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JN.1の急激な拡大は極めて懸念すべき結末を予測させる

Dr. Geert Vanden Bossche 2023年12月20日投稿(substack and VOICES FOR SCIENCE AND SOLIDARITY)
The fulminant spread of JN.1 is a highly worrisome prognostic indicator
の翻訳です。原文を参照の上ご利用ください。
タイトル画像:Image by Freepik

2024/1/13微修正

Covid-19ワクチン接種率の高い集団で育まれたオミクロン子孫株は、著しい免疫選択圧力と免疫再集中を発生させ、自然発生したパンデミックを「回避不能な免疫逃避パンデミック」に変えた。 

パンデミックが現段階に至り、さらに進化を進めることは疑いようがない。私は今、この危機の究極の結末について執筆しているところだが、本稿ではその要約を記す。我々の(保健)政策立案者の科学的提言が、常に誤ったものであり続けたこと、その結果、私の予測する重大な健康危機の責任は彼らにあることを科学的に記録しておくことは、経験を積んだ科学者である自分自身の義務であると考えている。私の予測は、彼らが積極的に承認し(支持し続けた)集団ワクチン接種の結果についての、包括的かつ複数分野にわたる分析のみに基づいている。私は真摯に研究を積み重ねたが、彼らは、このパンデミックの進化動態について、科学的根拠にもとづいた分析を何もしていないにもかかわらず、私やほかの数多くの人々を中傷することを選んだ。 

私の分析の要約には複雑な科学用語や技術用語が含まれるため、追加の説明なしには理解することが難しい読者もおられるに違いないことをお詫びする。そのよう方々にとって、私の予測を信じるか信じないかは、いまや、私を信頼しているかどうか、という問題になっている。しかし、誰が真実を述べてきたかはすぐにわかるだろう。私が繰り返し警告してきたように「Covid-19ワクチン接種率の高い国々は不意を突かれる」だろう。

要約

多くの科学者は更新型ワクチンの追加接種も、引き続き、重症のCOVID-19疾患を防ぐことができると信じている。彼らの想定は、過去にmRNAワクチンを受けた人から、更新型ワクチン追加接種(または自然な再曝露の)前と後に集めた血清の中和試験データに基づいている。彼らは、自分たちが観察しているのは、血清中の力価が高い場合にしかウイルス中和力を発揮できない、変異株交差反応性の新たな抗スパイク抗体であることに気がついていない。これらの抗体は、ワクチン・ブレークスルー感染後に起きる、あるいはmRNAワクチン接種であれば、それだけで起きうる、より保存されたスパイクタンパク質関連エピトープへの立体的免疫再集中の結果、プライミングされた(https://braintrain.mykajabi.com/the-inescapable-immune-escape-pandemic) [「回避不能な免疫逃避パンデミック」花伝社]。新たに出現したSARS-CoV-2変異株への再曝露や、更新型ワクチンの追加接種は、これらの低親和性の抗スパイク抗体を高力価に増加させ、幅広い変異株に対して感染を防止する、しかし、短期的な中和効果をもたらす。抗体価が減少するにしたがい、これらの低親和性抗体は、主にその高いアビディティによって、ウイルス-抗体複合体を安定化させるようになり、感染抑制効果は不十分なものとなる。感染を防ぐのではなく、緩和することになるため、ワクチン接種率の高い集団は、ウイルスの感染性に大規模な免疫選択圧力を及ぼすことになり、より感染性の高い免疫逃避変異の自然選択と伝播が促進される(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/misinterpretation-of-acute-antibody-responses-after-administration-of-updated-booster-vaccines-to-covid-19-vaccine-recipients-conveys-a-dangerously-misleading-public-health-message  [和訳; 文末の図参照)。
これまでに立体的免疫再集中によってプライミングされた変異株スパイク交差反応性抗体は、新たに出現する、より感染性の高い変異株に対して著しく中和力を弱めているが、それでもなお、これらの新たな変異株に結合することができ、それによって、多価性の非中和IgM抗体(非中和抗体)の産生を引き起こす。これらの非中和抗体はスパイクタンパク質のN末端ドメイン内の感染増強部位に低親和性で結合し、それによって、ウイルスの感染性を増強し、非中和抗体依存性ワクチン・ブレークスルー感染を引き起こす。

