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どこにも居場所がない

内定をもらった印刷会社から与えられた仕事が思ってた感じと違った。

文芸の合同研究室みたいな空間で働くんだと想像していたら、暗くて寒くてうるさい倉庫の中の狭い一区画が、どうやら私の職場らしい。

面接を受けた場所は、オフィスの中にある明るくて清潔なミーティングルームだった。低学歴で汚れたりすることもある印刷部門の人間は、以降オフィスに立ち入る機会はないだろう。これからは工場勤務だ。

椅子やデスクなんかひとつもない、印刷機や用紙、コンテナが立ち並び、それ以外には何もない。

私はこの会社にいる限り、「同じ位置で本文を印刷する」以外の仕事を与えられない。部署の異動はない。

ただ印刷作業をするだけの機械が私ということだ。月額20万円でひたすら紙を印刷する私という名のマシンを、会社は買ったのだ。新しい機械を導入するよりは、安いのだろうか。

聞くところによると人間関係は希薄で、飲み会はなく、懇親会もなく、友達を作ることは極めて難しいとのこと。

先輩と飲みに行った、上司に相談を聞いてもらった、同僚と愚痴を言い合いながら昼ごはんを食べた、後輩に飲み物を奢ってあげた。そう言った経験は手に入らないらしい。

ひとりぼっちで、怒られないように、変わり映えのない業務をこなす。これが私が2024年の春から始める仕事。

あまりにも寂しい仕事だと思った。

お給料が高ければそんな仕事でも耐えられるけれど、一人暮らしなんて到底できないような賃金しかもらえない。

実家から早く抜け出したい。一人で暮らせれば犬を飼える。犬は可愛い。人間を裏切らない。

実家にいる限り、印刷会社の仕事に加えて、家業の手伝いで写真の編集までこなさなくてはならない。

一つの職業をこなすことすらままならないような人間が、フルタイムで働きながら家業の手伝いなんかできない。

家業なんか放り出して逃げ出したい、一人で暮らすには給料は低い、そもそもこの会社でやっていけるのかわからない。すぐに住所不定無職になるような気がする。

よるべがない。私は彼氏を頼れない。
人に期待すれば必ず裏切られる。
どうせ彼氏は私を振って、別の居場所へ消えていくんだ。

ここから逃げ出したい。大学を卒業したら何となく、逃げられると思っていた。違うんだ。私はどこまで逃げても逃げられない。

私が安心していられる場所なんかどこにもない。

せめて仕事に適性があれば、せめて仕事に適性があれば。

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