見出し画像

専門を一般向けに分りやすくするために、私がライティングで意識していること

今日も発酵を少し離れて、私が一般向けに専門的な話を書く際に気を付けていることの話です。

幸いにも、このnoteが『分りやすい』と言われることが多々あり、大変ありがたいです。ただ、私も、昔は「専門家のいうことは難しい」「分かり難い」と言われたことも多かったです。(今もです。)その中で、自分なりに気づいた方法をご紹介します。

自分の分野の文章を書くとき、つい、普段から使っている単語を使ったり、相手も分っていることを前提にした情報構成だったりで、硬い文章になっているテンションから、どう文章を軟らかくするかという視点です。

1.1つの文章に専門用語は2つまで。

まず、1つの文に専門用語は2つまでにします。3つになると、かなり理解がしんどくなります。この場合の専門用語とは、『想定読者からみて、馴染みのないだろう単語』ということです。

例えば、『食品工業総合辞典』での『発酵』の説明だと

一般に、微生物の作用により有機物が分解的に変化して何らかの物質を生成する現象。

『作用』『有機物』『分解的』あたりが、見慣れない単語でしょうか。『生成』もそうかもしれません。やはり1つの文にこれだけあるとしんどいですよね。(もちろん、専門家向けの辞書としてはこれで良いと思います。)

そして、私の場合、種麹の説明だと、ある程度分っている相手向け、仕事のテンションでは、こんな感じの説明文になります。

種麹とは、米などの原料に麹菌の胞子を十分に着生させ乾燥させたもので、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に用いる麹を造る際に麹菌を供給する目的で利用される。

何も意識しないと、クセで、一発目はこういう硬い文章になりがちです。でも、この文章で、普通の人でも分らないことはないですが、やはり取っつきにくいですよね。そこで、専門用語を平易にすることを目的に、文章をいじって推敲していきましょう。

ここでは『麹菌胞子』『着生』などがあります。中学生向けぐらいだと『原料』、『供給』も使用のボーダーラインでしょう。そのため、この文章は、一般向けに書くときは、「1つの文に専門用語2つまで」の原則に基づいてこうします。

種麹とは、米などの原料に麹菌の胞子を十分に着生させ乾燥させたものです。種麹は、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に用いる麹を造る際に麹菌を供給する目的で利用されます。

2つに分かれました。そして、次のステップに入ります。

2.情報の並び順を考える。

「シンプルにいえば長い文は2つに分ける。」ですが、ここで一般的な文章作法と違って、そもそも『種麹』という言葉自体を初めて見る可能性がある場合、主語を省略せず『種麹』は連続させます。

その上で、この2つの文章を見比べて、読者が『「種麹」という言葉自体は知ってる』の場合はこれでOKです。種麹の作り方の方が情報として優先度は高いでしょう。

しかし、『種麹』が所見の場合は、「そもそも何なの?」という情報の方が優先度が高いと判断し、

種麹は、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に用いる麹を造る際に麹菌を供給する目的で利用されます。種麹とは、米などの原料に麹菌の胞子を十分に着生させ乾燥させたものです。

と、文章を入れ替えます。入れ替えたことにより、後ろの文のはじまりが「種麹とは」で始まると据わりが悪くなりました。なので、据わりが良くなるように修正します。

種麹は、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に用いる麹を造る際に麹菌を供給する目的で利用されます。種麹は、米などの原料に麹菌の胞子を十分に着生させ乾燥させてつくります。

少し据わりが良くなりました。据わりを良くするためには、その文章単体で、不自然じゃないかということを気にします。そして、次のステップになりますが、単語を平易な物に置き換える作業もここでします。今回でいえば「乾燥させたものです」を「乾燥させてつくります」とします。

3.専門用語を平易にする

ここで、1で検討した専門用語を平易にします。このうち「平易にしていいもの」「平易にしてはいけない物」を識別します。さすがに種麹の話をするのに「胞子」は外せないでしょう。となると「着生」「供給」「原料」あたりでしょうか。「利用」も出来れば軟らかくしたい。

対応法としては「そもそも削れるものは削れる」あるいは「言い換える」ということになります。今回でいえば「原料」は不要でしょう。

種麹は、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に用いる麹を造る時に、麹菌を加える目的で使われます。種麹は、麹菌の胞子をたくさん生やした米などを乾燥させてつくります。