[訳者注:
ワクチン・ブレークスルー感染とは、ワクチンよってプライミングされた後の感染を指す。

アビディティとは2価、または多価抗体と、対応する多価抗原上の複数の結合部位間の相互作用の総合的な強度と安定性の指標である(https://note.com/ym_dam/n/n453bbcc7bd1a 注5を参照)

非中和抗体依存性ワクチン・ブレークスルー感染が、それまでにプライミングされていた変異株スパイク交差反応性抗体を再び増加(ブースト)させると、新たな立体的免疫再集中が始まる。それによって、より保存されたスパイクタンパク質関連領域を認識する抗スパイク抗体がプライミングされ、変異株交差反応性が上昇する。新たに出現するSARS-CoV-2変異株への再曝露(または、更新型ワクチンによる追加接種)が、それまでに起こった立体的免疫再集中でプライミングされた変異株スパイク交差反応性抗体を再増加(ブースト)させる限り、それによってウイルス感染性に対する免疫選択圧力が発生し、より感染性の高いSARS-CoV-2変異株が次から次へと優勢となることが続くだろう。

非常に警戒するべきことに、JN.1変異株[1]が現在、急速に他の流行中の変異株を凌駕しつつある。この急激な置き換わりは、スパイクタンパク質以外のウイルスタンパク質に変異が追加されたためと考えられ、世界的にSARS-CoV-2変異株の割合が増えている主な原因となっている。JN.1の流行は、もはや、集団の免疫反応の主体が変異株スパイク交差反応性抗体ではなく、スパイクタンパク質特異的ではない、新たな免疫エフェクターに替わり、しかもなお、ウイルスの感染性に免疫圧力を及ぼしていることを示している。これは、免疫再集中によって免疫反応が変異株スパイク交差反応性抗体からSARS-CoV-2交差反応性細胞傷害性T細胞に移行したという私の理論と完全に合致する。この交差反応性細胞傷害性T細胞はMHCクラスI非拘束性であり、感染の後半で増殖性ウイルス感染を停止させるため、Covid-19ワクチン接種率の高い集団で、それらの活性化が起こると、スパイクタンパク質非特異的なウイルス感染性に対する不十分な免疫選択圧力の発生、という結果になる。

したがって、細胞傷害性T細胞活性の亢進は、スパイクタンパク質に限定されない感染増強性変異(すなわち、スパイク以外のウイルスタンパク質の、ウイルスタンパク質合成効率や、細胞内でのウイルス複製速度を上げるなどの変異)を組み込んだ、より感染性の高い変異株の自然免疫選択を促す。この現象によってJN.1が優勢に選択され、拡大した原因が説明される。JN.1の特徴は、あまり観察されたことのないスパイクタンパク質関連のウイルス侵入促進変異と、他のウイルスタンパク質の複製促進変異であり、その固有感染性を増している(https://www.forbes.com/sites/williamhaseltine/2023/10/26/jn1-the-odd-man-out-among-omicron-sublineages/?sh=74aa039b3e47&s=03)。同時に、細胞傷害性T細胞の活性亢進は、感受性細胞へのウイルス侵入を妨げるというよりも、むしろ、それまでにプライミングされた変異株スパイク交差反応性抗体がヘルパーT細胞依存性(!!)にブーストされることを妨げる。これらの抗体の再増加(ブースト)が減弱すると、多価の非中和IgM抗体の新規産生が抑制される。多価の非中和IgM抗体は、スパイクタンパク質のN末端ドメインの保存された感染促進部位に結合するが、遊離ウイルスに結合した場合にはウイルスの感染性を増し、樹状細胞に結合したウイルス粒子に結合した場合には、ウイルスのトランス感染性を抑制する(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c- 19-pandemic [和訳])。ウイルスのトランス感染性の阻害とは、ウイルスのトランス融合(合胞体形成)の阻害を意味する。したがって、樹状細胞に繋留したウイルス粒子表面の、スパイクタンパク質N末端ドメインの感染促進部位への非中和抗体の結合は、ウイルスの病原性を阻害する。Covid-19ワクチン接種率の高い集団で、この病原性阻害抗体の新生が集団的に減少すると、ウイルスの病原性に不十分な免疫圧力がかかるようになる。免疫圧力は、スパイクタンパク質のN末端ドメイン内の保存された感染増強性部位という、単一の抗原部位に集中するため、この変化は劇的、かつ、急速に起こると考えることは妥当である。ウイルス侵入に必要と思われる適応コストを補うために、この部位はその配列の完全性を維持して感染増強能力を保持しばければならない。そのため、スパイク関連糖鎖プロファイルの広範な変異が必要であろうと、私は以前予測した。適切なO型糖鎖付加部位変異を持つSC-2変異株であれば、そのアミノ酸配列の完全性を変えることなく、樹状細胞に繋留したウイルス粒子表面のスパイクタンパク質のN末端ドメイン内の、この保存された抗原部位の構造を大きく変えることができるであろう(https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳])。このような構造変化は、非常に感染性の高いSARS-CoV-2変異株に曝露した時に、この保存された抗原部位が移動性樹状細胞表面に吸着したウイルス粒子表面に提示された場合にだけ、この保存された抗原部位と非中和抗体との結合を妨害するだろう。非中和抗体によるトランス感染の阻害がなくなれば、新たな変異株は、Covid-19ワクチン接種者に対して、その毒性を自由に発揮できるようになる。新たな変異株の固有感染性が高いほど、この新たな形式の免疫再集中が集団内に広がり、Covid-19ワクチン接種率の高い集団は、スパイク非特異的な免疫選択圧力をより一層ウイルスにおよぼすようになり、ウイルスは非中和抗体の病原性抑制効果から逃避するようになる。

