死んでから始まる物語。◀オリジナル小説 エピソード7▶

「わ、私は自分から死を選んだ。皆と違って。」

誰も責めることは無かった。

「私ね、妹がいるの。頭も良くて、スポーツも得意で1年生で生徒会にも所属して。いつも周りは私と妹を比較してたよ。姉は出来が悪いみたいに見られて。まあ、間違ってはいないんだけどね…。お父さんもお母さんもそんな妹を誇りに思っていた。家での会話は勉強とか生徒会の活動とか学校のことばかりで。私なんか小・中学校の時からいじめられてたから周りの目が気になって仕方がなかった。誰も私の事なんか見ていなかった。深唯奈の姉ってだけでストレスもプレッシャーも辛くて。家でも学校でも周りは口を開けばの深唯奈のことばっかりで。もう、疲れたんだよ。そして今日、首を吊って自殺した。…何か私だけ場違いだね。自分から命投げ出したなんて。」

「何言ってんの!」

怒ったように言ったあやめは泣いていた。

「たしかに、自分から死ぬのは良くないことだけど、それ以上に辛かったんでしょう?お願い。1人で抱え込まないで……」

「俺も、弥与唯の立場だったらいずれ自分から死んでたかもしれない。我慢の限界の器は人それぞれだ。大きさも溜まる量も違うんだ。弥与唯はそれが今日だったってだけだ。」

湊…。

「弥与唯。今までよく堪えたよ。よく頑張った。」

聡…。

「弥与唯。辛いかもしれないけど、…弥与唯の家に行かないか?何かが変わる可能性もあるんだ。決して無駄なことではないと思うんだよ。」

聡の意見に皆が私を見る。

「うん、行こう。」

電車で移動して歩いて数分後。

家にはお父さんの車があった。
仕事に行ったはずなのに。
深唯奈の自転車もある。
ああ、気づいてもらえたのかな?私のこと。


「準備は大丈夫?」
あやめの言葉に私は首を縦に振った。

家のリビングにはお父さん、お母さん、深唯奈がいた。
皆は泣いていなかった。
無表情だった。



「弥与唯。何で自殺なんか…。」
やっぱり、自殺の理由は分かってなかったんだ。
遺書も書かなかったからな。

「弥与唯。高校では上手くいってると思ってたのに。」

「……お姉ちゃんね、中2の秋に言ったんだよ。
お姉ちゃん何か悪いことしたのかなって。その時ねお姉ちゃん笑ってたんだよ辛くて苦しくて泣きたいはずなのに。その時の出来事が頭から離れなかった。その時決めたんだ。私が守るって。」
覚えてたんだ深唯奈。
いじめがひどくなってきた時、無意識にそんなことを深唯奈に言った。

「そのために……、お姉ちゃんを守る為に勉強も部活も頑張ったのに生徒会の一員にもなったのに…。意味なかった……。」

…え?
自分のためじゃなかったの?

私のため?なんで?

そう聞きたくても、聞くことは出来ない。
死んでから初めて思う後悔。

「最近家に帰ってきても上の空で部屋に閉じこもりがちになるし。学校のこととか聞きたくても傷つけるんじゃないかってなんも聞けなかったのよ…。」

お母さん…。

「私にとって自慢のお姉ちゃんだった。いじめられてても1人で立ち向かうくらい強くて。誰よりもかっこよかった。…そう思ってたことお姉ちゃんに言えなかった……。」

「なんも力になってやれなかった……父親なのにっ…。夏休みに弥与唯が行きたがってた旅行にみんなで行くつもりだったんだがな。17歳か…まだ、早すぎるよ
…。」

お父さんは涙を流した。
私はお父さんが泣く姿を初めて見た。

お母さんも声を殺して泣いていた。

深唯奈は、私が去年プレゼントであげたハンカチを握りしめ"お姉ちゃん…"と小さな声で泣いていた。



「深唯奈は愛されてたんだね。」

「そうだな。…ただ弥与唯を傷つけないように気を使ってたんだな。」

「大切だからこそ、慎重だったんだ。愛されてたんだな、弥与唯。」

皆の言葉を聞いて涙が溢れ出した。


何もかもが滲んで見えた。

ああ

馬鹿だ私。

なんも気づけなかった。

私も愛されてたんだ。

皆と同じように。
死んでから気づくなんて。

「お父さん、お母さん、深唯奈、ごめんなさいっ……ずっと大好きだよっ!」

死んでから気づいた後悔。
もう、戻ることは出来ないんだ。
時間を巻き戻すことなんてできない。
ちゃんともっと向き合うんだった。
私は弱虫だ。



"ごめんなさい……。そしてありがとう、バイバイ!"



最後に家から出た私は皆の背に口を開いた。



「私、初めて友達って心から思える友達ができた。高校に入っても上辺だけの友達関係しか作れなかったから。いつ裏切られても、捨てられても、いじめの対象になってもいいように。自分がそうなった時傷つかないように……。でもね!皆に出会って初めてちゃんとした友達だって思えた。上辺だけの見せかけの……偽物なんかじゃなくて本物の友達って今なら胸を張って言えるっ!」

「バーカ!もうとっくに本物の友達だろ!」

「うん。友達。それ以外になんて言うのこの関係?」

「そうだよそうだよ!てか病院で友達になってくれたんじゃなかったの!?」


「いやいや、そういう訳じゃないんだけど、改めて友達になれて良かったって思えた。だからすごく嬉しい!」



空を見上げるといつの間にかオレンジ色に染っていた。


私たちはこれからどうなるのか分からない。


でも、不安はもうない。


皆に出会えたから。


家族のことを知れたから。


………後悔を知れたから。


何があっても立ち向かえる気がする。


それくらい皆に出会って、死んでから変わることが出来たから。




自殺。

事故。

いじめ。

病気。




私たちはいつどうなってしまうか分からない。



もしかしたら、「行ってきます」が最後の言葉になるかもしれない。


喧嘩した後の怒りの表情が最後に見る大切な人の顔かもしれない。


私がもし生まれ変わることができたなら、自分の命をしっかり抱えながら生きていきたいと思う。



命に嫌われないように……。


「ねえ皆!これからどこ行く?」

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