XとYの分析
今回は島田紳介さんの用いた「成功の方程式」のお話です。
島田紳助さんはすでに引退されましたが非常に人気のあった漫才師、司会者でした。いわゆる「お笑いBIG3」に匹敵する存在として芸能界の重要なポジションを長く担っていたことは現役時代をご存知の方には説明不要でしょう。
そんな島田紳介さんですが、若手時代に巻き起こった漫才ブームという時代の波に乗って己の才能だけを武器にたまたま”売れた”わけではありません。確かに彼の才能は間違いのないものでした。でもそれだけではありません。
ではなぜ彼は1980年代前半の芸能界を席巻した漫才ブームの一時期だけ活躍した凡百の漫才師たちとは違って、むしろそれをステップにスターダムにのし上がり引退するまで”売れ続けた”のでしょう?
その理由がよく分かるのが、これから紹介するDVD『紳竜の研究』です。
このDVDには漫才コンビ「紳介・竜介」の漫才や彼らの足跡が収録されており、それとセットで彼が2007年3月にNSC(吉本総合芸能学院)で生徒たちに語った伝説の講義が収められています。
講義の内容は芸人志望の若者に語られたものだけあって、これから自分が何をめざしどんな努力をすべきかという単純かつ本質的な内容で占められているいわば教科書のようなものです。島田紳介さんがどのような戦略で芸能界で売れ続けたのか、一発屋に終わったライバルたちとの違いはなんだったのか、それを余すことなく伝える内容となっています。
端的に説明すると、彼は運ではなく緻密に戦略を練り、それを確実に実行することによって芸能界で成功したのだということです。
このメッセージはもともと芸人志望の若者に向けたものです。しかし、”お笑い”に限らずわれわれのビジネスにも当てはまる教材とも言えます。
全てのチャプターが示唆に富むものばかりなのですが、今回はそのなかでも「XとYの分析」に絞ってお話しします。
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「成功の方程式」
芸能界は説明するまでもなく生き馬の目を抜く苛烈な競争社会です。
そういった世界に飛び込んだ若き日の島田紳介さんは吉本興業の同期である明石家さんまさんやオール巨人さんの圧倒的な才能を目の当たりにして自分の凡才に打ちひしがれたそうです。しかし彼はそんなことでは挫折せず、数多くの才能あるライバルたちに先んじて自分たち(紳介竜介)が売れるために何をするべきか徹底的に考え、行動に移しました。そこで編み出したのが「XとYの方程式」。
XとYそれぞれの意味は以下の通りです。
X=自分ができること(他とは違う自分独自の特色)
Y=世の中が求めていること(トレンド)
競争の中で勝ち残り続けるには『他とは違う自分独自の特色(=X)』と『世の中のトレンド(=Y)』をどう合致させるかにかかっており、一発屋たちが消えていったのはYが変化しているのに気づかず自分のXを進化させることができなかったからだと述べています。
上の図のグレーの部分をに常にスポットを当て続け、そこに向けて努力を傾ければ結果に繋がる(売れる)、逆にここからずれた努力を行っても売れることはないし、たとえ売れたとしても出会いがしらの事故のようにたまたまニーズにぶつかっただけなので一発屋で終わってしまうということ。
この法則は”芸能界で売れるため”だけに当てはまるものでしょうか?
むしろ、企業の競争戦略にこそ当てはまるような話です。
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「XとYの分析」
・XとYが交わる点こそが売れる場所。
・世の中が求めていること、足りないことを満たしてあげる。
・世の中が求めていることは時代とともに変わるから、自分自身も変わらないといけない。
・一発屋はXは分かっているけどYが動いていることに気づけない。
・才能だけに頼って勝負すると時に爆発的にヒットすることはあるが何度も続かない。
・売れているやつはみんな時代に自分を合わせている。
・「どういう漫才をつくるんや?」っていうのを一番最初に考える。
彼は同期の明石家さんまさんを例に取り、さんまさんの場合は「X」が特筆して優れているのみならず「Y」の動きにも敏感で常に時代に合わせて自分を変化させていてそれが器用だからこそ飽きられることなく第一線で活躍し続けられるのだと説明します。
確かにさんまさんは常に若い世代と積極的に絡むことで流行に対してつかず離れずの適度な距離を保っていて、自分自身と流行(=若手)とのWIN-WINの共闘関係を築いていることに改めて気付かされます。ダウンタウンも同じことが言えそうです。
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島田紳介さんにとって漫才ブームはたまたま遭遇した”交通事故”。放っておいたら一発屋のレッテルが貼られて即終了。
自分たちコンビを「自分たちは漫才は下手だった。同じ土俵で戦ったら負けるのはわかっていた」と自己分析し、並み居るライバルたちに凡人である自分が勝ち抜くためにはどのようなポジションを取ればよいのか、次のようにXとYを使って努力の方向性と量を計り実践に移すのでした。
■ Xの分析 = 自分自身が”おもしろい”と思うもの、自分に”近い考え方”だと思うことを徹底的に掘り下げ技を磨く。
■ Yの分析 = 過去30年のお笑いの歴史を徹底的に勉強。漫才のテープを写経のように文字起こししてヒットの構造を読み解く。
こうして笑いのパターンや構造を抜き出したうえで自分の漫才に応用し訓練を続けました。これを繰り返すうちに数々の賞を勝ち取り、自信をつけ、次第に漫才師としての立場を確立していくのです。
しかし彼はそこで分析を止めたりはしませんでした。「このままではサブロー・シローやダウンタウンには勝てない」とまだ新人時代のダウンタウンを引き合いに出して人気絶頂のうちに「紳介竜介」を解散。漫才から距離を置きます。
それからの彼はお笑いというフィールドを飛び越えて、俳優、情報番組の司会者、アイドルプロデュース、映画監督、M-1グランプリの企画&審査員長と芸能界のあらゆる分野にチャレンジしては成功を収め、はたまたレーシングチームの監督、飲食店の開業、不動産などなどカメレオンよろしく専門外の業界を股にかけ才能を花開かせます。その活躍はまさしく時代を映す鏡と言えるでしょう。
Xを高める努力を怠らず、なおかつYの動きに常に敏感に。
楽して成功し続けることはできないが、やみくもに努力したこところで時代にフィットしなければ成功するわけがない。
そんな彼も不祥事により今となっては過去の人、芸能界に再び姿を現すことはなさそうですが、彼の残した功績は受け継がれていて今なお多くの人の拠り所となっています。
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