大殿筋の機能低下が生じると… ~段階的負荷、トレーニングの工夫と注意~
大殿筋は身体の中でも最も大きい筋断面積を持つ筋肉で、身体の中で一番強力な力を発揮するとも言われています。
大殿筋の強力な力は股関節の安定性に寄与するだけでなく、腸脛靭帯を介して膝関節の安定性や胸腰筋膜を介して腰部の安定性にも寄与しています。また、バイオメカニクスの観点から足関節の安定性にも寄与していると述べられています。
そのため、大殿筋の機能は体幹~下肢の安定性においてとても大切になります。逆に考えると、大殿筋の機能不全が生じると体幹~下肢の安定性が低下し、多岐の障害に寄与すると考えられます。
今回の記事では、大殿筋の解剖から役割を知り、大殿筋に機能不全が生じる原因や大殿筋へのアプローチ方法を考えていきたいと思います!
1.大殿筋の解剖と役割
大殿筋はかなり多くの組織と付着します。なかでも、胸腰筋膜や脊柱起立筋腱膜は腰椎の安定性を考える上で大切になり、大腿筋膜は下肢の安定性を考える上で大切になります。もちろん、体幹や下肢の安定性以外に股関節や脊柱の動きにおいても大殿筋は重要な筋肉になります。
大殿筋の主な役割は3つあります。
・局所的なスタビライザー
・全体的なスタビライザー
・局所的なモビライザー
それぞれの役割について解説していきます!
1-1.局所的なスタビライザー
大殿筋の役割の1つ目は”局所的なスタビライザー”が挙げられます。大殿筋は長背側仙腸靱帯や脊柱起立筋腱膜を介して、L3腰椎まで付着しています。大殿筋は脊柱起立筋や胸腰筋膜ともに腰部の安定性に寄与し、コルセットの役割、腰椎屈曲を遠心性に制御する役割があると考えられます。
大殿筋の最大下等尺性随意収縮が仙腸関節の剛性を増加させることが報告されており、特に大殿筋上部線維は、骨盤ベルトののように仙腸関節の圧縮力を生成し仙腸関節の安定性に寄与すると考えられています。
そして、想像しにくいかもしれませんが、大殿筋は股関節前方の安定性にも関与しています。腹臥位で股関節伸展する際に、大殿筋からの力の寄与が減少すると、股関節前部の力が増加したと報告されています。
腹臥位での報告であるため、大殿筋の機能低下により立位や動作時に股関節前方へのストレスが増大するかはわかりませんが、大殿筋の機能低下は股関節前方の不安定性や疼痛の原因の1つとして考えられます。
1-2.全体的なスタビライザー
大殿筋の役割の2つ目に”全体的なスタビライザー”が挙げられます。大殿筋は他の臀筋 (中臀筋および小臀筋) と連携して機能し、重力による股関節内転トルクに対抗して股関節を安定させ、股関節内転と内旋を遠心性に制御することで適切な脚のアライメントを維持しています。
また、大殿筋は大腿筋膜張筋と腸脛靭帯への付着を介して、脛骨外旋の作用があります。大殿筋は大腿筋膜張筋と共同して働くことで、過剰な脛骨内旋を制限し、ACL損傷を防ぐ重要な役割があると考えられています。
アライメントの維持だけでなく、大殿筋は歩行の立脚期やランニングなど仙腸関節に剪断力が生じる際に活動し、歩行の安定性や下肢と体幹の間の効果的な荷重伝達を助ける可能性があります。
大殿筋の機能低下が生じている場合、踵接地時の慣性力に対抗することができず、体幹の前屈が生じたり、立脚期に重心を股関節よりも後方に移動させ靱帯性に股関節を安定させて歩行(大殿筋歩行)を行います。
1-3.全体的なモビライザー
大殿筋の役割の3つ目が”全体的なモビライザー”になります。大殿筋全体として股関節伸展・外転・外旋に働きます。さらに、大殿筋は上部線維と下部線維に分けて考えられており、大殿筋上部線維は中臀筋と同様に股関節外転筋として働き、大殿筋下部線維は股関節伸展筋として働くと報告されています。
また、大殿筋は長背側仙腸靱帯を介してL3まで付着し、腰椎伸展モーメントを持ちます。しかし、腰椎伸展の力は強力ではないため、脊柱起立筋の同時収縮が必要になります。
大殿筋はあまり腰椎の伸展には関与しないかもしれませんが、大殿筋は脊柱起立筋が疲労するとより活動的になり、脊柱起立筋の機能を代償する役割もあります。そのため、大殿筋の機能は特定の腰の怪我から保護するのに役立つ可能性があります。
では、大殿筋の機能低下が生じているのはどんな時なのでしょうか?
2.大殿筋の機能低下が生じる理由
ここから先は
週刊!リハマガ! ~整形リハビリの考え方~
マガジン名を変更し、内容もリニューアルしています!リニューアルした記事は値上げしますので、早めの登録がおすすめです! このマガジンでは運…
ありがとうございます(#^.^#)