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「売れる〇〇」戦術を見つめ直してみる話

おかげさまで、12/6のWebデザイナー向けセミナーが無事に終わりました。同じような悩みをかかえているデザイナーの方の考えや、代表とぼくが普段考えていることを皆さんと共有し合えたことが非常に貴重な経験となりました。また1月にやりたい。

この世には「絶対成功する100の方法」や「CVRを20%アップするホニャララマーケティング」などが多く存在しています。個人・会社限らずに、実績として量・質ともに作り上げることは並大抵なことではありません。

そういった生存戦略をとれる人もいれば、まだ道半ばで戦術家として目の前の敵をけちらしながら剣を振り回している人もいます。ぼくのことですね。

そんなかつてのぼくのように、手法やツールといったナレッジ・ノウハウからマーケティングに興味を持ち始め、「なんや手法やフレームワークめ、全然解決してくれひんやんけ」という心境になった方はぜひ今回の記事を読んでいただければと思います。

前提1「売れる」の正体

実は以前に、集客家の集客家をしていたことがありました。ぼく自身はアドテクで見込みのお客さんにアプローチを行いリストを増やすという短期的な獲得型広告のお手伝いをしていました。

サービスの内容
「自己ブランディング」に主軸を置いた集客家の方で、フリーランスや独立起業をする方に対してコンサルを行いお仕事が取れるようにする、といったもの。きちんとしたコンサル設計のサービスを売っていましたが、商材の性質上ややクローズドな側面があり、リスト登録しないと本格的なプランを受けられません。

利用者の方々一人一人に合わせて強みの底上げを行ったり掘り起こしながらプランニングを行い、相談者の単価を上げるお仕事です。個々のケースによって対応工数が絶大なので、ネットワークビジネスのように膨大な案件を受け過ぎず、一定セーブしていた印象です。人力でやることでサービスの質を担保していました。

こういったビジネスは極めて属人的ですが、成り立っている背景としては状況に合わせた見極めを行い、一過性ではない、という点です。

利用者の実績や取り組む姿勢、背景などの低い点・高い点を事業フェーズによって埋めたり伸ばしたりなどグニャングニャンとした柔軟な対応が必要。普遍的なスキルといっても過言ではないと考えています。

では、属人的ではない「売れる〇〇」、いわゆるツールや手法が先行した場合、どのように質を担保するのでしょうか?

前提2「とにかく市場で何かの1位を取ってしまうこと」の重要性

市場での認知を獲得してしまうと、「うーん、〇〇と言ったらあの人(会社)ね!」といった仕組みができます。人々の心の中でどういったポジションにいるのか、いわゆるマインドシェアと呼ばれるような認知度が広がります。困ったときにはあの人だ。そういったブランディング手法を仕掛けるには、界隈でさっさと1位を取ってしまうことが大切だと感じています。

有名になりやすく結果的にお仕事がもらえやすい。有名であることは、検討している利用者(=クライアント)の安心感もあるでしょう。

ところが、お互いにとって「こうであったら良いな!」という希望的観測の域を出ていないこともあります。成果とお金・時間にリターンをお互い求めているから当然の現象だし、成功イメージを共有することは良いビジネスパートナーでいるためにも必要。

気を付けたいのが、これが過熱化すること。確かな経験則が無い状態でビジネスに希望的観測を持ち込んでもうまくいくことは稀です。

本題。「さぁ売れ」と野に放たれた瞬間とその後

さて、運用を始めると本来ツールで埋めておくべき穴が大きいほど、早い速度で平均点くらいは取れてきます。やってやったぜ。サボっていた分を引き上げるくらい今のAIなら平然とやってのけ、多くの人はそこに痺れて憧れるわけです。

で、3か月くらいしたらいよいよ困ります。
すでに「売れる手法」という前提が作り上げられており、「まさか売れないなんて」とは思わないし、思いたくない。
管理画面とレポートを穴が開くほど見つめる。これは利用者(=クライアント)はもちろん、提供者(=売れる〇〇の戦術家たち)も近い心情。

信じ切っている現場は「限られた全体」の中での「打ち手の数」だけになるため、なかなかやっかいなしんどさすらあります。

ぼくも以前のようなWeb広告にわかマスターこと戦術使いなら、とりあえずナビゲーションボタンを付けましょうとかキーワードを広げてインプを獲得して予算を消化しましょうとか本質でないことを言いまくり、それでも全うしているつもりになっていました。もはや迷惑でしかない妖術使いです。

