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流浪の月 読了

流浪の月を読んでもっとも強く思ったこと、

それは、「善意」ってなんだろうということだ。


流浪の月は2020年本屋大賞受賞作である。作者の凪良ゆうさん、初めて出会う作家だった。私の知らない本の世界はまだまだあるし、まだまだ知らない作家の方に出会えるというのは幸せなことだなと感じた。

(以下、ネタバレを含むので、未読の方はお気を付けください)

話がそれてしまったが、本作の感想に入ろうと思う。

流浪の月を読んでいて、ずっと心が痛かった。しかしそれは自分が更紗や文の側から話を見ているからだということも同時にわかっている。もし彼らの側から見ることができていなかったら、私も更紗にどんどん遠ざかっていくと思われる側の人間以外の何者でもないだろう。もし彼らの心情を知らされないまま、情報が目に見える現状のみだったならば、私は心が痛くなったのだろうか? いや、痛くはないし、むしろ彼らを非難していたに違いない。だからこそ自分の心が痛むのも勝手すぎておこがましい気もするのだ。

「事実と真実は違う」という言葉の意味が本作を読んだことで初めてわかったような気がする。と同時に自分はいつも物事を一面からしか見ていないのだと痛感した。自分の考えの足りなさを痛感させられる、痛感させられるほど良い本に出会えたなと思える。その人がどうあるべきかなんて、それが正しく世界の意見の総意であるかのようには言えないのだ。

ーーー「彼が本当に悪だったのかどうかは、彼と彼女にしかわからない」 (流浪の月,p299)

人が唯一安心できて穏やかになれる場所。それは世界の人にとってあるべきものだと思う。あるのなら賞賛とまではいかずとも、責められるものではないはず。というか責められるなんであってはならないはずだ。でも人の「善意」とやらによってそれすらも破壊されてしまう。唯一安心できる更紗と文の関係は、人の「善意」によって引き離されてしまうのだ。だから初めて疑問に思った、善意ってなんだろう?と。

ーーー「ちがう。そうじゃない。わたしは、あなたたちから自由になりたい。中途半端な理解と優しさで、わたしをがんじがらめにする。あなたたちから自由になりたいのだ」(流浪の月,p266)

二人の進む道は、客観的には不幸なのかもしれないけれど、二人にとってはものすごく穏やかで幸せなのだろう。お互いに初めてつかみ取った安寧なのかもしれない。

忘れられない一冊になるだろう。最後に願うのは、二人に祝福を。穏やかにあれということだけだ。

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