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物理学の地図

最近は、量子コンピュータのおかげで量子力学が世間的に認知されてきた気がしますが、学生時代に素粒子物理学を研究していた身からすると、量子力学はスタートライン以前の話だったりします。もっと難しい理論が、まだまだ山のように立ちはだかっていて、今から振り返るとよく勉強したなぁと思いますねぇ。

そこで、当時何を勉強しなきゃいけなかったのか、ある理論を勉強するには前提としてどの理論が必要なのか、というのを振り返りつつ、一度、図にしてみようと思い立ちました。もしかすると、現在勉強している人には、この先何が待ち構えているのか知る(覚悟を決める?)と言う意味で役に立つかもしれません。もし、役に立てれば嬉しいですね。

自分なりに各理論の関係性を図示したものは下記になります。全く知らない方には「うわぁ(-_-;;)」となると思いますので、見ないほうが良いかも?しれません。

物理学の地図

「うわぁ」となったでしょうか?

でも、図を見ると量子力学は真ん中あたりですよね?
まだまだ先は長いことが分かっていただけたかと思います。

ただ、図だけでは説明不足な気がするので、各理論を簡単に説明したいと思います。詳しい説明はWikipdeiaに任せて、なるべく知らない人にも分かりやすくしたいと思いますが、自分の元専門分野なので長くなってしまうかもしれません。。。

ニュートン力学

ニュートン力学は、言わずと知れた科学の出発点ですね。ニュートン力学では、自然を説明するために「力」という概念が導入されています。で、その「力は加速度に比例するよ」というのが運動方程式F=maです。

この基礎的アイデアは、ニュートンが20代の頃、当時流行していたペストを避けるために疎開していた先で考えたもののようです。いわゆる「万有引力の着想」がこの時にあり、後年「自然哲学の数学的諸原理」の刊行によってニュートン力学が体系化されました。

また、有名な「りんごが落ちるのを見て、万有引力を思いついた」というのは、どうも都市伝説っぽいです。ニュートンは、現代でいうコミュ障にちかい性格だったようなので、説明するのが面倒だったのかなぁ?と想像しています。当時、既に存在していたケプラーの天文観測データを数学を使って説明しようとしていて着想に至った、という方が何だかニュートンらしい気がします。

なぜニュートンが自然科学の出発点だったかと言うと、それまで自然哲学と呼ばれていた学問を、数学を使って説明したからでしょうね。これによって、説明だけでなく現実的な予測も可能になりました。

しかし、自然科学では「物体がなぜ存在するのか(目的因)」を原因とは考えず、アリストテレスの四原因のうち「どのようにして存在するのか(作用因)」のみを原因と考える立場を取ることになったため、哲学上では論争になったようです。

(参考)
https://ja.wikipedia.org/wiki/アイザック・ニュートンhttps://ja.wikipedia.org/wiki/運動の第2法則

流体力学

物質の素要素を個別に扱うのではく、流体として扱う力学で、基礎方程式はナビエ・ストークス方程式です。「流れている」とみなせるものは流体として扱えるため、液体や気体はもちろん、地球内部のマントルとか、銀河系とかも流体として扱えたはずです。身近な例では、天気予報のシミュレーションは、ナビエ・ストークス方程式を使っています。ただ、どんな条件でも当てはまる解析解(関数として書ける解)は見つかっておらず、賞金付きのミレニアム問題の1つになっていたと思います。

ニュートン力学では物体を追跡してその運動を記述しますが、流体力学ではある位置における流体の変化を運動方程式として記述します。前者を「粒子描像」、後者を「場の描像」とでもいえばいいのでしょうか。「場」の考え方は高度な理論で必要になり、とても重要です。

(参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/ナビエ–ストークス方程式

光学

ニュートンがプリズムを使って太陽光を七色に分けたことで有名ですね。幾何光学では、屈折や反射、重ね合わせ、干渉、回折といった現象を幾何学的に研究していました。これらの現象の多くはフェルマーの原理に集約されます。

ただ、重要なのは、光学が波動の性質を明らかにし、例えば「回折現象が見られれば、それは波動である」といった判断を可能にしたことかと思います。ちなみに、現代では、量子力学に基づく光学になっていて、レーザーとかホログラフィなどの現象が研究されています。

(参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/幾何光学

解析力学

解析力学は、物理学全般に影響を与えたという意味でとても重要です。解析力学では、座標と速度(座標の時間微分)を独立変数として扱い、座標と速度を変数とする関数を定義すると、最小作用の原理という1つの法則によって、全ての物理学分野の運動方程式を導出することができます。(ナビエ・ストークス方程式はどうだったかな?)