1.戦術(妖術)はやめて戦略を見つめるための最短は

疑い、一歩引きさがることです。
利用者(=クライアント)だけではなく、提供者(=戦術家)が抱えている一定の悩みの多くは「前提」にとらわれ過ぎていることだと考えています。世の中には絶対的な解決方法や手法がありません。あったらぼくはさっさと億万長者になっています。

戦術家はクライアントにはリスクヘッジをし、絶対的な解決方法は存在しないことを示唆しながら、取り組みを進めることもあるでしょう。ところが、そもそもこんな話自体が双方の事業にとって大きなブレーキになりえることもあります。

せっかく「売れる手法」としてWebマーケティングが市場でシェアが取れているはずのに、かつ利用者や戦術家たちも同じことをしているはずなのになぜ成功しないのか?という問題はどうしても付きものです。

では、さらに一歩戻ってみましょう。

2.因果関係と相関関係は違う

以下の本に良い事例があったので紹介します。

「因果関係も相関関係も一緒じゃないの?」と思うような言葉ですが、分析をする上ではめちゃくちゃ重要です。カンタンに言うと、

相関関係→アレ施策を打ったからコレ結果が起きた、という「広い関係」
因果関係→介在した事情や現象を具体的に噛み砕いて、アレとコレの繋がりをひも解く「狭い関係」

あるアイスクリーム屋さんでは夏に動画広告を打ちました。すると、前年比150%の売上を記録しました。広告を打ったから、売り上げが上がった。

では、実際に広告はどの程度有効に働いているのでしょうか?確かに、広告を見た人が買いに来ていた事実はあるでしょう。ここです。一歩引いて、「ほかにどんな影響があったのか?」と考えてみる。介在事情があった際には、必ずしも広告が有効だったとは言えなさそうです。

ちなみに、この夏は観測史上最も暑い夏でした。ここを見誤ってしまうと、「アイスクリーム屋には動画広告が有効だ」といった話だけ先行してしまい、模倣すれば売り上げが上がるといった手法のみが流通してしまいます。

だったら、記録的な暑さを利用したキャンペーンを打つ方が成果はもっと上がるかもしれないし、条件を同列にそろえた上で、訴求内容をテストする必要だってあります。

↓条件を同列にそろえないとテストしにくいよ、という話を書いています。


3.「ハジマタ\(^o^)/」「オワタ/(^o^)\」の繰り返しでブラッシュアップされていく戦術家たち

最近、動画広告がめちゃくちゃ有効だと言われます。でも動画広告だけで売り上げが上がるわけではなく、緻密な企画に基づき、手法に動画が最適だった結果、有効になります。

これと同じように、インフルエンサーマーケティングやコンテンツマーケティングはもう終わっただのといわれますが、今までとは異なる接点で自身のブランディングを行い、認知やフォロワー獲得をしているインフルエンサーやコンテンツはたくさんあります。

結果的に、あらゆるものは「~2.0」のように単語としての意味合いはどんどん変わっていくわけです。

ぼくは以前「Web広告がすべてを解決できる!」といったうたい文句で媒体側の手法をブラッシュアップもせずに切り売りする会社にいましたし、SNS関連の動画広告のセミナーをやったこともあります。
これだけでやっていると、自身がそういったブランディングをしている以上、狭い前提の視点ありきで(無意識的に)活動せざるを得ませんでした。

4.「売れる〇〇」のための再現性が担保できない理由

管理画面だけでは「見えない当たり前の現象」を利用者も提供者も理解する機会はたくさんあります。

例えば、Googleオプティマイズを使えばABテストはカンタン。でも、間にどんな現象が起きて、結果がどうなっているんでしょうか?関与はどれくらいされているのか?ツールじゃ分かりません。

分かったとしても、それは非常に再現性が高く狭い領域に限られ、競合も当然同じことをするので一種の横並びになり価値が薄くなってしまいます。行わないよりはマシですが、「とりあえずABテストしよう」ほど危険な施策は無いと考えています。

