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デンマークで1年暮らして気付いたこと その2

デンマークに1年とちょっと住んで思ったことを書き留めてます。その1の続きです。

その1を書いた後にちゃんとその2を書いたぞ!えらい!


ちょっと今回はデンマークの社会システムに触れる部分が多いので、気をつけましたが間違いなどがあったら教えてください。

5.働く人向けのデザイン

デンマークに来て日本とかなり違うなぁと思ったことのひとつに、労働環境のハード面でのデザインがあります。

日本は「ホスピタリティ」、「おもてなしの精神」の名の下に、消費者が心地よく感じるように諸々がデザインされているように思います。

2つほど例を。

まずはスーパーのレジ。日本だと「お客様」はカゴに欲しいものを入れてレジに持っていくと

・店員さんが姿勢良く立って待っていて
・「いらっしゃいませ」と場合によってはお辞儀もしてくれて
・カゴを置くだけで中からものを取り出してスキャンして
・全てかごに戻し、値段を教えて

くれます。

一方こちらではこんな感じ。

本当は人がいるところを撮りたかったんですが、そうするとかなりの人に許可とらないといけなかったので無人です…

赤い矢印のところに椅子があり、そこにレジ係の人が座っていて(暇な時は携帯いじってる)、お客さんはカゴから商品を取り出して緑色の矢印で示したベルトコンベアーに置きます。

すると自動で商品がレジの前に流れていき、そこで係の人がスキャンする。奥にもさらにベルトコンベアがあり、スキャンし終わった商品はそこに流されるので客がそこからピックアップする。

という流れです。

これどんどん商品流れてくるんで、割とクイックに袋詰めしないと次の人の商品来ちゃうんですよね。


もうひとつはゴミの収集。日本だとゴミ袋に入れて外に出しておくと、ごみ収集の係の方が「手で」ゴミ袋を回収してゴミ収集車に入れていってくれます。もちろん手袋はしてますが。

こちらだと、各アパートごとにゴミのボックスがあり、住人はそのボックスにゴミを(ゴミ袋にまとめた後)入れておきます。


ごみ収集の日になるとトラックがやってきてそれを回収してくれる、というところは日本と一緒なのですがこちらはごみ収集のトラックがちょっとかっこいいです。

こんな感じ(モザイク処理がクソコラみたいになっててすみません。)

かっこいいですよね。

所定の位置にゴミボックスを置いてスイッチを入れると、収集車がそれを持ち上げてひっくり返すことでゴミが回収される仕組みです。

ゴミ袋に触れなくていい!

というのが利点ですね。

まぁ問題はこれ、ゴミボックスが収集車にぶつかる音、ゴミが落ちる音、収集車のアームのモーター音でめちゃくちゃうるさいんですよね。。。特にビンゴミ。。。回収朝なんで、寝たい時は辛い。。。

とりあえずスーパーのレジとゴミ回収が、日本流と大きく違ったので紹介してみました。

これらの違いは、ハード面での労働環境が誰のためにデザインされているのかによるものだと思います。

ゴミ回収は結構うるさいので正直日本のやりかたにして欲しいのですが、日本のスーパーがこのデザインを新たに採用したところで、果たして誰か損するんでしょうかね。
レジの人は何時間もずっと立ってなくて良くないですか。

こういうのとは対照的ですよね。まぁギャグなのかも知れないけど。

ただこちらで暮らして、なぜ外国人が日本の文化に感銘を受けるのか、その一部は共感できるようになった気がします。

こちらだと時たま、お店での対応が割とぶっきらぼうだったり、だるそうに対応されたりということがあります。

慣れてしまえばなんてことはないのですが、外国人として来たばかりで右も左も分からない時分は、店員が機嫌悪そうにしていると「もしかしたら間違ったことをしているのでは」「実はチップを渡さないといけないのでは…!」とか不安になったりしていました。

それとは対照的に(大抵の)日本のスーパーでは嫌な顔一つせずに笑顔で対応してくれて、「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」などハキハキと言われる。

初めて訪れた国で果たしてちゃんと買い物ができるかなど不安ななか、こんな対応をどこでもされたら、それは感動しちゃうよねと思いました。

そういうサービス精神それ自体はとても素敵だと思います。とはいえもうちょっと労働者向けに社会がデザインされてても良くないですかね。

6.モラルでなくシステムで街を綺麗に:Pant システム

デンマークだと多くの飲料を買うとその容器(カン、ビン、あとペットボトル)に対してデポジットが取られます。

飲み終わった後、もちろんそれらをカンゴミなどとして捨てることは可能ですけど、基本的にみんな家である程度貯めて、気が向いたらお店に持って行って回収してもらいます。デンマークだとこれはPantシステムと呼ばれてます。(ヨーロッパでは割と普通のシステムらしい)

こんなやつにどんどんカン、ビン、ペットボトルを入れます。

デポジットの額は3つで、Pant A, B, Cの順で1 kr., 1.5 kr., 3 kr. と高くなって行きます。デンマーククローナは1 kr. あたりだいたい17円なので、Pant Cだと50円ちょっと取られることになって、まぁ返してくれるなら返して欲しいですよね。

