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醜悪なもの

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創作短編小説「醜悪なもの」計5話まとめ
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[短編小説]醜悪なもの#5

[短編小説]醜悪なもの#5

 どろり、先程まで生きていたアンドレの体は上半身下半身が二つに分けられ地へ落ちていく。殺すために動いていたからか、はたまた攻撃を受けるべきと判断したのか、爪痕が顔の右上から左下にかけて血を流す。
 頬を滑る己の血に指を這わせぬぐい取る。これで私は処刑人ですらなくなった。アンドレを殺した時私の役割は、王によって与えられた役割は終わった。ひどく満足そうに笑っていたアンドレがあまりに気持ち悪くて、死んだ

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[短編小説]醜悪なもの#4

[短編小説]醜悪なもの#4

 ――数ヶ月後。
 脱走してからあっという間に仲間が増え、そして死んだ。ゲオルグ王も本気で我々を殺しつくすつもりらしい。ひどく目立つ我々の見た目はすぐに人々から町中へ、国中へ情報が巡る。厄介だが同時に事を進めやすかった。なにより、実験され人じゃなくなる前に連れ出したダニエルが動きやすくなる。ダニエルは私が望むならと、情報を収集して、時には気が緩んだ人々を刺し殺し。我らを街中へ手引きした。
 ダニエ

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[短編小説]醜悪なもの#3

[短編小説]醜悪なもの#3

「久しいな」
 黒を基調に赤と白、金をアクセントに加えた豪華な服で身を包んだ目の前の男。この国タルドリアの国王に膝をつき首を垂れ返事をした。
「お久しぶりです、国王陛下」
「ああ、所で科学者たちが大慌てで“実験体”が逃げ出したと騒いでいるのだが」
 生唾を飲んだ。分かっていたとも、陛下がこんな島に今のタイミングで訪れるとなればそれは今回の我々管理人の失態を科学者共が陛下に大声で伝えなんとか我ら二人

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[短編小説]醜悪なもの#2

[短編小説]醜悪なもの#2

――タルドリア王国[実験島:管理人室]アンドレ脱走前。

 書類を見る音しか聞こえない静かな管理人室に、勢いよく扉を開ける音と共に若く可愛らしい女性の己を呼ぶ声がする。
「おはようございます。デニス管理人」
 振り向かずに私は挨拶を返した。
「ああ、おはよう」
 ぶっきらぼうにそう言って、また書類とにらみ合いをすると同僚のニーナは少し困ったように言葉を続けた。
「デニス管理人は相変わらず、すごくま

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[短編小説]醜悪なもの#1

[短編小説]醜悪なもの#1

 海と面した大陸に存在する国家タルドリア。緑豊かで海から見える大きい島が木々の揺れる音、波の音を引き立たせ住民たちの心を癒していた。その島は「実験島」と呼ばれ、人々は口々にこう言った。
「あの島は我らが国家の技術の源」
「知識人たちのみ入れる、技能の訓練所」
「あの島は我が国の象徴である」
 住民も、王もタルドリアに住む者たちは実験島を誇りに思っている。

 なんっておかしな話だろう。タルドリアの

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