尊敬する著者の新刊の剽窃疑惑

昨日、非常に残念なことを発見してしまい、時間を取ってメモを作成した。

同時通訳者の関谷英里子氏は世界で活躍する通訳者である。アル・ゴア米元副大統領、ダライ・ラマ14 世、Facebok のマーク・ザッカーバーグ CEO など一流講演家の同時通訳者を務めた経験をお持ち(各種プロフィール参照)。

本業の通訳業以外にもNHK ラジオ講座「入門ビジネス英語」元講師であり、多くの英語勉強法に関する著作を発表されている方で、その著書の多くが日本で英語学習する上でとても参考になる良書が多く、(少なくとも)学習者から見れば名の知れていた著者であった。私も個人的にお世話になっており、英語学習で尊敬する方の一人であった。(瞬間英作文を学習に取り入れたことがある人は)

新著『英語はつながりで覚えよう (日本語) 単行本(ソフトカバー)』が先月発売され、同書は一時的に Amazon ランク 1 位を獲得した。

その後、この新著の中に掲載されている英文に剽窃の疑いが持たれ、最終的には出版社も認め、同書は書籍回収となることが決まった

Amazon レビューでも剽窃なのではないか?という指摘が出る。

画像1

そして出版社から書籍回収に関するリリースがなされる。(引用部太字は私が加えたもの)

拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
ディスカヴァーの書籍を日頃ご愛読いただき、誠にありがとうございます。
このたび、7月に刊行いたしました弊社の下記の新刊書籍『英語はつながりで覚えよう』(関谷英里子著 ISBN978-4-7993-2623-7)におきまして、他書に掲載されている例文を出典を明示せずに使用していたことが判明いたしました。
小社では、詳細についてなお確認・検討を進めておりますが、複製権又は翻案権の侵害にあたる可能性も考慮し、まずは早急に当該書籍につきまして販売停止・回収の措置をとらせていただくことといたしました。
今回制作した初版はすべて絶版とさせていただくとともに、当該例文をすべて見直し、改訂した新版を制作いたします。10月以降、年内の販売を予定しております。
今後、 同様の事態が発生することの無いよう、 執筆者への引用・転載ルールの周知、原稿入手および編集段階においての確認作業の強化に努めてまいります。
読者の皆様、書店様、および関係者の皆様には、多大なご迷惑をおかけいたしますことを深くお詫び申し上げますと同時に、本書の回収につきましてご協力を賜りたくお願い申し上げます。
■回収対象書籍
版元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
書籍:英語はつながりで覚えよう
著者:関谷英里子
定価:1500円+税
ISBN:978-4-7993-2623-7

【ご購入された読者様へ】
ご返金または改訂版との交換をいたします。
お手元の当該書籍につきまして、①お名前、②ご住所、③郵便番号、④電話番号、⑤ご返金または交換のいずれをご希望されるか、左記ご記入のうえ、送料着払いにて下記宛でお送りいただきますよう、お願い申し上げます。
〒102-0093
東京都千代田区平河町2-16-1 平河町森タワー11F
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
『英語はつながりで覚えよう』返金または交換係
電子書籍をご購入された読者様へはアップデート次第ご案内いたします。

著者はブログ記事を全て削除した上で、以下のコメントを出すに留めた。

著者は Twitter で最初に指摘をされていた(であろう)学習者をブロックするという手段で対応している。

一連の対応はとても示唆的である。

関谷さんは、この書籍だけ手を抜いてコロケーション辞書から例文をそのままそして大胆に利用してしまったのだろうか?だとしたらどういう理由で?コロナ禍で現業や講演会などの収入が減って、温めていた新しい本のアイディアを形にするために急いで書き上げたのか?だとしたら、プロ意識はどこへ?それとも今までの例文も少しずつ別の著者が作成した例文を使っていたのだろうか?だとしたらもう信用できない?

関谷さんはこの例文をコロケーション辞書から剽窃した著作をベースにして各種メディアで取り上げていました。

「コロケーション(collocation)」で、ビジネスパーソンの英語をレベルアップ!コロケーションとは「よく一緒に使われる単語の組み合わせ」を意味します。ノンネイティブながらネイティブと遜色なく英語を操る人は、違和感のない自然な話し方、つまりコロケーションがネイティブスピーカーのそれと同じだったのです。たとえば、日本語で「危機感を感じます」というと、コロケーションができておらず不自然な印象を与えます。正しいコロケーションができていれば「危機感を覚えます」となり、自然な言葉が話せている状態です。本書では、今までになかった「ビジネス×コロケーション」で、ビジネスパーソンの英語力を新しい形でレベルアップ!

参考までに確認した関谷さんのその他インタビュー記事。

ディスカヴァー社の担当編集もなぜここまで大規模なものを見抜けなかったのだろうか?作者を信頼して確認作業を怠った?それとも締め切りがタイトなプロジェクトだった?

今回の一連の話は本当に残念だが、自分がアウトプットする際の他山の石である。おそらく最初の一歩はとても小さかったのだと思う。一部の構文を借りたり単語を入れ替えたりしただけだったのだったのかもしれない。ただ、例文に一切手を加えず構成・順番まで全く同じという今回のレベルまで達するには、過去でも同様のことは相当に繰り返していたと思う。そうでなければ、なぜ今回ここまで大胆に剽窃行為を行ったのか説明が難しい。知らず知らずのうちに深みにたどり着いたと考えれば、やはり最初の一歩を踏み出さない規律を持つ必要があると感じた。

なお、同書は例文を全て見直して今年10月以降に発表される予定とある。新しい例文を仕入れたい英語学習者にとっては非常に有用な学習書になるとは思うが、実際にもう一度手に取るかどうかという意味で、私個人としては悩ましい点である。


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