いかがでしょう。だいぶ、軟らかい文章になりました。

ここで、ちょっとテクニックを使いました。「乾燥させて」という単語に注目して下さい。これは「動き」を表す言葉、「動詞」です。『「種麹」を造るときに乾燥作業がある』というのは、多くの人にとって初耳だと思うので、イメージが湧きづらいと思われます。(実際乾燥するイメージ湧きますか?)なので、こういうイメージが湧きづらい時は、「動詞の主語や目的語を近づける」と、分りやすくなります。この場合、乾燥させるのは『米』なので、『米』と『乾燥させる』の距離を詰めるために、語順を入れ替えました。

その上で、単語を軟らかくしたことで誤解を招きそうな箇所がないかチェックします。今回の場合「加える」が、「供給」という単語から少しイメージが外れた感じがします。(しますよね?)なので、補足を入れて「供給」という元のイメージに寄せます。

種麹は、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に用いる麹を造る時に、麹菌を種として加える目的で使われます。種麹は、麹菌の胞子をたくさん生やした米などを乾燥させてつくります。

「供給」というイメージに少し寄ったかなと思います。

4.最後に、全体の「黒さ」に気を付ける

最後は、これは感覚的な物ですが、「黒さ」つまり、漢字とひらがなのバランスに気を付けます。技術系の記事だとさらにカタカナも入ることが多いです。一般的な書籍の場合は、一冊通して最後まで「醤油」なら「醤油」、「醤油」と「しょう油」が混在してはダメ。という校正ルールがありますが、ネット記事であれば、私は見やすさを優先してもいいケースもあると思います。そのために記事を細かくアップできますし。

この場合、前半戦が少し固いので

種麹は、清酒、味噌、醤油、焼酎などの製造に使われる麹をつくる時に、麹菌を種として加える目的で使われます。種麹は、麹菌の胞子をたくさん生やした米などを乾燥させてつくります。

いかがでしょうか?これは感覚的な問題ですが、その記事と一緒に読むことになると思われる他の文章との比較で調整をすると、ちょうど良くなるようです。実際は、黒さの調整は、1ページ文全体を書き切ってから調整することが多いです。

5.他の分野の文章でやってみよう

最後に、応用として、他の分野の文章でやってみましょう。せっかく大河ドラマをやっているので、『本能寺の変』の日本国語大辞典の解説を、原文の文章としましょう。

天正一〇年(一五八二)、織田信長が中国の毛利氏と対戦中の羽柴秀吉を救援しようとして京都本能寺に宿泊した際、出陣の命を受けて先発していた明智光秀が反逆して丹波亀山から引き返し、信長を襲って自害させた事件。

いかにも、辞書っぽい文章です。でも、本来なら、これに手を入れずとも十分な説明です。辞書という字数制限厳しいが中で、さすがプロの文章です。

しかし、ある程度分っている人向けの説明でもあります。例えば、中国が中華人民共和国ではなく、「中国地方」であることや、信長の本拠地安土と京都の位置関係、本能寺がそもそもちょっとした砦のような構造で拠点としていたことなどが分らないと、

 「なんで、救援しようとして、本能寺に泊まるの?」というそもそもの話が分らないことになります。字数に制限があるため、ある程度分ってる前提で書かざるをえない側面もありますが、こういうところが初学者がつまずきやすいポイントになったりします。

なので、ここは、敢えて練習として。情報の重要度に気を付け、文章を短くしながら、補足をして、言葉を軟らかくすると、私ならこうします。


天正一〇年(一五八二)、明智光秀が、本能寺に泊まっていた織田信長を襲って自害させた事件。信長は、中国地方で毛利氏と戦っていた羽柴秀吉を助けるために安土を出発し、京都での拠点である本能寺に移っていた。信長から出陣の命を受けた光秀は信長より先に中国地方へ向けて出発していたが反逆して、京都近郊の丹波亀山から京都に戻り、信長を襲った。

上記で紹介していないテクニックも使ってはいますが、いかがでしょうか。

また、このやり方の欠点として「字数が増える」というのがあります。字数制限のないWebだから出来るやり方でもあります。字数制限に納めるにはまた別のテクニックが必要です。

今日のところはここまで。

最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683