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書評|生物多様性を問いなおす

写真はこないだ撮ったジョウビタキ。
記事の内容はお正月休みに読んだ本。面白かったので、レビューと所感を。

高橋進 著 生物多様性を問いなおす

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大航海時代以降の植民地支配から、環境の保護・保全、地球温暖化、生物多様性、そして現在の「SDGs」に至るまで、国際的な議論や合意形成の経緯がわかりやすく整理されていた。わかりやすいだけでなくて、政治的な利害や宗教観念が見え隠れする議論の場で「地球のため」という大義を通すことの苦労や葛藤に触れている文体が良かった。

「なぜ生物多様性を守る必要があるか?あなたは上手に説明できますか?」というのが著者の主な問題提起で、自然資源をどう使うのか?の前に、なぜ使うのか?という問いが必要だよね、という話。ここに関しては、

「人類が絶滅しないための生存基盤として、自然資源の多様性と持続可能性を維持する」がこれまでの模範解答だったが、これは人間至上主義的な考えであって時代遅れになりつつある。

これからは、野菜や家畜、あるいは人間による利用と無関係な野生生物まで包括した「生命中心主義」が、人々の行動や政策の動機になっていって“欲しい”。

え、じゃあ、コロナウイルスの幸せも考えるべきなの?天然痘ウイルスは?自然界から根絶されて、生物テロ対策のためだけに保存されているウイルスは、幸せって言えるの?? 

というような、答えの出し難い問題が取り扱われていた。

「生き物がたくさんいた方がいい理由」は、未だに上手にこたえられない。たとえば、「なんで熊を守らないといけないんですか?」と誰かに問われても、相手によって言うことを変えていたりもする。

「これが答えです」という明確なものは無くて、時代や立場によって正統性が変わる。つまりは倫理や哲学の話に行きつくのだとわかって、なんというか、少しホッとした。

科学技術や経済性の話がどうやっても優先されがちだけど、倫理や哲学は組織の理念であり、仕事の規範でもある。というか、人が生活する上での態度や振る舞いそのものだからこそ、“一部の人がする議論”のままにしておいてはいけない、という著者の主張には激しく同意した。

といいつつ、普段はどこで作られたかわからない電気と食料と化石燃料を消費して生活している自分にとって、生物多様性はあまりに生活とかけ離れているとも感じた。実生活と遠すぎて自分ゴトに出来ないのであれば、身近なものに変換する“何か”が必要だと思う。

その“何か”の一つは、「手間のかかることや、時間のかかることを楽しむ」という思考の転換なんじゃないかと思う。ちょくちょく実家に帰っては、ひとりで山の中に消えていく奇行を、これで少し説明できるかもしれない。

これまでは、時々思い出したかのように環境に優しい活動をする人に、どこか悲観的なまなざしを向けていた。けど、その人なりに自分ゴトにするために、行動を変えている途中かもしれないので、頭ごなしな批判はやめようと思った。コロナでキャンプに行く人が増えたことも、「自然資源の活用を自分ゴトにする過程」という見方ができるかもしれない。

そんなことを考えました。倫理をテーマにした本や漫画が世の中に増えている気がします。いろいろ読んでみようと思いますので、おすすめがあったら教えて下さい。

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