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麹菌を分類で考える 『国菌』のはなしも。

早速ですが、本日は「麹菌」を学術的分類で定義したいと思います。

まず、麹菌を学名でいうとアスペルギルス・オリゼー他ということになります。もやしもんのキャラクターの「オリゼー」君というのがいますね。

※アスペルギルスのスペルはAspergillusと書きます。以降この記事ではカタカナ表記です。

このアスペルギルス属を分類上で見てみます。生物は「界→門→綱→目→科→属→種」の順に小さい分類になっていきます。

菌界 真正菌門 不整子嚢菌綱 コウジカビ目 コウジカビ科 アスペルギルス属

となり、そのなかのさらに種としてオリゼーなどがいます。

ちなみに人間は 

動物界 脊椎動物門 哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト属(Homo) サピエンス

となっているから、ホモ・サピエンスです。ホモ・サピエンスとアスペルギルス・オリゼーは分類学的にはだいたい同じレベル感の集まりだと思ってください。

ホモサピエンスの他にも人類はいます。ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)、ホモ・エレクトス・ペキネンシス(北京原人)などは、聞いたことあるでしょうか。彼らは人類ではありますが、私たちホモサピエンスとは交配ができたりできなかったりがあったようです。ここは専門家に譲ります。

現生人類・北京原人・ネアンデルタール人などがあるように、アスペルギルス属も、よく知られるアスペルギルス・オリゼー以外にも色んな種があります。それは次の章に譲ります。

そして、注目して欲しいのは「真正菌門」、これは人間で言うと「脊椎動物門」と同じレベルです。脊椎動物には哺乳類だけでなく、マグロやサンマなどの魚類、カエルなどの両生類、ハトやダチョウのような鳥類、などがいます。ここは中学校の理科の授業でやりましたね。

私たちから見て、魚と人間は、とてもかけ離れているように思います。少なくとも、魚が生きていける環境(水中)で人間は生きていけません。逆も同じです。大きさも異なりますし、卵で増えるのか、母胎なのか、また、当然ながら知能も違います。

同様に「真正菌」にも幅広い仲間がいます。そもそもその上の菌界は植物、動物と並ぶぐらいに大きな括りです。敢えて言葉をラフに使いますが、「菌類」というのは、ある意味で非常に「雑な括り」です。

だから、乳酸菌が腸に届くからといって、他の菌も届くとは限らない。「菌なら何でも同じ」というのは、非常に雑な発想です。ただ、世間一般に「菌類」っていうのがそんなに大きな括りだとは思われていないように感じます。

なんとなく、菌類と一口にいったときに無意識に思い浮かべるレベル感は「イヌ」とか、せいぜい「鳥」ぐらいのサイズ感だったりするのではないでしょうか。

閑話休題 ポイントとしては アスペルギルス属のオリゼーは、ちょうどホモ・サピエンスに相当する分類レベルだよということ。菌類って凄く大きな括りなんだよ、ということ。これを分っていただければと思います。

色んなアスペルギルス属

さて、このアスペルギルス属の中にはオリゼーの他にもたくさんの種があります。この中には、人間にとって有害な毒を出す種もあれば、オリゼー以外にも醸造に役立っている種もあります。

Aspergillusキャプチャ

このただの「カビ」グループ側を「コウジカビ」というケースもありますが、少なくとも「麹菌」と表現する場合はアスペルギルス属の中でも限定的に使われると思ってください。

そして、それぞれのなかにおいて、色に着目すると黄緑色の菌や、同様に見た目が黒い菌があります。これは図中の横でグルーピングしています。

さて、図の中に「アフラトキシン」「オクラトキシン」という単語が目に入ったと思います。これは「カビ毒」と呼ばれ、人間にとって非常に有害です。

図を見て分るとおり、アスペルギルス・オリゼーなどは、これら物質を生産しないのですが、1960年代にこの「アフラトキシン」が発見され、アスペルギルス属の一部の種が生産することが判明しました。

