストローに口をつけながら、そっと横を盗み見る。口を尖らせて拗ねている顔が、やっぱ

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馬鹿の天秤

 「芋が食べたいなら芋食べれば良くない?」

みんなの顔がこちらを向く。え、何言ってんのこいつ、みたいな目だ。ばりばりとお菓子を噛み砕く音が響く。

「いや、だって普通にさ、じゃがいも買ってきて揚げればそれになるわけだし。なんなら蒸して塩かけたほうが美味しいって」

「はは、馬鹿だなー花楓は」

油でギトギトした手がティッシュに擦りつけただけで綺麗になったと思っている大馬鹿者が言った。

「それが

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