↓以下の記事で、ABテストの「ボタン」に関する考え方に触れています。

とはいえ、介在事情のすべてはわからないため、まずは商品とターゲット属性をよく知るしかありません。管理画面上の数字だけで語らず、市場に出る。調査をする。聞きまわる。深堀をする。実行のための確かな材料を集め、確固たる仮説を作り上げる。結論を見誤らない。

有名な事例

東日本大震災のときには全国の電力が中~長期的に足りない状況になりました。そんな時に、ある地域で電力使用量の実験があったそうです。

①モラルに訴えかけて節電を促すが、電気代は通常通りの設定
②使用時間の多い昼間の電気代を高く設定

この3つを類似条件の地域・同時期に事前にアナウンスを行った際、実際の電気使用量はどのように変わったでしょうか?モラルに訴えかけるのか、経済的な痛みに訴えかけるのか。

結果からお話すると、

①②ともに使用量は減った

電気使用量を減らすための相関関係としては①②両方成り立ちます。

なんだ両方減るならモラルに訴える感じの広告流せば良いじゃん、となりそうですが、実は裏話があり、時間軸で見ると①モラルに訴えかける地域は短期的にしか効果が出ませんでした。

短期的に電気使用量を抑えるならば、②電気代を上げる必要はありません。しかし、本来の目的である「長期的に電気の使用量を抑えるならば、電気代を高く設定する」ことは不可欠なのです。

一見、「モラルに訴えかければ→使用量の抑制」が成り立つように見えますが、「電気代を高く設定しなければ→中・長期的な使用量の抑制」は難しかったのです。

     短期的な効果/長期的な効果
①モラル|  あり     なし   ←短期的な相関関係
②電気代|  あり     あり   ←短期・長期的因な因果関係
     ↑マイクロKPI  ↑最終的なKPI

この基本的な関係の理解は「売れる」を知るためには非常に重要で、電力事業者側からすると、カンタンでコストをかけずに済む「モラルに訴えかければ良い」んだと判断してしまいそうになります。

「成果の出る〇〇」が多く出回り過ぎたが故に、市場の「おや?」と感じるハードルが下がった結果、「ほら、CPAを下げなさいよ」「はい下げます!」といった短期的獲得を誰もが模索する市場ができあがりつつあると感じています。(ぼくが去年に未経験ながら広告業界に入れたのも、1CVを絞り出せ!と言われ「へいへい!」と思ってしまうそんな近距離型ソルジャーな気質があったからだと思います)

まとめ.小さな歯車をコロコロ回すのをやめる

もはや「売れる〇〇」で生きていくのは本当に辛い世の中です。明確な住み分けは必要ありませんし、ツールだって悪ではありません。成功のための介在事情をクライアントとの取り組みの中で共有していればそれで成り立つのがビジネス。

問題は、きちんと共有していなければ、どれだけ数値に長けている分析者でも「うそつきは数字を使う」「何か言っているようで何も言っていない(言っていることがテクニカルすぎる)」などを言われてしまいかねません。言う方も言われる方もめちゃくちゃ気分が悪い状況だと思います。

とはいえ、「市場で引き起こる神羅万象を網羅すべきなのか?」というと、一国の首相でも難しいことは明らかです。

三歩進んで二歩下がる、たまに四歩も五歩も下がると戦術から戦略に近づく

本来「マーケター」と呼ばれる人たちは、観測可能な範囲であらゆる事情を勘案した上で、「ちゃんとした戦略」を推敲するのが理想。「売れる可能性」を探ることができる人は重宝されます

しかし、「相関関係なのか?因果関係なのか?」といった部分を疑わず、介在事情を解明する機会を増やさなければ「誰が決めたかよく分からない小さな歯車」の中でしか手を動かすしかありません。

逆を言えば、マーケター自身が一歩引いた基礎を考える余地さえ作ってしまえば、そこに突き抜けたとかクリエイティビティーな発想だとかはすぐに必要なわけではありません。

視座を高める、俯瞰で見る。クライアントと良いパートナー関係でいるためには、成功への道を模索し合える関係でいることが大切なのだと考えています。

ブームに飲まれる息苦しさは非常に窮屈です。すこし息継ぎをしながら、自分ができる領域から広げていきましょう。

↓お取組みのフレームワークはこちらで紹介しています。


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