忘れられない患者〜1〜

看護師6年していて、忘れられない患者が何人かいる。その人達を何回かに分けて振り返ってみる。

1人目は「未来はいつまでもあるものではない」と気付かされた患者がいる。私が看護師2年目のときに関わった患者である。

その人は20代半ばで子宮癌になった。若いため、病状の進行も早く転移もすでにしていた。性格は医療者にも明るく、わがままや愚痴などは一切言わない患者であった。

治療も出来る範囲を越えてしまい、「BSC」という方針になった。また「DNAR」も合意となった。

BSCとは…ベスト・サポーティブ・ケアといいガンに対して積極的な治療を行わず、症状などの緩和を行う治療のこと。(痛みがある時は、痛み止めを。吐き気がある場合は吐き気止めを。などその人が生活するのに苦痛なことを取り除いて日々を過ごしやすくする方法)
DNARとは…Do Not Attempt Resuscitationの略。急変時に積極的な治療をしないことをいう。(下のリンクから詳しい説明があります。)

私達、看護師はこのような患者さんをターミナル、または終末期と呼び「緩和ケア」を行う。

ターミナル期の患者は痛みを伴うことが多い。それに対して、フェンタニルやオキシコンチンなどの麻薬を使用して疼痛コントロールを行う。麻薬のため強い副作用を伴う。その副作用も体が慣れてくる時が来るので副作用が出たらそれに対しての治療を行う。

あと、1番大切にしていること。それは、患者がその人らしく生きること。

当たり前かのように聞こえるが、身体は癌で蝕んで辛い。死ぬかもしれないという恐怖。それは若ければ若いほど恐怖はとてつもなく大きい。

なぜ、死ぬのが怖いのか。

この患者は前述した通り、明るく弱音や愚痴をこぼさない患者だった。側から見たら、「死ぬことを受け入れている」と勘違いするだろう。しかし、そんなことはなかった。

亡くなったあと日記としていた携帯のなかには、

「まだ、死にたくない。まだやりたいことがたくさんあったのに。せめてあと3年生きたい。結婚だってしたかった。」など

このようなことが書いてあった。「死」は誰も経験したことがないし死んだ人から経験を聞くこともない。想像がつかないからこそ、怖い。そこに、後悔などが重なり余計に怖くなる。ただ、寝るだけも明日目が覚めないかもしれないという恐怖が出て寝ることすらもできない。

だからこそ、看護師して生きる時間が僅かの人に対して出来る限りのことをする。体調を考慮しながら。行きたい場所があれば、医療機材を貸し出しをする。食べたいものがあれば持ち込み食を可能にする。会いたい人がいれば、面会時間は関係なく出来る限り会って過ごしてもらう。

健康な時は、やりたいことがあっても「明日やればいいや。」会いたい人がいても「今度会えばいいや。」って思ってしまう。それは私もだ。

しかし、ターミナル期の患者はいつかも、今度も、明日もないのである。

今、その患者と関わった時と同じくらいの年齢になった。当たり前だが、「未来」を見据えて今を生きる。

漠然とであるが、結婚や仕事などしたいことや行きたい場所などは山ほどある。それが突然、未来が見えなくなってしまう。

この患者と関わり、「未来はいつまでもあるものではない」と学ばせてもらった。だから、きちんと「今」を大切にして生きる。私が私らしく生きる。当たり前なことなんて、この世の中ない。自分らしく生きることが大切なんだ。

今やりたいことをしてほしい。今、会いたい人に出来る限り会ってほしい。後悔をする前に。あなたらしく生きてほしい。

引用・参考



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