ただし、座標と速度を使う場合と、座標と運動量を使う場合があります。前者の場合は、一般の関数をラグランジュ関数、最小作用の原理で導出される一般の運動方程式をラグランジュ方程式といい、後者は、ハミルトン関数およびハミルトン方程式(あるいは正準方程式)といいます。物理学ではラグランジュ関数を使いますが、化学ではハミルトン関数を使う場合が多い気がします。

解析力学によって、理論物理学の問題は、多くの場合、どのようなラグランジュ関数(より正確にはそれを積分した作用関数)を定義するかという問題に帰着することになります。

(参考)
https://ja.wikipedia.org/wiki/解析力学
https://ja.wikipedia.org/wiki/ハミルトン力学

熱力学

熱力学は、18世紀末の産業革命の発端だった蒸気機関を学問的に研究した分野です。蒸気機関が対象なので、気体の熱と圧力と体積の関係を明らかにしています。熱自体は、気体分子運動論から、物質ではなく分子の運動エネルギーの巨視的な現象ということが明らかにされました。

この研究の中で、エントロピーという概念が導入され、有名な熱力学第二法則のエントロピー増大の法則や、永久機関の不可能性などが見つかっています。エントロピーの考え方は、現在でも情報エントロピーという形で情報工学などに応用されています。

熱力学の重要な点は、扱う物理量(温度、圧力、体積など)が巨視的(マクロ)で、実験で観測可能だということです。この後、物理学は微視的(ミクロ)な現象の解明に進みますが、ミクロな現象を直接的に実験で確かめることが難しくなります。そのため、ミクロな予測をマクロな熱力学的物理量に結びつける必要があります。

注意点としては、熱力学は平衡状態同士を断熱過程(=熱が変化しない程度にゆっくり動かす場合)で結びつける理論で、ほとんど非平衡状態は扱えません。

(参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/熱力学

統計力学

統計力学は、熱力学を分子のようなミクロな対象物から演繹的に導出するために作られた分野です。言葉は似ていますが、統計学とは全く別のものです。前述のように、ミクロな現象を実験観測可能な熱力学に結びつける理論として、とても重要な役割をになっています。

この分野では、ボルツマンやギブスが有名ですが、何といってもボルツマンの貢献が大きいのではないでしょうか。ボルツマンの墓碑には、ミクロとマクロを結びつける公式S=klogWが刻まれていることも有名です。

この公式の中で、Sはエントロピー、kはボルツマン定数、Wは状態数を表します。また、この公式は、情報エントロピーの定義にも応用されています。状態数というのは、分子などの全対象物が取りうる場合の数になります。例えば、コンピューターのビット(0,1を取り得る)を対象として、4ビットを考えると、0000, 0001, 0010,....,1111の16通りの場合の数があるので、状態数=16となります。もし、各ビットを区別できないとすると、組み合わせの数は5通りになるので、状態数=5となります。

で、この公式は、①真空の中にポツンとあるような孤立系(ミクロカノニカルアンサンブル)の場合に使える公式ですが、②外部から熱エネルギーが常に供給されて温度が一定に保たれる場合(カノニカルアンサンブル)や③外部から熱エネルギーだけでなく粒子などの対象物が常に供給され化学ポテンシャルが一定に保たれる場合(グランドカノニカルアンサンブル)には、状態数Wの代わりに分配関数Zを使用します。アンサンブルの違いによる公式の違いは、英語版Wikipediaの表が分かりやすいかと思います。

実は、カノニカルアンサンブルの分配関数の考え方は、経路積分との類似もあり、この後でとても重要になります。

(参考)
https://ja.wikipedia.org/wiki/統計力学
https://en.wikipedia.org/wiki/Statistical_mechanics

電磁気学

主に19世紀に研究されていた分野で、電気と磁気の性質を明らかにしました。ガウス、ファラデー、テスラ、アンペールなど現代でも単位として名前が残る有名人が多数います。彼らの研究は、最終的にマクスウェル方程式として4つの公式にまとめられました。現代でも、スマホの無線充電は、マクスウェル方程式の1つである電磁誘導の法則を利用していますね。

