死んでから始まる物語。◀オリジナル小説 エピソード2▶
「んっ、あ…。え?どこ…ここ。」
周りを見渡すと、緑色のフェンス。
フェンスに近寄り周りを見渡すとそこには登校中の学生たち。
あの制服…うちの学校の?
「ん?あれ、もしかして自殺失敗!?死んだら普通、三途の川とかじゃないの?渡れてないじゃん三途の川!」
一人でブツブツ文句を言いながらフェンスの網に触れようとした。
「あれ?何で。触れない…。」
網を掴んだはずの手は空気のようにすり抜けていった。
「死ねたって、ことだよね…。」
一呼吸し屋上に寝転がる。
綺麗な青空…。雲ひとつない。
死んでからでもこの景色を見られてよかった。
「お!先客いたのか。って、聞こえてないか…。」
……?
ここにいるのは私だけ。
ドアの開閉音もなかった。
声の聞こえた方を向くとうちの制服を着た男子高校生がこちらを見ていた。
「誰?」
彼は一瞬泣きそうな顔をしながら驚いた表情で寄ってきた。
「お、お前!俺が見えんのか?わかんのか?霊感でもあんのか?」
「霊感はないけど一応見えてるよ?」
そう返答すると彼はその場に蹲った。
「よかったぁ。俺信じらんないと思うけど死んだみたいでさ。ここに来るまで誰に声掛けても気づいてもらえなくて。教室にも行ったんだけどダメで…。だから今、俺めっちゃ嬉しい。」
弱々しいか細い声。
男の人がこんなに弱っているのを初めて見た。
彼はいきなり立ち上がって手を差し出した。
「俺、海藤 湊。よろしく。湊でいいよ。」
「え、えっと。私は桐島 弥与唯。私も弥与唯でいいよ。」
それから数分、私たちはお互いのことを話した。
………一部を除いては。
彼は亡くなった時の記憶が無いらしい。
急な事だったらしい。
私は会ったばかりということもあり自殺したことは伏せていた。
もし打ち明けたとしても他人にとって、くだらない、馬鹿らしいの一言で片付けられてしまうのではないかと怖くなって言い出せなかった。
「どうする?これから。」
不意に湊が切り出した。
「うん。どうしよっか私たちまだここにいるってことは未練か何かあるのかな?それとも、死後49日間はこの世に留まっていないといけない的な?」
しばらく湊は考え込むとフェンスにもたれかかっていた腰を上げた。
「とりあえず歩こうか。」
「うん。そうだね。」
湊の言葉で私たちは学校の屋上を後にした。
「そういえば湊ってこの学校に通ってたの?」
「うん。3年だよ。いや、だったか…。弥与唯は何年だった?」
「私は2年。先輩だったんだ湊。」
「おう!後輩か、可愛いもんだなっ。」
「なにそれ!あ、ねえ、行きたいとことか会いたい人とかいないの?いつまでこの状況でいれるか分かんないから今のうちに行っといたほうがいいんじゃない?」
「確かにそうだな…。弥与唯はどっかある?」
「私は大丈夫。湊についてくよ。」
会いたい人なんていないよ。
思い出の場所も何も無いよ。
誰にも必要とされてなかったんだよ私は…。
「そ?わかった。じゃあ………。」
湊が会いたい人がいる場所。
江南高校。
私たちはそこに行くことになった。
「てかさ、幽霊になったんだから飛んだりする力もつけて欲しくない?」
ふと湊がそんなことを言い出した。
「あー!確かに。移動めんどくさいよね。まあ、疲労とかは感じないけどね。でも、電車賃タダだよ?」
「あ、それはお得だな!」
そんな他愛もない話をしながら私たちのいる学校から5つ隣の江南高校へと移動した。
「ここの学校来たことあるの?」
私が聞くと湊は、少し悲しそうに笑って見せた。
「ああ。親友の通ってる高校だよ。文化祭ん時来たことある。」
"もう会えないんだな、聡。"
湊が小さく放ったその言葉を私は、聞こえていないふりをした。
聞いてはいけない気がした。
湊が先陣を切り、歩いていく。
私はその後を黙ってついていく
3ー2の教室に着き湊は教室内を見渡した。
「いないな、聡。どこにいんだよ。」
そんなことを言っている湊をよそに私は違和感を覚えていた。
妙に生徒たちの空気が重苦しい。
みんな下を向いている。
「屋上に行ってみるか。時間潰してんのかもしれないし。」
「う、うん。そうだね。」
屋上に向かう途中もすれ違う人のほとんどが妙な空気を発していた。
鉄製の扉をすり抜け屋上へと出た。
「聡!」
湊はいきなり一人の男子生徒に向かって駆け出した。
感情的になった湊は少しばかり涙ぐんでいた。
「……。何泣いてんだよ湊。」
え?
私と湊は顔を上げた。
何で?
もしかしてっ、嘘でしょ……?
「聡っお前!」
「うん。死んだ。お前もか………。俺、湊には俺の分まで長生きして欲しいと思ってたのによ……。なんでお前が死んでんだよ。」
さっき言っていた聡という名前。
彼は湊の親友。
彼もまた……命を絶っていた。
「ごめん。俺ここから出たい。」
彼がそう言い私たち三人は江南高校を後にした。
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