マガジンのカバー画像

【掌編小説集】土岐と里見の話

8
日常以上・怪談未満の掌編小説集。土岐という男と里見という男の日常奇譚。そこに少しちがう何かがある。お好きなものからお読みください。
運営しているクリエイター

2019年11月の記事一覧

【掌編小説】食事 (1131文字)

【掌編小説】食事 (1131文字)

 釘は流水で洗い短冊切りにした人参と和え、中火でじっくりと炒める。人参に火が通ったところにごま油を少々垂らし、短冊切りにした玉ねぎを加える。生姜を大匙半分、醤油と味醂と酒を各大匙一を混ぜたものを投入し、とろみがつくまで炒める。青磁の皿に盛り付け、七味唐辛子をふりかけてから食卓へ出す。
 そこにはすでに、冷奴、隠元の胡麻和え、味噌汁などが並んでいる。夕餉は、赤い食卓燈に照らされ艶めき、食欲を唆った。

もっとみる
【掌編小説】埋める/耳と猫  (1337文字)

【掌編小説】埋める/耳と猫  (1337文字)

 耳が痛いから病院に行ってきたが生憎休診でね。
 そう言う土岐に茶を出すと、茶柱が立つぞ縁起がいい、などとはしゃぐ。勿論そんなものは立っていない、出枯らしの茶だ。

 「耳がどうしたって」

 土岐は大きすぎる鹿撃ち帽を被り、耳当てを降ろして耳を隠していた。いつまでも脱がないところを見ると、どうしても隠したいのか勿体ぶっているだけなのか、きっと十中八九後者である。

 今朝方までちらついていた雪も

もっとみる