値段表はこんな感じ

で、Pantの種類はだいたい大きさと関係している…気がする…

ちなみに一番左のコーラの値段は一番右のコーラのPantと同じ。

で、このシステムの何が良いって、このシステムが街を綺麗に保つ役割の一翼を担っているということです。

端的にいうと、このPant カン、ビン、ペットボトルを回収することでお金を稼いでいる人がいます。

家で飲みものを消費した時はいいけれど、外で飲んだ時はさすがに家まで持って帰るのは面倒。

周囲にゴミ箱があれば良いけれど都合よく常にあるわけではないので、そこらへんにポイ捨てしてしまう人も多いです。

ただそれらにはPantマークが付いているので、それはゴミではなく、ある種「お金」をポイ捨てしているようなものです。

となればそれを集めてまとまったお金にしようというのは単純だけどまぁイケてるアイデアだと思います。

実際、Pant Cを1日89本集めることができれば、土日完全に休んでも月10万円稼げます。

しかもPantはスーパーのレジで現金をもらうか、会計から引いてもらう形なので収入としての記録が取れず、おそらく丸々手取りになります。

その1のノートでも紹介したように、デンマークの食料品はそこまで高くなくて、調べた範囲で豚の最安価は90円/100gでした。

なので、Pant C (大きいペットボトル)を2本集めれば100g分のお肉が買えちゃうんですね。


そのため空き缶空き瓶が道端にポイ捨てされたまま、という光景はなかなか見ません。(もちろん街の清掃もありますけど)

とくに春〜夏にかけて多く行われる大型イベントではゴミの回収が通常のゴミ箱では到底間に合わないので、Pantを求めて多くの人がやって来ます。というかゴミ箱に入ってる分も回収されます。

イベントの終盤には、まだビール飲み終わってないのに「もらって良い?」と聞かれるほどです。

Pantシステムの本来の目的は資源の回収であり、街の美化は全くもって副次的な効果なのだとは思いますが、ゴミを換金可能にする、というのはとても良いシステムだなと思いました。


日本では、ゴミはゴミ箱に捨てる、なければポイ捨てはしないことがモラルだと考えられ、まぁ諸外国に比べれば守られていると思います。
ハロウィーンとかをのぞいて。

こういった文化的背景がある日本では、このPantシステムの副次的効果はあまり意味がないでしょう。

しかしその一方で、2020年のオリンピックを控えて「ゴミ捨てのモラル」問題をどうするのか、訪日外国人にそれを強要しても果たして意味はあるのか、という議論があります。

このシステムを1から導入するのは相当にコストがかかるので良い案だとは思いませんが、モラルだけに頼らず自然と街が綺麗に保たれるシステムを考えるための良い参考にはなるのではないかなと思いました。


===一応蛇足です===

ちなみに、これを専門にやって、これだけで100% 生活費を稼いでいる人がいるのかとかは知りませんし、仕事のない人がこの回収作業をやらざるを得なくなるのではないかといった議論が有り得ることは重々承知してますので、Pantを礼賛しているわけではないです。

ただ美徳やらモラルやら、美辞麗句を並べて思考停止するより、異文化の人ともうまくやっていく方法を考えた方が生産的だろうと思って書いてみました。

7.医療費無料は良いシステムなのだろうか

北欧と聞いて「教育費、医療費無料」を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。

僕は正直なところ、まだこちらで医者にかかったことがありません。なので以下の話は実体験ではなく聞いた話や、住民登録時に受けた説明です。

デンマークではCPRナンバーという、日本におけるマイナンバーのようなものがあり、広く利用されています。基本的に銀行口座、携帯番号、住居、その他諸々がこれとひも付きます。

CPRナンバーは住民票の役割も果たすので、引越しの度に登録情報の変更が必要です。オンラインで出来るので簡単ですが。

住所を登録するとそれをもとにして、自分の「かかりつけ医」が指定されます。

彼らは幅広い医療知識を持っており(人によるでしょうけど)どのような疾患であっても、基本的にはまずかかりつけ医の診断を受けます。彼らが専門医の診断が必要と判断して初めて、専門の病院に行けます。

ただ基本的に、医療費負担は政府の財政を圧迫するので専門医への紹介はそう簡単にされません。かかりつけ医の受診すら数日単位で予約待ちとなることがあるそうです。

そもそも、インフルエンザや風邪などの単なる発熱は、かかりつけ医の診断すら受けられません。僕が一度も受診していないのはいまのところ通常の発熱以上のものを幸いにも発症していないからです。

発熱は市民の方も「寝てれば治る」と思ってますし、日本では発熱で病院に行くということを友人に話したら、「それは社会にとって金がかかりすぎでよくないだろ!」とかなり驚かれました。

まぁ実際、ウィルスに直接作用する薬はないですし、十分な抵抗力があれば寝て治す以外に方法はないのでそれは良いと思います。

むしろ問題なのは、受診頻度が少なく、若いうちは定期検診など無いに等しいため、ガンなどの重篤な疾患がかなり後期のステージまで進んでからでないと発見されないということです。

実際、ガンによる死亡率が世界1位高い国はデンマークです。

ちなみに、この記事では日本は疾患、事故による死亡率が一番低い国と紹介されています。これはかなり対照的ですよね。


デンマークの社会システムは合理的な部分も多いですが、とはいえ同じ人間なので「医療費無料」「労働時間が短い」といったことが何のデメリットもなく実現できるはずがないです。

実際のところ、いくつかの大きな企業は社員がお金を出し合って医者を雇っているそうです。これって保険料を二重に払っているようなものですよね。


北欧の医療費無料制度は「成熟した社会システム」の一つの形として日本で賞賛されることがままあります。

しかし医療費無料の代わりにこちらでの受診機会は少なく、疾患の発見が遅れるリスクもあります。

また「短い労働時間」は当然、「短い受診時間」「長い受診待ち」と同義です。

一方で、日本の医者は多忙を極め、その労働環境は劣悪。ただ受益者の側からするとそのアクセシビリティは世界一。

過重労働は当然是正されるべきだと思います。しかし一方で、重篤な疾患を早期発見するためにアクセシビリティは欲しい。

「どっちがいいか」という二元論的な議論ではなくほどよいところを目指せればいいですよね。










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