見出し画像

歴代「降水量」ランキングを振り返る


【臨時作成】記事も合わせてご覧ください(2021/08/15作成)



【はじめに】
2020年6月6日、気象庁による日本の観測史上最大となる「10分間降水量」が観測されました。埼玉県「熊谷」で10分間で「50.0mm」という値です。

今回は、日本の「降水量」に関する歴代記録を振り返って、これからの梅雨シーズンに対する「水害」に対する意識を高めていきたいと思います。

なお、今回は、気象庁のホームページから「歴代全国ランキング」をもとに『各地点の観測史上1位の値を使ってランキングを作成』したものを引用・抜粋してお届けしていきます。(参考リンク ↓)

ちなみに、類似記事として、2020年8月に「歴代『最高気温』ランキング」の記事も作成しましたので、合わせてご参照下さい。

1.最大10分間降水量

まずは、歴代1位タイ記録が出た、10分間の降水量の歴代ランキングです。

1位 50.0mm 2020/06/06 埼玉県熊谷 ←New
1位 50.0mm 2011/07/26 新潟県室谷(アメダス)
3位 49.0mm 1946/09/13 高知県清水
 ( 42.4mm 1953/09/29  〃 )
 ( 40.0mm 1944/10/17  〃 )
4位 40.5mm 1983/07/24 宮城県石巻
5位 39.6mm 1952/07/04 埼玉県秩父

同ページでは同じ地点で「歴代1位」の値のみでランキングを構成しているため、高知県土佐清水(足摺岬)では40mm以上を複数回記録しています。

また、これまで単独での1位だった「新潟県室谷」はアメダス観測点です。アメダスは、統計開始(1976年)からの半世紀弱の記録しかありませんが、その他はいずれも気象台等で、それを上回る長い観測の歴史があります。

画像1

例えば、今回、日本歴代記録が観測された「熊谷」は、日降水量では1896年すなわち明治29年から記録が残されていて、「日最大10分間降水量」についても1937年(昭和12年)から80年以上のデータがある中での最大値です。

「熊谷」日最大10分間降水量ランキング
1位 50.0mm 2020/06/06
2位 35.8mm 1943/09/03
3位 35.3mm 1947/06/08
4位 34.3mm 1942/07/07
5位 33.5mm 2008/08/16

過去の上位3傑が、いずれも1940年代(戦中戦後期)だったことを思うと、それを70年以上ぶりに更新した今回の値が、いかに記録的なものだったのかお分かり頂けるかと思います。

画像にもありますが、僅か10分間に50mm(=5cm)もの大雨が降れば、冠水被害などが町中では強く懸念されます。

( 参考 )雨の強さと降り方 単位:1時間雨量(mm)
・10以上~20未満 やや強い雨
・20以上~30未満 強い雨
・30以上~50未満 激しい雨
・50以上~80未満 非常に激しい雨
・80以上~    猛烈な雨

普通であれば、1時間に50mmでも『非常に激しい雨』にカテゴライズされるのに、それが6分の1の10分間で観測されてしまっては、です。
ちなみに、気象庁HPの「天気予報等で用いる用語」からの抜粋です。

当然、10分間に50.0mmという歴代記録級の急な雨が、60分間続けば300mmと計算上はなるわけですが、そこまで強い雨が1時間も続く事は皆無です。

実際、今回も、10分間で50.0mmをピークに、1時間で64.0mm、日合計で74.5mmと、(それでも大雨には違いないのですが。)
100mmを超える雨量にはならなかったため、報道も小規模でした。

画像2

それでも、熊谷では先ほど画像をお示ししたとおり、住宅街が冠水した他、南下した雨雲による大雨により、線路や駅が冠水して運転を見合わせるなどインフラがストップするような影響を及ぼしましたし、
もし仮にこの雨が長引けば、(10分などの)僅かな時間で冠水して身動きが取れなくなってしまう危険性があります。
一瞬のうちに身の危険に晒される可能性もありますから注意が必要です。

さて、続いて、1時間降水量を見ていきましょう。

2.最大1時間降水量

「1時間に100mmを超える」と言えば、短時間での記録的な大雨の代名詞的に報道されますが、歴代ランキングはこのようになっています。

1位 153mm 1999/10/27 千葉県香取
1位 153mm 1982/07/23 長崎県長浦岳
3位 152mm 1988/04/28 沖縄県多良間(現在は観測せず)
4位 150mm 2016/06/21 熊本県甲佐
4位 150mm 1944/10/17 高知県清水

史上5度、1時間に150mmを超える事例が観測されています。このうち、1944年の土佐清水を除き、上位4例は、「アメダス」による観測です。参考までに、気象台等による観測データのみを抽出したものを下に示します。