しかしながら、一番重要なのはマクスウェル方程式が波動方程式にまとめられるという点かなと思います。これによって電磁波の存在が予測されました。ラジオもテレビもスマホも、電磁波の存在を知らなければ発明されることはなかったでしょう。今や現代文明に欠かせないという意味でとても重要だと思います。

(参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/マクスウェルの方程式

1900年、電磁気学の完成をもって、マクスウェルは「(細かい問題は残っているものの)物理学は終わった」と宣言しました。しかし、宣言とは裏腹に、20世紀の物理学はさらに多様性を増していきます。きっかけは、1905年。アインシュタインが、当時の3つの未解決問題を、全く新しい発想で一人で解決したことでした。これにより、1905年は物理学史上で「奇跡の年」と呼ばれています。

量子力学

1900年、黒体放射の問題(温度と色の関係の問題)を解決するために、マックス・プランクが「エネルギーは離散的(とびとび)である」という仮定を導入したことが、量子力学の発端になりました。このとき導入されたエネルギーが飛ぶ幅の最小単位を、プランク定数hといいます。プランク自身は量子力学を支持していなかったという話もありますが、プランク定数は量子力学を特徴付ける物理定数になりました。

1905年、光電効果の問題(金属に光(波動)を当てると電子(粒子)が飛び出す現象)を解決するために、アインシュタインが「光量子仮説」を唱え、波動の振動数νが粒子のエネルギーEに比例すること、またその比例係数がプランク定数hになることを見出し、波動を粒子に変換する公式E=hνが提案されました。この功績により、アインシュタインはノーベル賞を受賞しています。光電効果は、太陽電池や発光ダイオードといった技術の基礎になった現象ですね。

1924年、逆に粒子が波動の性質を持つことは、ド・ブロイによって提唱され、電子の回折現象が確認されたことで確定しました。これをド・ブロイ波と呼び、粒子の質量mと速度vから、波長λを算出する公式λ=h/mvによって、粒子は波動に変換されます。ただし、これは電子などの微視的な対象についてだけ成り立ちます。

結局、これらの研究に基づくと、粒子を波動と考えても良いし、波動を粒子と考えても良いことになります。そのため、「波動や粒子はそう見えるだけで、本質は別物では?」と考えられるようになり、その本質的な何かを「量子」と呼んでいます。

最終的に、これらは基礎方程式であるシュレーディンガー方程式の確立によって、統合的に理解されるようになります。シュレーディンガー方程式Hψ=Eψは、電子などの物質の量子を波動関数ψとし、ハミルトン関数を演算子Hとして波動関数に演算すると、固有値としてエネルギーEが算出されるという公式です。ハミルトン関数を演算子に変更する手続きを(第一)量子化といい、運動量pをp→(ih/2π)∂/∂xと微分演算子に置換することがその手続きになります。

このあたりから、自然は人間が日常的に感じていたものとは全く異なる姿を見せ始めます。常識では捉えられないため、最初はなかなか理解することが難しかったです。

(参考)
https://ja.wikipedia.org/wiki/黒体
https://ja.wikipedia.org/wiki/光電効果
https://ja.wikipedia.org/wiki/ド・ブロイ波
https://ja.wikipedia.org/wiki/シュレーディンガー方程式

特殊相対性理論

アインシュタインで有名な相対性理論は、特殊相対性理論(重力を含まなない)と一般相対性理論(重力を含む)に分けられ、前者は1905年に発表されました。

私たちは、漠然と「地球の自然法則と月の自然法則は同じだろう」と思っていますよね。物を手放すと、地球では落ちるのに、月では上昇するなんてことは起きるとは思っていません。同様に、今と昔で自然法則が変わったとも考えていません。

この「自然法則はいつでもどこでも同じはず」という感覚を相対性といいます。専門用語で言うと、「2つの慣性座標系を適切に座標変換すれば、2つの慣性座標系の物理法則は変わらない」といったところでしょうか。

また、これは「時間や空間は、いつどこであろうが、物があろうがなかろうが変わらないはず」ということを暗に仮定しています。これを、時間や空間の絶対性といい、絶対時間・絶対空間といいます。しかし、これが光に対しては成立しませんでした。