最後に、細胞傷害性T細胞の活性亢進は、コグネイト記憶T細胞の呼び戻しを妨げ、それまでの立体的免疫再集中で誘導された変異株スパイク交差反応性抗体のブーストが促進されなくなるだけではない。どのようなCovid-19ワクチン(いわゆる「更新型追加接種」を含む)を用いても、新たな中和抗体のプライミングが阻害されることになるだろう。

つまり、JN.1の急激な拡大は、免疫反応が「普遍的(ユニバーサル)な」細胞傷害性T細胞による反応に再集中[移行]しつつあることの反映であり、病原性抑制性非中和抗スパイク抗体の結合を阻害するための、スパイクタンパク質のN末端ドメインへの免疫選択圧力が強まっていることを示している。同時流行しているSARS-CoV-2変異株(JN.1に限らない)による抗体依存性ワクチン・ブレークスルー感染によって、非中和抗体の産生が減弱し、複数の、Covid-19ワクチンを極めて高率に接種した国で、既にCovid-19による入院の増加を引き起こしている。したがって、現在、全ての流行中のSARS-CoV-2変異株に対して、Covid-19による入院と死亡率の急増が観察されていることと、JN.1の固有病原性の増強とは無関係である。このことから、我々の無知な公衆衛生専門家は、JN.1の急拡大はC-19ワクチンを高度に接種した集団にとって当面の脅威にはならないと主張している。これまでの更新型Covid-19ワクチンによる追加接種で見られた(一時的な!)中和効果を根拠として、彼らは更新型(XBB.1.5対応型)mRNAワクチンによるワクチン接種を強く主張している。たとえ、(上述のように)免疫反応が細胞傷害性T細胞による感染緩和へと再集中を進めつつある[移行しつつある]ため、更新型Covid-19ワクチンはもはや無効となったとしてもである。

結論として、JN.1の急激な拡大自体は、固有病原性の増加に対する懸念を生じさせるものではないが、JN.1が広範囲で優勢となることには極めて注意すべきである。スパイクタンパク質以外のウイルスタンパク質に増殖促進性の変異が追加されていることは、MHCクラスI非拘束性(すなわち、スパイク非特異的)細胞傷害性T細胞に対して免疫選択圧力がおよぼされていることを示しており、したがって、病原性阻害性非中和抗体の産生の減少が強く示唆されるためである。

オミクロンの経験にもとづけば、集団的免疫圧力が単一の抗原部位(今回はスパイクタンパク質の受容体結合ドメインではなく、N末端ドメインに位置する)におよんだ場合、集団的に、不十分な免疫圧力をN末端ドメインにおよぼしている集団(つまり、Covid-19ワクチンを高率に接種した集団)に対して、高い病原性を持つ、新たな、そして、驚異的に異なる変異株が急速に出現することはないと考えることは困難である。