画像3

(参考)アメダスを除く気象台等での1時間降水量
4位 150.0mm 1944/10/17 高知県清水
6位 149.0mm 2006/11/26 高知県室戸岬
10位 145.0mm 1972/11/14 和歌山県潮岬
12位 143.0mm 2013/07/28 山口県山口
13位 140.0mm 1947/08/28 千葉県銚子

平成に入って、2016年には熊本県甲佐で、国内17年ぶりとなる「150mm」の降水が観測されました。(ちなみに、この時には既にクイズスレで出題をしていて、これに関連したクイズを出したこともありました。 ↓)

この2016年6月の大雨では、熊本県を始め九州各地で記録的な大雨となり、大規模な冠水により複数名の犠牲者が出ています。冠水だけでなく、土石流などの土砂災害により被害が拡大したのが150mmでの直近の怖い事例です。

それに、大雨に慣れている地点と、そうでない地点(それこそ排水機能に劣る都市部など)では、同じ雨量であっても、キャパがまるで違いますから、そういったことも考慮する必要があります。

1982年の「長崎大水害」を受けて創設された「記録的短時間大雨情報」は、地点ごとに基準(1時間雨量歴代1位または2位の記録を参考)を設定。
この情報は、『大雨警報発表中に、現在の降雨がその地域にとって土砂災害や浸水害、中小河川の洪水災害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量であることをお知らせするために発表』されます。

同情報が発表された場合は『既に降ってしまっている』状態なことも多く、極力、この情報が出る前に対応することが求められます。

3.日降水量

そして、3つ目に『日降水量』を見ていきます。昨年(2019年)に、記録が更新されたのでご記憶の方もいらっしゃるかも知れません。

1位 922.5mm 2019/10/12 神奈川県箱根
2位 851.5mm 2011/07/19 高知県魚梁瀬
3位 844.  mm 1982/08/01 奈良県日出岳(現在は観測せず)
4位 806.0mm 1968/09/26 三重県尾鷲
5位 790.  mm 1976/09/11 香川県内海

このうち、「尾鷲」だけが気象台等。他は、すべてアメダスの観測点です。気象台等に限ったランキングを下に示します。

(参考)アメダスを除く気象台等での日降水量
4位 806.0mm 1968/09/26 三重県尾鷲
6位 765.0mm 2008/09/13  沖縄県与那国島
10位 726.0mm 1976/09/11 徳島県剣山(現在は観測せず)
20位 628.5mm 1998/09/24 高知県高知

画像4

歴代1位記録は、2019年10月12日、令和に入って更新されました。
神奈川県「箱根」で『922.5mm』という値を観測したのです。
気象庁が2020年に入って「令和元年東日本台風」と命名した『台風19号』がもたらした日降水量の観測記録です。

ちなみに、例えば、平成29年7月九州北部豪雨などのように、『解析雨量』で1,000m近い雨量が見られることが時折ありますが、設置された観測点での実測値として922.5mmというのが特異な訳ですね。

画像5

『東日本台風』では、箱根での922.5mmを筆頭に、その他の点においても「歴代1位」を軒並み更新しました。
大雨特別警報が13都県に発表され、東北・関東地方を中心に、河川の決壊や氾濫、浸水や土砂災害が発生し、多くの被害が出たことは、記憶に新しいと思います。

例えば、東日本台風でも複数見られたダムの『特例操作(緊急放流)』は、下流に大きな被害をもたらす危険性がある重要な情報となります。
記録的な大雨が長く続いた場合は、特に敏感である必要があります。

そのほか、大雨に関する警戒レベルや、特別警報など、大雨時に発表される情報が平成に入って複雑になってきていますので、各情報への理解を深め、どの程度の切迫性でどういった行動が求められているのかを適切に判断することが求められる時代になってきています。(リテラシー向上は共通課題)

おわりに

令和に入って「10分間」と「日降水量」の記録が更新されるなど、大雨に対する備えは引続き大切なことを確認してきました。

直近の例で言えば、2019年の東日本台風での「日降水量」の記録、2016年の熊本県での「1時間降水量」の記録、そして2020年の熊谷での「10分間降水量」での記録、それぞれ被害の様相に違いがあることも確認してきました。

画像6

特に平成の後半ごろから、観測結果の情報提供が進み大雨に関する情報量が一気に増えたような印象を受けますが、裏を返せば、情報を正しく判断することの重要性もますます高まっているとも言えます。

このランキングが更新されるような、また、ランキング外でも大きな被害がもたらされる大雨が観測されることは今後もあると思います。令和になって記録が2つも更新されたことに鑑みれば、これらの記録値が更新されていくという事態も想定されうるところです。

だからこそ、大雨等の災害に対する備え・意識を各人が高めていくことで、その被害を小さくしていくことが、平時の我々にできることだと思います。

というのを今回のまとめにして、記事を閉じようと思います。
これからの「梅雨・大雨のシーズン」を皆さんと共に、ではまたっ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?