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種麹になぜ「灰」を入れるのか?麹と灰の不思議な関係。

前回の投稿後、Twitterでこんな反応をいただきました。というわけで、今日は「種麹」と「木灰」の関係について書いてみます。今日はちょっとマニアック目になりますが、次回はまた戻ってきますね。

なぜ、種麹を作るときに木灰を入れるのか?

なぜ、種麹を作るときに木灰を入れるのでしょうか?結論から言えば理由は大きく3つに分かれます。

1つ目は、灰を入れることによってアルカリ側にpHが傾くことで、麹菌以外の雑菌が繁殖しにくくさせること、つまり、微生物汚染の防止のためです。(アルカリの語源はアラビア語で灰という説があります。)麹菌はたまたま都合の良いことにアルカリ側でも生育しますが、アルカリ側で生きていられる雑菌はあんまりいないです。pHなんて概念のない時代に、環境操作をして狙った菌を生育させるという技術を開発していたんですね。

2つ目は、麹菌が生育するときの栄養分の付与です。木灰の中にある各種ミネラル分がそのまま麹菌が生育する貴重な栄養源になってきます。

3つ目は、麹菌が成長するには酸素が必要なので、空気の通り道を作ること。(酸素が必要な菌を好気性といいます。)お米一粒一粒の間に、木灰の粒が入り込むことで、米粒が密着せず、空気の通り道が出来るようになります。

大きく分けるとこの3つの理由になります。

なぜ、木灰を入れることを思いついたのか

 さて、なんで「木灰」を入れることを思いついたのか。これは、多分、誰かが、試しにやってみたら上手くいった、ということなんだと思います。こうして上記の通り答えを知っている現代人から見ると、あたかも狙って試したかのように想像してしまいますが、ひょっとすると、最初の人は面白半分にやってみただけかもしれません。

 食べ物に「木灰」を入れるというのが、我々からするとエキセントリックにも見えますが、日本の工業製品にとって「灰を入れる」というのは、割とあちこちにみられます。食べ物でも、コンニャク製造には灰を使います。それから、染め物も灰の汁を使います。私たちの先祖も取引していた「灰屋」という専門の商売があったぐらい、今の私たち以上に「灰」というのは身近な物質だったのだと思います。

 たまに私たちが「いつも目玉焼きは塩こしょうだけど、たまにはケチャップかけたら美味しいかな?」ぐらいの感覚で、身近にある物質を試しに使ってみた。そんなことが始まりだったのかなと、私は推測します。

今も、木灰を入れてるの?

 さて、少なくとも当社では現在は「木灰」の添加は行っておりません。上記の通り、添加する目的は分っているので、それと同じことに留意して製麹(麹を造ること)をすることでカバーしています。昔ながらの方法とは言え、やはり本来食べ物でないものを微量でも添加するのは良くない、出来る限りシンプルに造っていくというのが基本的な考えとしてあります。なお、麹菌の生育に種麹メーカーがビタミン剤とか栄養エキスを使ってるということを書かれちゃったりしていますが、当社では麹菌の生育過程において、木灰以外の添加物も使っていません。自然由来の栄養源だけで生育しています。

 また、法律の捉え方によっては「木灰」は添加物になるかもしれません。「本来無くても食品として成立するけど、保存性を高めたり、外観をよくするために入れる物質」が添加物なので、定義的には該当する方向の解釈が成り立つ可能性もあるので、その対応ということもあります。少なくとも、「木灰」を原料に表示する必要はあるんじゃないか?という議論は出てきます。お酒やお醤油など液体は途中の濾過で除かれる可能性がありますが、味噌やあま酒など濾過工程のないものは、麹がそのままお口まで届きますからね。

 ちなみに、みなさんの感覚では「木灰」は添加物でしょうか?原料でしょうか?添加物として表示してあった場合、購入を避けることはあるでしょうか?他の食品でもこういうことはあって、例えば豆腐を固めるのに必須の「にがり」は添加物扱いなので(天然にがりでも添加物になるようです)、「無添加の豆腐」というのは定義的に存在しないと理解しています。

 伝統的な作り方をしてても、伝統的に使う物質が添加物になるため「無添加食品を名乗れない」ということがあったり、あるいは工芸品の原料などで、法律でそもそも生産や輸入が禁じられているようなケースもあるでしょう(希少動物の体毛や骨格を使う工芸品など)。このあたりの話も広がってしまうので、また別の機会に。

 閑話休題、現在では「木灰」を使わないわけですが、その目的とするところを把握して、時代に合わせて技術を改善していく、これも、伝統を受け継ぐということなのかなと思います。「やり方は変える、精神は変えない」この心構え的な話も、おいおい書いていきたいと思います。


一旦書き出すと、どんどん話の脱線方向が見えてくるものですね、、、、

 

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