現在流行している変異株と、Covid-19ワクチン接種者の獲得免疫反応との間の相互作用の進化動態についての私の分析によれば、Covid-19ワクチン接種率の高い集団に重篤なCovid-19疾患と死亡の劇的な急増を引き起こす、大きく異なる変異株が突如として現れる可能性が高いが、その場合に、Covid-19ワクチン接種率の高い集団が、社会として全く無防備な状態にあるのではないかということを私は恐れている。

何度も強調してきたように、健康な非接種の人々は、液性獲得免疫から、訓練された細胞性自然免疫に移行してかなりの期間が経っており、この新規変異株に影響されることはないだろう。パンデミックの最中に実施された集団ワクチン接種は、集団免疫の獲得に失敗し、その結果、高い感染性を持つ変異株を発生させて接種者の獲得免疫反応をさらに混乱させ(「再集中」を起こし)た。同時に、(立体的免疫再集中を可能にするワクチン・ブレークスルー感染を引き起こし、)接種者の細胞性自然免疫の訓練にも失敗した。自然感染による集団免疫ではなく、集団ワクチン接種を主張した人々は、この実験の最初から、愚かな決断の破滅的な結果に直面する運命にあったのだ。

原図

図:Covid-19ワクチン接種者集団の血清学的データの誤った解釈は、危険な誤った公衆衛生上のメッセージとなる。

痛ましいことに、多くの科学者や、いわゆる「専門家」たちは、今も、現在流行している変異株は、JN.1も含めて、更新型ワクチン(XBB1.5対応ワクチンなど)の追加接種で中和できるという考えに固執している。彼らは、更新型(2023-2024年型)COVID-19ワクチンは新たなJN.1変異株に効果があると結論しているが、それは誤りである! 彼らは、追加接種は、これまでのワクチン・ブレークスルー感染に引き続く立体的免疫再集中によって既に誘導された、変異株交差反応性の抗スパイク抗体の増加による短期間の中和活性をもたらすことしかできない、ということを理解していない。この一時的な中和効果は、急速に、より安定した不十分な感染抑制効果(すなわち、症状緩和効果)に移行する。それによって、Covid-19ワクチン接種率の高い集団は、集団的にウイルスの感染性に免疫選択圧力を及ぼすようになり、より感染性の高い変異株の拡大を促す! 追加接種は、これまでの免疫再集中で誘導された変異株交差反応性抗体を再び増加させ、次に現れる変異株にワクチン・ブレークスルー感染したときに、さらに免疫再集中を起こしやすくするだけであり、より感染性の高い免疫逃避変異株の出現を加速するだけである!

Covid-19ワクチン接種率の高い集団では、MHCクラスI非拘束性T細胞への免疫再集中は、それまでに誘導された中和抗体[2]の再増加(ブースト)を弱め、抗スパイク非中和抗体の産生を減少させる。非中和抗体が、その感染増強効果によって、新たなSARS-CoV-2変異株によるワクチン・ブレークスルー感染を促進することは繰り返し報告されている。非中和抗体にはウイルスのトランス感染を阻害する効果もある。トランス感染の阻害はトランス融合の阻止に繋がり、結果としてウイルスの病原性を阻害する(https://braintrain.mykajabi.com/the-inescapable-immune-escape- pandemic) [「回避不能な免疫逃避パンデミック」花伝社]。

Covid-19ワクチンを非常に高率に接種した集団では、ワクチン・ブレークスルー感染によって産生された非中和抗体は、まもなく、集団的に減少し、不十分(suboptimal)なレベルとなる。そうなった時に、SARS-CoV-2は、これらの抗体によるウイルスの病原性阻害効果という、集団的におよぼされる免疫選択圧力を克服する、劇的な変異を起こすための準備を進めている。

脚注

[1] JN.1は高度に変異したオミクロン亜株BA.2.86(別名「ピローラ」)の子孫である。
[2] 多価性の非中和抗体(IgM)は、新たなスパイク変異株に感染した際の、それまでに誘導されていた著しく中和活性が減弱した中和抗体と、変異株との相互作用によって産生されると考えられる。


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