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1000字くらい短編「電気椅子」


唐突に、究極に意味わからない話を書きたいなと思って作ってみました。なんか読み返してて思ったんですけど、私は結構頭がやばいのかもしれないなぁと、ちょっと本気で心配することになってしまうようなものを書いてしまいました。これを投稿するのもなかなかやばいんですけど……次からはちゃんと意味のあるお話も作りたい(笑)



――初めて世界一周を成し遂げた人物は?――

たった一つの問題を前に、38名の生徒が戦慄していた。

「山崎、答えろ」

緊張した面持ちで、我がクラスの学級委員、勇気ある山崎翔太くんは手を挙げた。

世界史の教員、剛力は、まるで死刑執行を言い渡すように、山崎くんに厳かな眼差しを向ける。

「……えっと」

山崎くんはまだ答えに辿り着いていないのだろうか。

それとも分かっているが、剛力の厳めしい顔の剣幕に怯んで、声を指すことすら叶わないのだろうか。

山崎くんは緊迫した空気に耐え切れず、逃げ場を探すように目を泳がせている。

どちらにしろ、次の一言で彼の運命が決定してしまう。

山崎くんの体の震えが、クラス全体に本能的な恐怖を伝播させていくように感じた。

「どうした。分からないのか?」

剛力の押しつぶすような声に、山崎くんはびくっと体を震わせると、

神に縋るように懸命にかすれた声を絞り出した。

「……ヴァスコ・ダ・ガマです」

生徒の視線が剛力に集まる。

剛力はその注意を一身に受けるように瞼を閉じた。

小鳥の囀りが素知らぬ顔で沈黙を通り抜けていく。

剛力はゆっくりと目を開けると、瞳に痛烈な哀れみをたたえて言った。

「残念だ……」

「あ……」

山崎くんの顔がみるみる青ざめていく。

しかし、剛力は躊躇なく右手に持った赤いボタンを押した。

パチッ。

「ああああああああああああああ!!!!」

山崎くんの耳をつんざくような悲鳴が轟く。

1,2、3,4…………10

椅子の駆動音が止むと同時に、

悲鳴は突然ぶつっと途絶えた。

誰もが黙したまま、肩を竦めて俯いている。

シューーー。

椅子が獰猛な獣のような唸りをあげている。

何かが焦げたようなおぞましい匂いがゆっくりと教室を侵食していく。

山崎君は動かない。

不自然にもたげた首と、だらんと脱力した両腕。

彼はもう…………。

「次だ」

剛力は何事もなかったかのように教室を見渡す。

ごくり、と誰かが息を飲む音が聞こえた。

「なんだ、誰も答えんのか……」

剛力はわざとらしく悲哀の相を浮かべて

やや大げさな素振りでボタンをかざす

「いや! やめて!」

一人の女子生徒が悲鳴を挙げて、頭を抱える

パチッ。

「きゃああああああああ!」

…………

沈黙

…………

「私もボタンを押したくないのだよ。頼むから大人しくしていなさい」

やれやれと言わんばかりにかぶりを振る剛力だが、

その声には微かに愉悦の色が感じられる

「このまま誰も答えられないというのなら連帯責任ということになるが、依存はないな?」

剛力は歪んだ笑みを隠すことも忘れ

生徒たちの表情に浮かぶ恐怖を味わうように、

教室全体を見渡す

まずい

このまま誰も手を挙げなければ、全員この椅子の餌食になってしまう。

誰かが答える必要がある

しかし、私には問題の答えが分からない

それにここまで手を挙げていない時点で、

このクラスには答えが分かっている人がいない可能性のほうが高いと見ていいだろう

私は力強く歯を食いしばって決意する

「何だ宮地、答えるか?」

剛力の声は蛇のように私の喉元に絡みつく

「……はい」

「ほう、言ってみろ」

剛力は挑戦的な笑みを浮かべている

私の頭の中には一人の人物の名前が浮かんでいた

勝算は五分、なんとなく前回の進研模試で見た気がするのだ

だが、ここで間違えば、おそらく私は終わり

山崎くんの悲痛の叫びは聞こえていた。

女子生徒がヒステリーを起こしてしまうのも分かる

まさに絶体絶命。

しかし、例え勝ち目がなくとも、男にはやらなければならない時がある

クラスのみんなを救うため、

逃げ出すわけにはいかないのだ

山崎くん、私は負けないよ

硬い決意が心を燃やす

「……織田信長です」

「いやそれはないだろ」

雷のような速さで剛力は突っ込んだ


「そんなはずは!」

私は慌てて机を叩いて立ち上がる

多少確信があった。

だから、手を挙げた

世界一周を成し遂げたのは、たしか織田信長のはずだ。たぶん

しかし剛力は落第者に時間を与えるような人間ではない

見せつけるように赤いボタンをかざす

「残念だ、宮地……」

パチッ。

……

あれ?

……

「あれ?」

素っ頓狂な声をあげたのは剛力だった。

剛力は何度も乱暴にボタンを押す

パチパチ

……

パチ

……

何も起こらない

生徒たちの視線は一斉に私に集まる。

いや、私というよりは、先程立ち上がった私の机の椅子に……

私は慎重に振り向いて椅子を見下ろす

チチチチチ……

椅子は可愛らしい声で泣いていた。

「あ……」

なるほど、そりゃそうだわ

ガラガラ。

生徒たちは無言で、一斉に立ち上がる

床を轢く音は幾重にも重なり、

生徒たちの無言の覇気となって、

剛力のボタンを押す音をかき消して前進する

やがて音はやみ、沈黙が訪れる

クラス全員の視線は総じて剛力を捉える

「おい、お前ら席につけ」

剛力は、戦艦の総司令官のような厳粛さをその瞳に称えてているが、

その顔にはもはやなんの権威もない

「マゼランです……」

おもむろに一人の男子生徒が言った

剛力は目を見張る

そしてどこか遠くを見つめるような声で言う

「そうだ……よくやった、お前に教えることはもうなにもない」

それだけを残して、世界史の鬼教師、剛力……

……

剛力さんは去っていった

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