当時、光は波動と考えられていました。海の波は海水がなければ起こり得ないように、光の海水に当たる何か(エーテル)があると考え、地球の公転の速度を利用した実験でこれを捉えようとしました(マイケルソン・モーリーの実験)。春の光と秋の光では同じ場所でも公転によって地球の進む向きが逆になるので、エーテルの影響で速度差があるだろうと考えたんですね。

しかし、速度差は全くありませんでした。その後の精度を高めた数々の実験でも、結果は同様でした。

この結果を受けて、ローレンツやポアンカレは、エーテル説をベースにして、光にとっては長さの尺度dxが伸びる(=同じ長さのものは縮んで見える=ローレンツ収縮)とか、光にとっては時間の尺度dtが伸びる(=時間の進みが遅くなる)とし、結果として、光の速度c=dx/dtが一定に保たれると解釈しました。が、これはちょっと無理やりな印象でした。

この問題を、発想の転換ですっきり解決したのが、アインシュタインの特殊相対性理論です。

アインシュタインは、実験の結果から、「光の速度は、いつどこで測定しても(真空かつ慣性系であれば)変わらない」ことを大前提に置くことにしました。これを「光速度不変の原理」といい、大きな発想の転換でした。

なぜなら、これは、絶対時間・絶対空間というものはなく、絶対速度だけが存在する(=絶対速度を一定に保つために時間と空間はいくらでも歪む)という主張だからです。これは、私たちの漠然とした常識から逸脱しているため、相対性理論の理解を難しくしています。また、このことから、アインシュタイン自身は、相対性理論ではなく絶対性理論と名付けたかったという話もあります。

では、絶対速度を前提とした場合、相対性を保つにはどうしたら良いでしょうか?相対性が保てないと、地球と月とでは別々の自然法則が必要になってしまいます。

結論としては、慣性座標系間の座標変換を変更すれば相対性が保たれます。

専門的になってしまいますが、慣性座標系A(t,x)が慣性座標系B(t',x')に対して一定の速度vで移動していた場合、私たちの常識的なAからBへの座標変換(ガリレイ変換)は(ct',x')=(ct,x+vt)ですが、特殊相対論の座標変換(ローレンツ変換)は(ct',x')=(ct+γ(v/c)x,x+γvt)となります。ここで、cは光速度、γ=1/sqrt(1-(v/c)^2)はローレンツ因子です。

ローレンツ変換では、時間も変換の対象になっていることがポイントです。ガリレイ変換では時間は変換されないため、慣性座標系A,Bの時間は常に同じものになります。しかし、ローレンツ変換では時間も変換されてしまうため、慣性座標系に固有の時間τを考えて、慣性座標系内の運動は4次元座標(ct(τ),x(τ),y(τ),z(τ))で考えなければいけなくなります。

ニュートン力学における相対性は「ガリレイ変換に対して不変であること」(ガリレイの相対性原理)が条件になりますが、同様に特殊相対性理論の相対性は「ローレンツ変換に対して不変であること」(アインシュタイの特殊相対性原理)が条件になります。ここで、不変とは、運動方程式に変換をほどこしても、同じ運動方程式に戻る(=慣性座標系を変換しても同じ自然法則が成立する)ことです。

では、ローレンツ変換は何なのかというと、実はミンコフスキー空間(=(ct,x,y,z)の四次元時空)の回転変換になっています。そのため、結論的に一言で言うと「特殊相対性理論=四次元空間の回転不変性(または回転対称性)」となります。

余談ですが、ミンコフスキー空間内の運動の軌跡を世界線と呼びますが、おそらくラノベ等で出てくる世界線の元ネタと考えられます。

(参考)
https://ja.wikipedia.org/wiki/特殊相対性理論
https://ja.wikipedia.org/wiki/マイケルソン・モーリーの実験


いったん中断

各理論を極々簡単に説明しようと思ったのですが、大分長くなってしまったので一度中断したいと思います。だいたいここまでが、大学学部で勉強する内容です。続きは、機会とやる気があれば、別の記事で書きたいと思います。

それにしても、量子力学と特殊相対性理論は、理解が難しいのでどうしても説明が長くなりますね・・・。しかも、書いているうちに、だんだん専門的な内容になってきてしまいました・・・。でも、有名な公式E=mc^2も省いたし、その元になるE=sqrt{(mc^2)^2+(cp)^2}はあとで必要になるのですが・・・まあ仕方ないですね。

この記事は、世間一般では必要ないかもしれませんが、物理学に興味を持って、学習の動機付けになってくれると幸いです。


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