そのため、一時は同じアスペルギルス属である、日本の麹菌にも疑いの目が向けられました。しかし、これらは全く異なる種であり、麹菌はカビ毒を生産しないことが証明されています。

実際に、どのくらい大昔から種として分かれていたのかは色んな説がありますが、『麹菌』からすると、迷惑なあったこともない遠い親戚が起こしたトラブルで自分まで疑われたというところでしょうか。

さて、この『麹菌』の仲間になるのが、oryzae(オリゼー)、sojae(ソーヤ)、luchuensis(ルチエンシス)たちです。

『麹菌』の定義

さて、いよいよ、麹菌の定義に入りましょう。よく言われるのが、麹菌は『国菌』(国の菌)として定められたという話です。これは、2006年に日本醸造学会が認定・提唱した物です。

ちなみに国鳥は『キジ』、国蝶は『オオムラサキ』、国技は『相撲』、国魚は『ニシキゴイ』です。

この『国○○』については、関連する学会が提唱・認定しています。『国鳥』を提唱したのは日本鳥学会、国蝶は日本昆虫学会が選定しています。これらは、多分に慣習的なもので、特に法律的な定めはないようです。

他にも、日本の国技は『相撲』ですが、これは法律で定められていません。慣習的にみんなが認めているという事実だけでも十分なようです。ただ、ブラジルの国技『カポエラ』は法律で定めているそうです。文化的なことなので、余り堅く考える必要はなさそうです。

さて、日本醸造協会が『麹菌』を『国菌』と認定するに当って、『麹菌』の定義が必要になります。これは、定義なので全文を引用します。

麴菌とは、
わが国で醸造及び食品等に汎用されている次の菌をいう。
(1)和名を黄麴菌と称する Aspergillus oryzae。
(2)黄麴菌(オリゼー群)に分類される Aspergillus sojae と黄麴菌の白色変異株。
(3)黒麴菌に分類される Aspergillus luchuensis(Aspergillus
luchuensis var. awamori)及び黒麴菌の白色変異株である白麴菌 Aspergillus luchuensis mut. kawachi(i Aspergillus kawachii)。

国菌キャプチャ


http://www.jozo.or.jp/koujikinnituite2.pdf

認定した日本醸造協会のホームページから引用しました。このように明確に定義がされています。従って、『麹菌』と言うときには、大きくはオリゼー、ソーヤ、ルチエンシスの3つの種とその白色変異株ということになります。

この中で一番有名なのはオリゼーですね。いわゆる『黄麹菌』の大半がこれに当ります。ソーヤというのは特に醤油製造に用いられ、これも『黄麹菌』に当ります。ソーヤで作る醤油は独特の芳香があります。

ルチエンシスがちょっと聞き慣れないかもしれません。なまえは『琉球』に由来していると分ると覚えやすいかも。いわゆる焼酎・泡盛用の「黒麹菌」と「白麹菌」です。「黄麹菌」「黒麹菌」「白麹菌」の違いは前回をご参照下さい。

一昔前は「黒麹菌」「白麹菌」は、学名としてはアスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチという呼称があったのですが、今はアスペルギルス・ルチエンシス・アワモリ、アスペルギルス・ルチエンシス・カワチと、整理統合されています。

大きく整理すると

菌類

アスペルギルス属

麹菌

『黄麹・アスペルギルス・オリゼー&ソーヤ』

『黒麹・白麹 アスペルギルス・ルチエンシス』

と、いう風にブレイクダウンされていきます。

今日は、ちょっとややこしい話でしたが、覚えておくとよいかもしれません。

今日の話はここまで。


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※本稿の執筆に当り、

http://www.nposfss.com/image/forum08_yamada.pdf

『日本食の原点、麴菌とその産物、日本酒~今さらながら麴菌は安全です~』酒類総合研究所 山田修先生の発表を参考にいたしました。

最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683