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ケンブリッジ・アナリティカによって表面化された情報との向き合い方

2018年に倒産した「ケンブリッジ・アナリティカ」という会社をご存知だろうか。

ケンブリッジ・アナリティカはコンサルティング会社だが、その対象が「選挙」であることが特徴だ。いわゆる、選挙にマーケティング・データ分析等を用いて勝利に導くという、普通に生活しているとあまり聞き馴染みのない分野の会社である。

馴染みはなくとも、選挙コンサルティング会社は日本にも存在している。選挙に勝つためにそういった会社が使われている、という事実は知っておくべきかもしれない。

そして、その中でも「ケンブリッジ・アナリティカ」は、イギリスのEU離脱、トランプのアメリカ大統領当選を暗躍していた会社であり、それが違法に収集した個人情報によって行われていたということが問題となった。

ただ、今回ピックアップしたいのはそれが問題かどうかではなく、その手法によって浮き彫りになった私たちの意志について、だ。

自由意志とは何か。
データとSNSが手を組んだとき、そのことに向き合うことになるということを、ここで述べていきたい。

SNSが情報をハックする

皆さんは、性格診断のようなものをしたことはあるだろうか。
いくつかの質問に答えると、「あなたは○○タイプです」というような表示が出て、自分の性格と特徴を知ることができる、というようなもの。

当時、フェイスブック上で性格診断アプリを表示させ、5000万人ほどのアメリカ国民の性格に関するデータをケンブリッジ・アナリティカが不正に入手(したと言われている)。

それによって、騙されやすそうな人、政治的な意見を変えそうな人にターゲットを絞り、自分たちが支持する政党に意見が傾くように、広告やフェイクグラフィックを見せて行動誘発をしていたというのだ。

このなんとも恐ろしい事件は、ケンブリッジ・アナリティカに勤めていたエンジニアの内部告発によって表面化。世界を揺るがす大スキャンダルとなった。

この問題の本質は、情報操作によって誘導されていた人々は、自分が誘導されているという自覚がなく、「私たちは自分の意志のもと選んでいる」と発言しているということだ。

自由意志とは何か

神経科学や脳科学のような世界では、「自由意志」というものに対してかなり懐疑的な意見があり、周辺環境によって人の意志はある程度決まってしまうと言われている。

そして、詳細なターゲティング広告ができるようになった現代は、遠隔で自由意志のコントロールができるようになってしまった時代であり、それがファクトとして露わになったのが今回のニュースだ。

政治レベルで情報操作が行われてしまう現代において、私たちの自由意志はどこにあるのだろうか。

「中国みたいな独裁国家って怖いよね」と思っている足元では、自由意志をコントロールした民主主義っぽい独裁政治が行われている、なんてことが現実としてあり得るのだ。
それは日本だって例外ではない。

そして、これは政治だけの話ではなく、私たちの購買行動や余暇の使い方、物事の考え方など、あらゆる側面から考えられる話だ。

こうやって文章を書いている僕自身も、何かの誘導によって書かされているのかもしれない。

私たちは、そういった情報社会の中で生きていることをまず自覚する必要があるだろう。そして、それらの誘導からできるだけ解放された形で、自分の意見を持っていたいもの。

そのためには、何が必要なのだろうか。

自己コントロールをするには

まず大事なのは、「私たちは情報によって操作されている」ということに対する自覚だろう。このようなとき、「自分は大丈夫」と思っている人ほど危ない、というのは言うまでもない。

まずは、自覚すること。
自覚があって、初めて解決方法を模索できる

そしてもうひとつ大事なのが、ファクトを取りにいく習慣だ。

誘導されやすい人の特徴として、ひとつの情報に妄信的になってしまうことが挙げられる。基本的に人は「都合の良い情報を取得しようとしがち」である。そして、自分が取得した情報によってレコメンドされ、都合の良い情報がさらに溢れかえるようになるのがデータマイニングの特徴。

まずは、「自分にとって都合の良い情報を自分は無意識のうちにとっている」という前提に立ち、情報と向き合うこと。そして、目の前の情報と真逆の意見や考えの情報を、意識的にとることだ。

閉じていく人間関係

情報操作から自立するために大事なことは、もうひとつある。
それが、人間関係だ。

SNSによって、私たちは多種多様な人たちと接点をもつことができるようになった、と思うかもしれないが、大抵は真逆のことが起きている。

SNSによって誰とでも繋がれるようになった結果、自分にとって居心地の良い意見や考えに閉じてしまえることが、SNSの怖さである。

妄信的になってしまう人の特徴として、孤独であることと、繋がりのあるコミュニティが単独であることが挙げられる。
その結果、聞きたくもない意見には耳を塞ぎ、見たくもないものには目を伏せる、そういうことができてしまうのだ。

ためしに、自分のTwitterを見てみてほしい。
どれだけ多様な年代、趣味、国、意見の人をフォローしているか。

多様性とは何か

グローバル化が進む現代は「多様性」が叫ばれるようになっている。
にも関わらず、なぜイギリスはEUを離脱し、種族主義のトランプは当選してしまったのだろうか。

立場や考えが違う人が世の中にはいる。
それを受け入れることが多様性であるはずなのだが、それらを拒絶した関わりしかもたなくなってしまうと、SNSによって世界は分断されてしまうことになり得る。

より良い社会を考えるうえで、情報との向き合い方は非常に重要な要素である。情報操作が表面化された「ケンブリッジ・アナリティカ」の事件から、それを学ぶ必要があると僕は感じている。

コントロールされた自由意志のもと、自分たちで意思決定していると思い込まされた社会に生きるか、確かな自由意志のもと、建設的批判や問題提起の先に成り立つ社会に生きるか。

その分岐点が、今であるような気がする。


【ケンブリッジ・アナリティカの歴史】

1989年:非営利のシンクタンク「行動ダイナミクス研究所(BDI/Behavioral Dynamics Institute)」設立。
創設者:ナイジェル・オークス
協力者:ケンブリッジ大学の心理学研究者
目的:「コミュニケーションを通じて人間の行動を理解し、その行動に影響を与える方法を研究する」
⇒心理学、脳科学などの最新の知見をマーケティングに活用して商業利用する可能性を探ろうとした

1993年:「戦略的コミュニケーション研究所(SCL/Strategic Communication Laboratories)」を設立。
創設者:ナイジェル・オークス
BDI⇒SCLの非営利の外郭団体(約60の学術機関と数百人の心理学者からなる共同事業体)となる
BDIの理事⇒エリザベス女王のいとこなど
目的:「心理学や人類学による学術的な洞察を使って従来の広告手法をより実り多いものにする」
実態:「イギリスの上流階級が大衆を操作する手法を研究し、実践するためにつくった会社?」

2001年:9.11同時多発テロが勃発。
各国がテロ対策に力を入れ始め、SCLはいくつかの政府のパートナーになっていった

2010年:オークスはSCLをニックスに任せ、選挙コンサルティングビジネスへと転身を図る
ニックス:営業のターゲットをアメリカに定める
当時のアメリカ:「共和党=保守派」は、従来の選挙活動ではITとSNSを駆使する民主党に対抗できないとの強い危機感を抱いていた。
⇒SCL:最先端の心理学とビッグデータを駆使した選挙戦術を共和党・保守派に売り込む
⇒保守派に人脈を広げていく
ロバート・マーサー:共和党・保守派の主要な資金提供者
⇒選挙に「科学」を持ち込んだSCLとニックスに関心をもつ

2012年:「ケンブリッジ・アナリティカ」設立
創設者:ニックス
⇒マーサーが1500万ドル出資

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